第15話 再びの町
ギルドを出た私は、前回も訪れたマリーの宿屋を目指すことにした。
まあ、目指すといっても目の前なのだけれど。
「いらっしゃい。
おや、お嬢ちゃんはこの前も来たんじゃないかい?」
「はい。
何日か前にも食べに来させてもらいました。
前回の食事がおいしかったので、またここで食べさせてもらおうかと」
「あらまあ、うれしいこと言ってくれるじゃないか。
これはサービスしてあげないといけないね。
ともあれ、まずは席に案内しないとね。
前と同じカウンターで構わないかい?」
「はい、大丈夫です」
そんなやり取りをして、今回もカウンター席へと腰かける。
前回は店内にお客さんがそれなりにいたけれど、今日はまだお客さんが入っていないようだ。
昼食にはやや早い時間だから、それも仕方ないのかもしれない。
「注文はどうするんだい?
前も説明したと思うけど、お昼はステーキかシチューのどちらかだよ」
「前回はステーキだったので、今日はシチューのランチにします」
「あいよ。
まだ客も少ないし、すぐにできるからね」
そう言って奥へ向かうマリーさんを見送る。
そのまま何となしに店内を見ていると、言葉通りほとんど待つことなくランチを持ったマリーさんが戻ってきた。
「はい、お待ち。
シチューは熱いから気を付けてね」
「はい、ありがとうございます」
注意と共に置かれた料理に目を向けながらお礼の言葉を返す。
ただ、意識は目の前のシチューに持っていかれてしまっている。
そのことが分かったのか、マリーさんは小さく苦笑してから奥へと戻っていった。
今日はオニキスに乗せてもらって町に来たからそこまで疲れていないはずなのだけど、朝が早かったからか思っていたよりもお腹が空いていたらしい。
そのせいで、おいしそうなシチューの匂いに意識を奪われてマリーさんに呆れられてしまった。
「いただきます!」
過ぎたことは仕方ないので、無駄な抵抗はせずに目の前のシチューを堪能することに決めた。
「そういえば、前にヒュージボアを狩っているという話を聞きましたけれど、他にも獲れるものはいるんですか?」
食事を終え、マリーさんもまだ忙しくなさそうだったので質問してみる。
これから自給自足の生活を送る上で、食卓にお肉があるのとないのとでは幸福度が大きく違ってくる。
「うん?森で獲れる獲物の話かい?
それならボア以外にもウサギやシカ、野鳥なんかが獲れるはずだよ。
まあ、冒険者連中が狩ってくるのはほとんどボアだけで、他のはほとんど出回らないけどね。
ウサギやらシカ、野鳥なんかはついでに獲れたときに少し出るくらいかね。
基本的にボア以外の肉は買い取りが決まっている依頼が多いみたいだから」
「そうなんですね。
ウサギとかであれば森の浅瀬とかで狩れたりしますか?
罠を仕掛けるとかでもいいんですけど」
「もしかして、お嬢ちゃんが狩ろうと思っているのかい?
それはさすがに無理だよ。
罠を使えばもしかしたらとも思うけど、そもそも森の中に入ること自体が危ないからね。
肉が欲しいんであれば、素直に商業ギルドに行ったり、冒険者ギルドに依頼した方が良いよ」
「そうですか……」
そんな受け答えをしたのち、新しく入ってきたお客さんのもとへとマリーさんは向かっていった。
よくよく考えてみれば、マリーさんの言う通り冒険者ギルド、あるいは商業ギルドで確認すべきことだった。
ただ、自分で狩りをしたいという話をするとマリーさんと同じように心配されそうだ。
なので、確認するときはそのあたりをぼかして話す必要があるかもしれない。
前回の買い出しでは普通に店でお肉を買って帰ったけれど、今後町へ来る回数を減らすのであれば屋敷近くの森で自分でお肉を手に入れる方法を見つける必要がある。
そんなことを考えつつ、マリーの宿屋を後にした。
「しばらくは定期的に町に来ることになるだろうから、お肉は店売りの物でも構わないかな?」
今日は町で泊まることなく屋敷に戻るつもりなので、前回と同じように食材を中心に買い物をしつつ町を巡る。
ひとまず金策の手立てもできたし、すぐに必要なものも特には思いつかない。
けれど、おそらくは何かしら不足するものが出てくるだろうから、しばらくはそれなりに町に来ることになると思う。
であれば、お肉に関してはゆっくりと考えればいい気がする。
とりあえずは次回の薬草の買取依頼の際に森で狩ることができる獲物にどういう種類がいるかを確認することだろうか。
そう考えると、今日のところはとりあえず今ある環境でもどうにかなりそうな野菜などの栽培を考えた方が良いのかもしれない。
まあ、こちらはこちらで畑を使えるようにしないといけないのだけど。
「いや、魔道具を使わなければ片付けた薬草畑でも野菜を育てるエリアを確保できる?」
ふと思いついた考えが口から出る。
なんとなく薬草畑には薬草、野菜は野菜用の畑を使わなければいけないと思っていたけれど、魔道具を使わないのであれば、わざわざ野菜畑を復活させる必要がない気がする。
「……でも、魔道具なしで野菜が育てられるのかな?」
けれど、すぐに根本的な問題があることに思い至る。
あいにくと、私に野菜を育てた経験はない。
前世でも本格的な農業はもちろん、家庭菜園レベルのものすら経験がない。
そんな私が手探り状態で自給自足の生活が送れるレベルの野菜を育てられるのか。
「でも、やってみればどうにかなる、……かも?」
その後も色々と悩んだけれど、結局は素人でも簡単に育てられるという野菜の種をいくつか確保してから屋敷へと帰ることとなった。
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