第35話 魔法の選定

 色々と考えてみた結果、魔力量の増加がバレる可能性が思ったよりも低そうだとわかったので、当初の予定通り魔法の訓練に戻ることにする。

 まあ、まずは魔法の選定からになるのだけれど。



「おすすめというか、基本になるのは魔法の属性を決めてアロー系、ボール系、ウォール系の魔法を覚えることみたいだね。

 特に覚えたい魔法があるわけでもないし、教本のおすすめ通りにしておきましょうか」


 三度開くことになった教本を読み終えてつぶやく。

 最後まで目を通してみたけれど、特にコレというような魔法はなかった。

 まあ、基礎を学ぶための教本なので仕方ないことなのかもしれないけれど。


「それにしても属性かー。

 とりあえず、森の中で使うことになるだろうから火の魔法はダメだろうし何が良いんだろう?」


 この世界の魔法には、生まれ持った得意属性などというものはない。

 けれど、人によって発動させやすい属性というものはある。

 要は、魔法発動のためにイメージが重要になるので、その属性のイメージのしやすさが得意不得意につながってくるということだ。


「生活魔法の着火と造水、光球は使えるから、火と水、光の属性については最低限のイメージができていることになるのよね。

 まあ、どれも身近なものをイメージするだけだから、使えない人の方が少ないのだけれど」


 着火は指先に火を灯す魔法、造水は手元に水を作り出す魔法、光球は手元に光の玉を作りだす魔法になる。

 この中だと光球だけ難易度が高いものになるかもしれない。

 実用性を考えると、手元に作り出してから離れた位置に動かす必要があるから。


 そんなことを考えながら、実際に手元で魔法を順に発動させていく。

 どの魔法もそれなりに使う機会が多いこともあって、特に問題なくスムーズに発動された。


「生活魔法と呼ばれるような誰でも使える魔法だし、あまり参考にはならないか……。

 考えてもわからなさそうだし、実際に試してみた方が早いかな」



 という訳で、魔法を試すために屋敷の裏にある薬草畑へと移動した。

 魔素異常対策のために薬草を刈り取ったままにした広いスペースがあり、軽く魔法を試すにはちょうどいい場所だったので。


「アースウォール」


 ひとまず、魔法を試射するための的を魔法で作り出す。

 魔法を試すために魔法を使うという行為に疑問を感じないでもなかったけれど、気にしないことにする。

 いちいち的となるものを用意するのも面倒くさいし、目的は属性ごとの発動のさせやすさを知ることなので準備に使う分はノーカンということでいいと思う。


「思ったよりも頑丈そう?」


 魔法で出した壁をペタペタと触って確かめてみると、思ったよりもしっかりとしていた。

 イメージは土を固めた壁だったのだけれど、そういう外見的なイメージよりも、魔法の的にするという目的からのイメージが優先されて強度が強くなっているのかもしれない。


「まあ、的としての役割を果たしてくれればいいか。

 イメージに関する調整というかブレに関してはこれからの訓練でどうにかするということで」


 的となる壁に背を向け、距離を取るために歩き出す。

 気づけば薬草畑で草を食んでいたはずのオニキスが近くに来ていた。

 最近は畑のお世話以外だと森に行くことが多かったし、ここで何かしているのが珍しかったのかもしれない。


「今から魔法の試し打ちをするから、一応離れていてね」


 近づいてそう説明するも、オニキスは離れていく様子がない。

 どうやら、見学していくつもりらしい。


「見ているというのであれば、後で感想でも聞いてみようかな。

 まあ、最後まで見ていてくれるかは疑問だけれど」


 言葉としての感想はもらえないかもしれないけれど、好き嫌いくらいの反応はもらえるかもしれない。



 気持ちを切り替えて、さっそく魔法の試射に移る。


「ファイアアロー!」


 魔法がイメージしやすいよう、両手を突き出した状態で魔法を発動させる。

 両手からやや離れた位置に火で出来た矢じりが生まれ、的までの10数メートルの距離を一直線に飛んでいく。

 数瞬後、ドッという鈍い音を立てて衝突し、的に黒い焦げ跡を残した。


「……威力はないけれど、こんなものなのかな?」


 的の一部に焦げ跡を残すだけになった魔法の威力に不安を覚えたものの、基本となる初級魔法だということで納得しておく。

 そういえば、教本の説明にも弱い相手に使ったり、複数を同時に発動させて牽制に使ったりすると書かれていた気がするし。


「まあいいや、他の属性もどんどん試していきましょう」


 そう決めて、次々と試していくことにした。






「うーん、正直に言って属性ごとの差がわからなかったのよね。

 オニキスはどれが良かったと思う?」


 思いつく限りの属性で試してみたけれど、ピンとくるものはなかった。

 なので、結局最後まで見ていてくれたオニキスに聞いてみたのだけれど、残念ながら首を振られるだけだった。


「ダメか。

 じゃあ、テキトーに決めちゃいましょう」


 属性による発動のしやすさというものは感じられなかったけれど、矢としてのイメージのしやすさというものはあったので、それを基に決めることにする。


「候補としては、土か氷かな?

 別にアロー系の魔法しか使わないという訳ではないけれど、使う機会は多くなりそうだし硬くなるイメージがある方が良いのよね。

 ボール系に関しては範囲魔法だから少し違うけれど、ウォール系も壁としては固い方が良さそうだし」


 土の魔法については、的として使ったアースウォールが強度を証明してくれたように、安定して使えそうな気がする。

 氷の魔法についても土と同じように強度を強くできそうだし、こちらに関しては鍛えていけば水の魔法も上達するのではないかという期待がある。


「……よしっ、氷の魔法にしましょう!」


 手元で土と氷の塊を作り出し、気持ち発動が早かった氷を選ぶことにする。

 気のせいかもしれない程度でも発動が速い方が良いし、何より土よりも氷の方が可愛い気がするしね。

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