第26話 魔の森の探索

「外からだとやっぱり普通の森にしか見えないね」


 魔法陣の実験を終えた翌日。

 最低限の魔法陣が準備できたので、さっそく魔の森の探索に取り掛かることにした。

 そうは言いつつ、さすがにすぐに魔の森に踏み込むのは不安だったので先に周囲の確認から。

 で、周囲の確認を終えた感想が先の言葉になる。


「まあ、屋敷の敷地に張られた結界内から見える範囲だけだから、仕方ないのだろうけれど。

 というか、いくら結界があるからって、すぐに見える範囲の景色がおどろおどろしたものだったら住むのが不安になるしね」


 ひとまず、屋敷の敷地の外周に張られた結界に沿って1周してみたけれど、特別なものは見つからなかった。

 まあ、結界から森までの距離もある程度離れているので、森の中をあまり見通せなかったというのもある。


「後は実際に森に入って確認するしかないかな」


 そう口に出し、改めて自身の装備を確認する。

 屋敷で見つけたローブだけ少し不安だけれど、さっき敷地を1周したときに問題にならなかったので、戦闘にでもならない限りは心配ないと思う。

 まあ、ちゃんとこのローブでも走ることができることくらいは確認しているし、今日の探索で戦闘するつもりなんてないので大丈夫だろう。

 そのために魔法陣だって用意したのだし。


「まあ、魔法陣が2枚ずつしかないのが若干不安といえば不安だけど」


 短剣と短杖を確認してから、魔法陣の入った腰のポーチを見る。

 昨日、実験後に作成できたのは結界の魔法陣、閃光の魔法陣ともに2枚だけ。

 閃光の魔法陣はともかく、結界の魔法陣はもう少し用意したかったのだけれど、残念ながら時間が足りなかった。

 一応、探索に入る日を後ろにずらすことも考えたけれど、明日は町に買い出しに行く予定が入っている。

 前回の買い出し時に、ギルドの受付のお姉さんに明日町に行くことを伝えているので、できるだけ日をずらしたくはない。

 かといって、探索を買い出しの後に回してしまうと、探索したときに必要な物が出てきたときに困ることになってしまう。

 なので、魔法陣の数を最低限の量で妥協した。


「うん、そもそも森の浅瀬にしか入るつもりがないのだから問題ないわ」


 若干の不安を振り払うようにつぶやく。

 大丈夫、ただ森の浅瀬を確認するだけだから何も起こるはずなんてない。

 そんなフラグになりそうなことを考えながら森への一歩を踏み出した。






「意外に普通なのかな?

 あれ?先に確認した通りの光景だから意外というのはおかしいのかな?」


 そんなどうでもいいことをつぶやきながら歩く。

 腰のポーチから時計を取り出して確認すると、森に入ってからそろそろ10分ほどという時間。

 ゆっくりとしたペースで歩いていたこともあって、まだ大した距離にはなっていないけれど、後ろを振り返っても屋敷が見えない程度の距離までは来ている。

 まあ、森の中の木々のせいでもっと前から屋敷は見えなくなっていたと思うけれど。


 それにしても、ここまで生き物の類を一度も見ていないことが気になる。

 森に入ってすぐは足元を気にしながら歩いていたから仕方ないかもしれないけれど、慣れてきてからはそれなりに周囲に注意を払っていたはずなのに。

 私の注意力が足りないのか、そもそもこのあたりに生き物がいないのか。


「って、噂をすればってやつかな」


 そんなことを考えていると、右の方からガサッという音が聞こえてきた。

 そちらに目を向けると背の低い木がある。

 どうやらその木に隠れるようにして何かがいるらしい。

 足を止め、音が聞こえたあたりの様子をうかがう。


「……」


 息をひそめつつ、最初に声を出したのは失敗だったかなと思う。

 音が聞こえてから1分近く待っている気がするけれど、何かが出てくる様子はない。

 もしかしたら最初の音が聞こえたタイミングで、既に木の陰から逃げていたのかもしれない。

 そう思い、諦めて探索を再開しようと足を動かす。


 そのタイミングで何かが木の陰から飛び出した。


「!?」


 驚きつつ、飛び出してきた何かの影を目で追う。

 けれど、既にその姿は小さくなっている。


「ちょっ、ちょっと待って!」


 その後ろ姿に手を伸ばしてそんなことを叫んでみるけれど、逃げる相手が聞いてくれるはずもない。

 すぐに他の木々に隠れて見えなくなってしまった。


「あぁ~、行っちゃった」


 伸ばした手を力なく下ろす。

 残念だけど、初めて出会った相手には振られてしまったらしい。

 いやまあ、今後この森で狩りをしようと考えているのだから、狩るものと狩られるものの関係である以上、友好的な交流は難しいだろうけれど。

 それでも、もう少しゆっくりと観察してみたかった。

 微かに見えた後姿からして、逃げていったのは小さなリスみたいだったし。


「とりあえず、ちゃんと生き物がいるということが分かったということで良しとしておくしかないかな」


 まだ残念な気持ちを完全に切り替えられたわけではないけれど、口に出して無理やり切り替えることにする。

 森に入ってからまだ10分ちょっとしか経っていない。

 この後いくらでも見つける機会があると考えて探索を再開することにした。

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