第14話 薬草の買い取り依頼
「すいません、薬草の買い取りをお願いします」
町に到着してすぐにギルドへと向かい、受付で薬草の買い取りを申請する。
時間的にお昼前の中途半端な時間だったせいか、受付のお姉さんはぼんやりとしていたみたいだ。
私の声に気づいて少し慌てている。
「っ、すいません、買取依頼ですね。
では、こちらに薬草を出してください」
そう言ってカウンターに出された籠に持参した薬草を置いていく。
一応、薬草の買い取り単位は10本単位でまとめた束が基本だと聞いていたので、各種5束ずつ持ってきている。
魔道具を停止させたエリアは9エリアだったけれど、種類としては4種類だったので、合計20束だ。
「これでお願いします」
「はい。
では、確認させていただきますのでしばらくお待ちください」
籠についていたのと同じ番号の札を私に渡してから、受付のお姉さんが薬草を奥へと持っていく。
それを見送り、待っている間にギルドの観察でもしようと移動する。
しかし、入って来たときにも思ったけれど、この時間は人が少ないみたいだ。
まあ、だからこそ受付のお姉さんも気を抜いていたのだろうけれど。
私みたいな飛び入りの客が来たらどうするんだと思ったけれど、よくよく考えてみるとここは辺境の町だ。
それも、近くの魔の森へと向かう冒険者たちが中心となった町。
つまりは私みたいな飛び入りは本当に珍しいのだろう。
この町を拠点にしている冒険者たちは当然朝の早いうちに行動を始めるだろうし、よその町から移動してくるとしても中途半端な時間だ。
それを考えると、普段は本当に誰も来ないような時間帯なのかもしれない。
そんなことを考えながら、壁際の依頼票が張り付けられている場所へとやってくる。
ギルド内の見える範囲に居るのはテーブルで打ち合わせをしている冒険者たちと受付のお姉さんだけ。
若干、こんな幼女が依頼票なんて見ていたら目を引くのではないかと思ったけれど、受付のお姉さんは買取依頼の鑑定待ちだとわかっているし、テーブルの冒険者たちはそもそも私に気付いているかすら怪しい。
なので、異世界もののテンプレなど関係なしにゆっくりと貼り出されている依頼を確認することができる。
「基本的に採集依頼ばっかりなのね……」
魔物の討伐依頼が大半を占めているのかと思っていたので、なんとなく意外だ。
いくら魔の森があるからといって、常に魔物の討伐依頼を出さないといけないような町では人が寄り付かないような気もするのでそんなものなのかもしれない。
一応、採集の護衛依頼なんかもあるので、別に魔物がいないというわけでもなさそうだし。
「1番の札をお持ちのお客様。
査定が終了しましたので受付までお越しください」
依頼票を見終わってそんなことを考えていると、タイミングよく受付から声がかかる。
その声に打ち合わせ中の冒険者パーティーが反応するが、すぐに興味なさげに打ち合わせへと戻る。
もしかしたら、彼らも査定待ちだったのかもしれない。
……いや、それだと私の番号が1番というのもおかしいか。
「これが今回の薬草の買い取り金額になります。
問題なければサインをお願いします」
受付カウンターまで戻ると、受付のお姉さんがお金の入ったトレイと1枚の書類をこちらへと差し出す。
書類には薬草の種類ごとの状態と買い取り単価、つまりは査定結果が記載されていた。
「買い取り単価が高くないですか?」
内容を一通り確認したところで、疑問に思ったことを質問する。
はっきりと覚えているわけではないし、数年前の情報なので絶対ではないけれど、全種類の買い取り単価が相場の2倍以上になっている気がする。
一応、この町は魔の森近くの町ということもあって、ある意味産地であるはずなのだから、逆に相場よりも安いというのであれば納得できたのだけど。
「あぁ、それは薬草の品質のせいですね。
ここに書いてある通り、お持ちいただいた薬草がすべて2等級のものでしたので通常の価格よりも高くなっているんです」
「品質……。
ちなみに等級を判断する基準は何なんですか?」
「それは薬草が含有している魔力量ですね」
あぁ、なるほど。
確かに魔道具の暴走によって異常繁殖していた薬草たちであれば、その含有魔力は結構な量になっているだろう。
「わかりました。
この買い取り金額でお願いします」
理由に納得できたので、書類にサインしてお姉さんへと渡す。
薬草の買い取りなど大した額にならないと思っていたけど、幸運なことに、異常繁殖した薬草が残っている間はボーナスタイムとなるらしい。
「はい、確かに。
……あの、もし良ければでいいんですが、どこで採集してきたか伺っても?
2等級の薬草となると、魔の森のそれなりに深い場所まで行かなければ採集できないと思うんですが」
「あぁ、別に魔の森で採集したわけではないですよ。
屋敷の薬草畑で異常繁殖していた薬草を持ってきただけですから」
「異常繁殖ですか……。
それはそれで大丈夫だったんですか?」
「長期間放置されていたことと、魔道具が暴走していただけなので問題ないです。
暴走していた魔道具も停止させましたし」
「なるほど」
そのやり取りを最後に、お金を受け取ってギルドを後にする。
今回の薬草の買い取りによる収入は、合計で16,000ゴル。
屋台の串焼きであれば160本買える金額だ。
……うん、あんまりわかりやすくないね。
冒険者の1日の稼ぎが大体5,000ゴル程度らしいので、おおよそ3日分。
こう考えると多少わかりやすい気がする。
冒険者だとこの金額で生活するのがギリギリだという話だけれど、私の場合は屋敷があるので宿代が必要ない。
そう考えると、この金額はそれなりなのではないだろうか。
そもそも、今回はどの程度の額で売れるかを調べるためのお試しのつもりだったわけだし。
屋敷に帰れば、まだ薬草が文字通り溢れるほど残っている。
次から量を増やして持って来れば、一財産とまではいかなくともある程度まとまった額にはなるはずだ。
長期的なものは改めて考える必要があるとしても、少なくとも直近数ヶ月を乗り切る目途は立った気がする。
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