第31話 はじめての狩り

 魔の森に関する不穏な噂を聞いてしまった以上、さすがに帰ってきてすぐに狩りを始めるというのはためらわれた。

 なので、帰り際に考えていた通り、先に屋敷周辺の森の確認から始めることにした。



「まあ、結局このあたりには特に異変があるような感じではないのよね」


 今まで探索していた範囲を各方面ごとに1日かけて確認し、今日は屋敷の奥側を普段よりも深いところまで確認に入った。

 けれど、特に異変が見つかることもなく、結果としていつもと変わらないことが確認できただけ。

 まあ、素人の私の確認がどれくらい当てになるのかはわからないけれど、少なくとも魔物が溢れるほど増えているとか、逆に生き物が極端に減っているというような明らかな異変は確認できなかった。


「そういえば、屋敷の周辺の森には魔物除けが施されているらしいけれど、奥側にはオオカミ系の魔物の痕跡があるのよね。

 それに関しては異変と言えるのかしら?」


 先日町で聞いた話を思い出して疑問に思う。

 けれど、オオカミ系の魔物の痕跡に関しては、別に最近になって増えたという訳ではなく、探索を始めた最初の頃からあったものだ。

 そうなると、魔の森の深部で起きている異変とは関係ないのではないかとも思う。


「屋敷周辺の森の探索を始めてからだいたい3週間くらい……。

 さすがに数日前に報告された森の深部の異変が、3週間も前からこんな浅瀬にまで影響してくるとは思えないのよね。

 だったら、奥側の森にオオカミ系の魔物がいたのは別の問題なのかな」


 少し気になるところではあるけれど、ここまでの探索でも特に問題なかったのだから大丈夫だろう。

 それに狩りに入るのは奥側ではなく左右の森なのだし。

 とりあえず、そう信じることにした。






 周辺の森の確認を終えた翌日。

 いつも通りに畑のお世話を終わらせ、狩りのために森へと向かう。

 買いそろえた狩りの道具は肩から提げたマジックバッグに収納しているので、見た目的には普段の探索と変わらない。

 まあ、変に装備が変わって動きにくくなっても困るので、いつもどおりが一番だと思う。



「どこに仕掛けるのが良いのかしら?」


 森の中を歩きながらつぶやく。

 今回、私がやろうとしているのは小動物向けの箱罠を使った狩りだ。

 箱罠というか、罠については最悪自作することも考えていたのだけれど、都合よく雑貨屋で目的に合致する物を見つけることができたのでそれを使うことにした。


 正直、罠に関してはギルドなどの専門的な場所でしか扱っていないと思っていたので、普通の雑貨屋に置かれていたのは意外だった。

 けれど、お店の人曰く、畑を荒らす小動物対策として常に一定数を置いているらしい。

 屋敷のことがあるので勘違いしていたけれど、よくよく考えてみると畑を守るために魔道具を使うということは普通しない気がする。

 そう考えると、箱罠などの害獣対策というのはそれなりに身近なのかもしれない。

 実際、箱罠が雑貨屋で売られているくらいなのだから。


 まあ何にせよ、私のあやふやな知識をもとにした微妙な罠などより、市販されている罠の方がよほど安心できるので都合が良いことには変わらないのだけれど。


「でも、ちゃんとした罠はあっても、狩りの仕方は自己流になってしまうのよね。

 まあ、狩りというか罠を仕掛けるだけだから、基本的には適した場所に罠を設置出来ればいいのだとは思うのだけれど」


 一応、罠を買うときにお店の人に確認はしたのだけれど、畑に侵入される経路のそばに仕掛ければいいとのことだった。

 私の場合は畑に仕掛けるわけではないのだけれど、要は獲物の通り道などの行動範囲内に罠を仕掛ければいいということだろうと思う。

 そう思って周囲を観察しながら歩いているのだけれど。


「……わからない」


 いや、一応は獲物となる小動物のものであろう痕跡を見つけられてはいる。

 見つけられてはいるのだけれど、本当にここに仕掛けていいのだろうかという不安が出てきてしまってまだ1カ所も仕掛けることができていない。




「はあ、悩んでいてもどうにもならなそうだし、ここに決めましょう」


 うだうだと悩み続けた結果、普段の探索の半分くらいの地点にまで来てしまった。

 用意した箱罠は3つあるので、このままだと3つをまとめて近くに設置してしまうことになるという焦りから、1カ所目の設置場所を決める。


「まあ、まだ1回目だし試してみるしかないしね」


 箱罠を設置しながら不安をごまかすようにつぶやく。

 狩りを始めるにあたって屋敷に残っていた資料を探してみたのだけれど、残念ながら箱罠を使った狩りについて書かれているものはなかった。

 どうやら、以前の住人は弓や魔法を使った狩りをしていたらしく、残っていたのはもっぱら獲物の解体の仕方や保存方法について書かれたものばかりだった。

 なので、雑貨屋で聞いた言葉を参考に手探りで試していくしかない。




「こんなものかな?」


 最後の罠を仕掛け終え、ひと段落という感じでつぶやく。

 仕掛けた場所は普段の探索コースからやや外れた場所に3か所。

 場所については深く考えずにいたけれど、1カ所目の罠を仕掛けたときに仕掛けた場所を覚えていなければいけないということに気づいた。

 なので普段の探索で回っている経路の近くに仕掛け、簡単な目印を残すようにした。


「ちゃんと獲物が掛かってくれるといいのだけれど」


 改めて周囲を見回す。

 一応、仕掛けた場所は近くに小動物の痕跡があった場所になる。

 けれど、最近の探索で何度も通っているだけあって明らかに人が入ったような痕跡も残っている。

 しばらくは空振りも覚悟の上で試していくしかなさそうだ。

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