第16話 薬草畑の問題
「とりあえず、この惨状をどうにかしないといけないのよね……」
町へと出かけた翌日、相変わらずの惨状を呈している薬草畑へとやってきた。
しばらくはこの異常成長した薬草を売りに行くことでどうにかなるとはいえ、改めて目にする薬草畑の酷さにはついつい愚痴をこぼしたくなる。
今回買い取ってもらった薬草たちは、結果として十分な金額になった。
正直、薬草畑の広さを考えれば、1、2年はそれを売るだけで生活できるのではないかというくらいだ。
なので、この薬草畑もそのまま放置して都度薬草を採取して売りに行く形でもいいのではないかと考えないでもなかった。
まあ、さすがにそれは厳しいだろうということで諦めたけれど。
現状の薬草畑がイレギュラーな状態である以上、それに頼り切りになるのは危険だろうという判断だ。
可能性は低そうだけど、もしかしたら薬草が突然枯れるなんてこともあるかもしれないし。
そういうわけで、今後、薬草で生計を立てていくとしても一度薬草畑を正常な状態に戻すべきだろうということになった。
要は当初の予定通り一度薬草をすべて刈り取ってまっさらな状態にしてしまおうということだ。
まあ、薬草畑全体を刈り取ってしまうと薬草の保管をどうするかという問題が出てくるので、全体を一気にやるのではなくエリアを1つ1つ片付けていくつもりだけれど。
「はぁ。
嘆いたところで何も変わらないし、少しずつでも進めていきますか……」
現実逃避気味の思考を元に戻し、諦めて薬草の刈り取り作業に取り掛かることにした。
「うわぁ、どうしようこれ……」
ひとまず手前左側のエリアから薬草の刈り取りを進めていたのだけれど、屋敷で昼食を食べて帰ってきたところで初日に刈り取ったあたりから新たに薬草の芽が生え始めていることに気づいた。
まさかと思い、念のために魔道具を確認してみたけれど魔道具は間違いなく停止していた。
つまり、魔道具の効果なしの自然な状態で薬草の新しい芽が出てきたということになる。
薬草に関しては魔素の濃さに応じてその生育速度が変わってくるということなので、魔道具が“魔力過剰状態”になるくらいの環境であれば、それはまあすくすくと育つことだろう。
ただ、さすがに数日程度で新しく芽が出るのは想定外だ。
改めて薬草を植え始めてからであればまだしも、薬草を刈り取っている最中に新しく生えてくるのは、ただただ面倒が増えるだけなのでやめてほしい。
「とりあえず、掘り返して肥料代わりに土に混ぜ込んでみる?」
パッと思いついたアイデアを口に出してみたけれど、よくよく考えてみるとそれをやってしまうと、ただでさえ魔素が多い環境が悪化するだけなのではないだろうか。
というか、このあたり一帯の魔素が濃くなっている根本的な原因を解決しないことには、同じようなことが繰り返されて薬草の刈り取りがいつになっても終わらないかもしれない。
「でも、魔素が濃くなっている原因って何?
やっぱり周囲の森から流れ込んできているの?」
そうつぶやいて周囲の森を見回してみるけれど、それで何かがわかるというものでもない。
なので、ひとまずは屋敷に戻って対策を考えることに決めた。
「おぉ、なるほど。
空の魔石に魔素を吸収してしまえばいいんだ」
屋敷に戻り、地下の実験室の資料を漁ること数時間。
気分転換の休憩を挟んだ直後にその本は見つかった。
その方法が書かれていたのは“便利な魔法陣 30選”という本だった。
薬草畑に設置されていた農業用の魔道具のように、魔素を薄くすることを目的とした魔道具があるのでは?と魔道具の本から確認していたのだけれど見つからず、目先を変えてみようと他の本の確認を始めてみると割とすぐに見つかった。
ただ、この魔法陣を利用する場合、術者、つまり私が魔法陣を起動している間だけしか周囲の魔素を吸収することができないらしい。
この魔法陣の効果がどれくらいのものかはわからないけれど、さすがにそれだと効率が悪いだろう。
そんなことを思いつつ、さらに本の続きを確認していくとその問題を解決する補助用の魔法陣が見つかった。
「まあ、みんな考えることは同じよね」
見つけた補助用の魔法陣は、外部電源的な役割を果たすものだった。
つまり、術者が離れてもその魔法陣に設置した魔石の魔力を使用してメインの魔法陣を起動し続けるというものだ。
見つけた2つの魔法陣を組み合わせたものを用意すれば、ひとまず薬草畑の魔素濃度を薄めることができるはずだ。
問題は私が魔法陣を用意したことがないことだけれど。
「探したら魔法陣も見つからないかな?」
そう考え、今度は実験室の中から魔素吸収の魔法陣を探してみたのだけれど、さすがに目的そのものの魔法陣は見つからなかった。
一応、似たような機能を持つ魔法陣は見つかったのだけれど、それは魔素を吸収するのではなく魔石に魔力を込めることを目的とするものだった。
結果的に得られる効果は同じような気もしたけれど、細かいところがわからなかったので、流用するのはあきらめて自作することに決めた。
「まあ、時間はあるしね」
幸いにして、魔法陣を探している際に魔法陣を描くための道具は見つけている。
きちんと保管庫に仕舞われていたものなので、鑑定の魔道具でも問題なく使用できると判定された。
後は私がきちんと効果の出る魔法陣を描けるかどうかだけだ。
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