第23話 魔の森に入るための準備

「果樹園が果樹園じゃなかった件について」


 野菜の栽培に目途が立ったということで、次の目標を果樹園の整備に定めた。

 野菜畑の件で農業用魔道具が優秀だということが判明したので、一度整備してしまえば後は放置で良くなるだろうと考えたからだ。

 なので、さっそく果樹園の確認に向かったのだけれど、植えられていたのがすべて錬金術関連で必要になる樹木だったという……。

 いや、ちゃんと確認してなかった私も悪いんだけど、果物が食べられると期待していただけにショックが大きい。

 まあ、果樹園にしては実がなっている木が少ないなとは思っていたんだけれど。


「はあ、どうしようかしら。

 さすがに今ある木を切り倒して新しく果物の木を植えるのは手間がかかりすぎるし。

 かといって、期待していた果物なしの生活というのもツライ気がするのよね」


 別に果物もないならないで問題はないのだけれど、期待していたからかすごく惜しい気がしてくる。

 とはいえ、さすがに森の中の木ほどのサイズではないとはいえ、成木になっているものを切り倒すのは時間がかかりそうなので、ここについては後回しにするしかなさそうだ。

 とりあえず、果物については野菜畑でイチゴでも植えてみることにしよう。


「まあ、ダメだったものは仕方ないし、気持ちを切り替えていきましょう」


 ひとまず、果樹園のことは後回しにすることに決め、次にすべきことを考えることにした。




「うーん、最初に思っていたよりもやることがないのよね。

 まあ、探せばいくらでもあるとは思うのだけれど、今までの作業の延長みたいなものが多いし……。

 薬草畑や野菜畑の残りを開拓するのはしばらく遠慮したいし、屋敷の整理もやろうと思えばできるけど一応ひと段落したところなのよね。

 となると、やっぱり森に挑戦するときが来たということかしら」


 そう言って果樹園の奥に見える魔の森へと目を向ける。

 危険な魔物が多数生息すると言われているけれど、ここから見える景色はあくまでも普通の森のそれだ。


「まあ、魔の森に入るなら準備からやらないといけないけどね」


 とりあえず、屋敷に戻って魔の森に入るために何が必要かを確認してみることにしましょう。






「さすがにこのローブはサイズが大きすぎるかしら?」


 机の上に並べられた装備の中から、黒いローブを手に取ってつぶやく。

 今は、領都の屋敷から持ってきた装備とこの屋敷の整理中に見つけた装備を並べて確認している。


「でも、領都の屋敷から持ってきたのはサイズは良くても性能がねえ……」


 そう言って、隣に置かれた子供サイズの外套を見る。

 これは領都の屋敷から持ってきたものだからサイズはピッタリではある。

 ただ、外出時に着ることを想定した普通の外套なので防御性能はお察しだ。

 対して、この屋敷で見つかった装備は、さすがは侯爵家の屋敷というべきか、素人目にも性能が良さそうなものが多い。


「防具だけじゃなくて、武器も問題なのよね。

 当たり前だけど、屋敷にあったのは全部大人用の物だから私が使うには大きすぎるし。

 かといって、領都から持ってきたものは性能的に通用するのかが疑問だし」


 さらに視線を動かし、隣に並べられた武器へと目を向ける。

 杖、メイス、剣、槍の順で並べられ、見つかった数もその順番に多くなっている。


「一応、いくつか扱えそうなものはあるけれど、これってたぶんサブとして持つ武器なのよね。

 装備するのであれば、短剣か小ぶりな杖かしら?」


 とりあえず、使えそうなものを手に取って確認してみる。


 短剣の方は手に持ってみた感じでは、訓練で使っていた物に近いので特に問題なく採用できそうな気がする。

 問題は杖の方で、いくつか種類があるのでどれを使うべきかの判断に迷う。

 まあ、さすがに無駄に装飾が凝っている杖は外していいとは思うけれど。




 改めて実用重視で厳選してみた結果、とりあえずの装備を決めることができた。


 防具は、領都から持ってきた普段訓練していた装備を使うことに決めた。

 というか、防具に関してはサイズが合わないものは使いようがないのでどうしようもなかった。

 一応、最初に悩んでいたローブだけは裾や袖を調整して使ってみるつもりではある。

 まあ、試してみてダメだったら諦めるしかないけれど。


 武器については、屋敷で見つけた短剣をメインにすることにした。

 ちょうど訓練で使っていたのと似たサイズだったので、素直に性能が高そうなそちらを選んだ。

 使い慣れたものとどちらが良いのかは少し迷ったけれど、そもそも、しばらくは剣をまともに使うことはないだろうという考えから装備を更新することに決めた。

 一応、今後は剣の訓練も日課に加えて新しい剣に慣れるようにはするつもりだ。


 あと、サブの武器として小ぶりな杖も持つつもりでいる。

 物としては、先端に無属性の魔石がついたシンプルなデザインの杖だ。

 正直、魔法に関してはまだ訓練する時間を取れていないので、使える魔法はほとんどない状態のままだ。

 けれど、杖の効果で生活魔法と呼ばれている基礎魔法でも牽制くらいはできるのではないかと期待している。




「とりあえず、問題なさそうかな」


 選んだ武器や防具を実際に装備してみた。

 予想通りローブがぶかぶかではあるけれど、どうにか少し動きづらい程度で済ますことができた。

 理想を言えば、少しでも動きにくい時点でダメなのだろうけれど、そこは装備の性能がそれを補って余りあると信じるしかない。


 腰に下げた短剣と杖についても確認してみたけれど、問題なくスムーズに構えることができた。

 まあ、実戦になったときに同じようにできるかは疑問だけれど、少しずつ慣れていくしかないと思う。

 というか、しばらくは武器を使う必要がないのが理想だ。

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