第25話 魔法陣の実験

 実験用の魔法陣の作成に思ったよりも時間がかかってしまったので、その日のうちに効果を確認することができなかった。

 しかも、作成した魔法陣は本に書いてあったものをそのまま利用している。

 なので、号音の魔法陣や掘削の魔法陣を採用することになった場合は、魔法陣の改造や調整でさらに時間がかかることになりそうだ。

 今さらだけど、魔法陣の作成について甘く見過ぎていたかもしれない。


 準備の大変さに気落ちしそうになったけれど、気持ちを切り替えて魔法陣の実験へと取り掛かることにする。

 まあ、やることは単純で、作成した魔法陣を発動させて実際の効果を確認するだけなのだけれど。



「オニキス、今日は実験のお手伝いをよろしくね」


 まずは防御用として期待している結界の魔法陣から。

 結界の強度をどうやって確認すればいいのかわからなかったので、とりあえずはオニキスに協力してもらうことにした。


「じゃあ、発動してみるから軽く体当たりしてみてね。

 しばらくは結界が残ったままになるはずだから、少しずつ力を込めていってくれると助かるわ」


 オニキスに向かってそう言うと、ヒヒンと元気よく答えてくれた。

 どうやら気合は十分らしい。


「じゃあ、お願いね。

 ――発動」


 そう声に出し、手に持った魔法陣へと魔力を流す。

 瞬間、魔法陣が輝き、目の前に緩やかな曲線を描く透明な壁が出現した。


 ガッ。


 少しの間、出現した結界に気を取られていたけれど、オニキスが体当たりしたその音にハッとして、後ろに下がり、結界から距離を取る。

 とりあえず、オニキスの初撃で結界が壊れるということはないらしい。


 その後もオニキスは何度も結界に突っ込んでいったけれど、結界が消えるまでそれを破ることはできなかった。




「ほ、ほら、ニンジンをあげるから機嫌を直して」


 別に結界の魔法陣を破れなかったから不機嫌になっているわけではない。

 まあ、それも理由のひとつではあるかもしれないけれど、直接の原因は続けて行った閃光の魔法陣の実験だ。


 一応、先にオニキスにも説明していたのだけれど、イマイチわかっていなかったのか、発動した閃光をまともに見てしまったらしい。

 驚いて立ち上がり、そのまま明後日の方向に走って行ってしまった。

 まあ、閃光の魔法陣の効果が知れたので、そこは良かったのだけれど、戻ってきたオニキスは鼻息も荒く不機嫌だった。

 ちゃんと私のところに戻ってきてくれた以上、閃光によるダメージは回復したのだろうけれど、機嫌の方までは回復しきらなかったらしい。

 結果、魔法陣の実験を中断してオニキスの機嫌を取ることになった。




 どうにかオニキスの機嫌が直ったので、気を取り直して魔法陣の実験へと戻る。

 というか、よくよく考えてみると残りの実験にはオニキスの協力が必要ない気がする。

 まあ、せっかくだから、そのままオニキスにも付き合ってもらうけれど。



 “リーン”というきれいな音があたりに響き渡る。

 その後の静寂の中、オニキスがブルルッといなないた。


「うん、これはダメそうだね」


 実験を再開し、号音の魔法陣を試した結果がこれだ。

 まあ、基本は合図などに使うための魔法陣なので仕方ないと言えば仕方ないのだけれど、どう考えてもこれで魔物がひるむとは思えない。

 一応、試した魔法陣はハンドベルの音を鳴らすというものだったのだけれど、音の種類や大きさを変えたところで効果が出るというイメージができない。

 魔法陣を探していたときにも思ったけれど、やっぱり爆発音のような轟音を発するものが必要な気がする。

 まあ、そういう魔法陣が見つからなかったから号音の魔法陣を改造してどうにかできないかと考えたのだけれど。


「爆発の魔法陣の方が良いのかな~。

 でも、欲しいのは逃げるための魔法陣なのよね。

 万が一、爆発の魔法陣で魔物にダメージが入っちゃったら、延々と追いかけられそうだから逆効果になりそうだし」


 基本的に魔物は執念深いと言われている。

 閃光や音でひるませて逃げるだけであれば、単に獲物に逃げられたというだけですぐにあきらめてくれると思うけれど、相手に攻撃して明確に敵認定された場合は、逃げても追いかけてくる可能性がある。


「そう考えると、最後の掘削の魔法陣も微妙なのかな?」


 そう言って、最後に残った魔法陣を手に取る。

 一応、落とし穴を作って足止めするだけのつもりではあるけれど、それに足を取られて魔物がダメージを負った場合は、それを攻撃だと思われて敵認定されるかもしれない。


「あれ?

 そう考えると、穴を掘るよりも土壁を出した方がマシなのかな?」


 ふとそんな風に思うけれど、残念ながら土壁を作り出す魔方陣は載っていなかった。

 他の本を探せば載っているかもしれないけれど、とりあえずは保留かな。


「まあ、とりあえず、確認だけ終わらせましょう」


 そう言って、最後の魔法陣を起動する。

 瞬間、目の前の地面が円形にへこんだ。


「……ま、まあ、威力の調整をしてないから仕方ないよね」


 効果範囲としては、直径50cmほどだろうか。

 その範囲が20cmほどへこんでいる。


「躓かせるくらいはできそうだけど、少なくとも落とし穴としては使えなさそうね。

 後は、どこまで効果範囲と深さを広げられるかだけど」


 そうつぶやく私の前でオニキスが今できた穴と楽々と飛び越えていく。

 いや、飛び越えるというよりは単にまたいだというような感じだけれど。


「……さすがに、魔物相手にも通用するサイズにするのは無理かしら」


 魔法陣を改良する手間を考えると、この掘削の魔法陣を採用するのは見送った方が良いのかもしれない。

 おそらく不意打ちであれば、そこまで効果範囲を広げなくても通用するとは思うけれど、相手に攻撃だと思われてしまう気がする。

 理想としては、相手の魔物との間に飛び越えられないくらいの堀が一瞬でできることなのだけれど、さすがにそこまでの効果を持たせる魔法陣を作れるとは思えない。


「とりあえず、結界の魔法陣と閃光の魔法陣だけでいいかな」


 この2つであれば魔法陣の改造も必要なさそうだしね。

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