第12話 農業用魔道具

 魔境と化していた薬草畑に手を入れること決めた翌日。

 無駄に手ごわい薬草たちに苦労しつつ、原因となっているであろう魔道具をどうにか見つけることができた。


「いやいやいや、手ごわすぎるでしょう。

 絶対薬草じゃない別の何かになっているよっ!」


 思わずそんなことを叫んでしまうけど、屋敷の鑑定魔道具を信じるのであれば刈り取ったものが薬草であることに間違いないはずだ。




「で、問題の魔道具は元気に稼働中と」


 この惨状を見るに、予想できたことではあるけれど、見つけた魔道具は問題なく稼働していた。

 暴走しているのでは?という疑惑もあったのだけれど、パッと見では特に壊れていたりする様子はない。


「さて、どうしてやろうかしら」


 今さらながら、深く考えていなかったことに気づいてしまう。

 まあ、この薬草畑を自給自足の足掛かりにすることを考えるのであれば、ひとまず停止させるべきだと思う。

 ここを使って何を育てるのかを決めてはいないけれど、一度まっさらな状態にしてから考えたい。


「というわけで停止させたいんだけど、……スイッチってどこ?」


 いや、スイッチでオンオフする魔道具かもわからないんだけど。

 一般的な魔道具であればスイッチ代わりの魔石に魔力を流せばオンオフできるんだけど、それなりに高機能そうなこの魔道具がそんな単純な仕組みをしているのだろうか。


 改めて目の前にある魔道具を観察してみる。

 サイズとしては前世の点字ブロックくらいだろうか?

 四角い板のような形状で、中心に設置された丸い魔石が青く光り輝いている。

 外観的には中心の魔石以外に目立つものはなく、金属色の本体の四隅に飾りのような紋様がついているだけだ。

 ならばと、上部だけではなく側面の確認をしてみるも、板状の魔道具ではなく箱状の魔道具が埋められているということが分かっただけだった。


「……ま、いっか。

 試してみれば、わかるでしょ」


 一瞬の逡巡の後、軽い気持ちで稼働中であることを示すように青く光る魔石へと手を伸ばす。

 指で魔石に触れ、そのまま魔力を流す。

 すると、魔道具から設定画面がホログラムのように浮き上がってきた。


「おぉ……。

 さすがは高性能っぽい魔道具、設定画面が出てくるとは」


 ちょっと驚いちゃったけど、とりあえずは出てきた画面を確認してみる。


「育成対象設定とステータスに分かれているのね」


 まずは育成対象設定の方から。

 というか、タブで切り替えるタイプみたいだから、既に表示されているのが育成対象設定の画面だったんだけど。


「育成対象が薬草、育成サイクルが3ヶ月、土壌改良、水やりは自動、と。

 ついでに害虫駆除、育成状況の監視による疫病対策もバッチリと」


 なにこれ。

 設定を見る限り、全部魔道具がやってくれそうなんだけど。

 というか、人間がやるのって種を植えるのと収穫だけ?

 便利過ぎてダメになりそうな気がするレベルだよ。


「まあ、気を取り直してステータスについても見てみましょう。

 育成対象設定の画面にはオンオフの表示がなかったから、こっちにあるのかな?」


 そんなことを言いつつ、タブを切り替えてステータス画面を表示する。

 瞬間、新たにポップアップウィンドウが飛び出すように表示された。



「……うん、薬草が別の何かになった原因はこれだね」


 ウィンドウには、異常を強調するように“魔力過剰状態”という文字が赤く点滅しながら表示されていた。

 とりあえず、警告表示のウィンドウを消して、改めてステータス画面を確認する。


 一番上には残存魔力量の表示があり、メーターが満タンになっている。

 見た目ではわからないけれど、先ほどの警告通り“魔力過剰状態”になっているのだろう。

 次いで稼働状態の表示があり、“正常”となっている。

 ……いや、“魔力過剰状態”は異常なのでは?

 まあ、いいや。

 それは置いておいて、次の表示だ。

 “ポイントA”というのは何なんだろう?

 いや、たぶん場所を表す何かだとは思うんだけれど。

 AというからにはBやCもあるんだろうか?

 そんなことを考えつつ、その表示をタッチしてみると新しい画面が表示された。


「ああ、そういうことか」


 新たな画面を見たことで理解できた。

 この“ポイントA”というのは魔道具の位置関係を示すものだ。

 どうやら、この魔道具を4つ使って作った四角形の内側が魔道具の効果が及ぶ範囲になっているらしい。

 で、“ポイントA”というのはその四角形の左上の位置を表すらしい。


「つまり、あと3つ魔道具が設置されているのね」


 そうつぶやいて薬草畑を見回す。

 相変わらず、魔境のような鬱蒼とした光景が広がったままだ。

 唯一、この魔道具まで続く道のような場所だけさっぱりした感じになっている。


「あれ?

 でも、この位置関係だと“ポイントC”になるんじゃ?」


 いや、“ポイントC”でも微妙な位置かな?

 この魔道具のある場所は、位置関係としては薬草畑の奥行きの半分くらいの位置だと思うし。


「ということは、このエリアをさらに奥と手前で2分割している?」


 もしかしたら、さらに分割されていて4分割以上という可能性もあるかもしれないけれど。

 というか、よく考えてみると“ポイントC”にあるはずの魔道具を見逃している?

 そう思って後ろを振り返ってみるけれど、特に魔道具らしきものは見えない。


「うーん、一応は正常に稼働しているみたいだし、ないってことはないと思うんだけど」


 そう言いつつ、もしかしたら向きが違うのかもと思ったけれど、それだと魔道具の効果範囲が薬草畑からはみ出してしまう。

 そうなると、やっぱり薬草畑を手前と奥で分割しているという風に考えた方が自然だ。


「まあ、この場所を基点にして考えれば、そう時間もかからずに見つかるだろうからいっか」


 ……草刈りに時間がかかるだろうけどね。

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