第11話 現状確認

 思ったよりも長い時間うだうだと考えていたようで、気づけば窓の外の太陽が高い位置になっていた。

 そのことに気づき、頭を切り替えて行動に移ることにする。

 まずは現状の確認だ。


「といっても、屋敷の中はある程度やってあるから、屋敷の外の確認なんだけどね」


 誰にともなくそうこぼして屋敷の外へと向かう。






「で、この状況なのよね」


 一応、屋敷に引っ越してきてから使用人を待っているときのちょっとした時間に屋敷の周りを少しは見ていた。

 なので、初めて見るというわけではないのだけど、それでもつい口から愚痴がこぼれるくらいには残念な光景だ。

 それなりの規模の、おそらくは薬草畑であった場所が、見渡す限り濃い緑で覆い尽くされているというのは。

 別に緑で覆い尽くされているといっても、草原のような光景であればこんなことは思わない。

 明らかに異常成長した草花が互いに絡みつくようにして伸び放題という状態になっているから残念なのだ。


「さて、原因はどこかしら」


 そんなことをつぶやきながら目の前の薬草畑(仮)へと足を踏み入れる。

 実はこの光景を作り出した原因については目星をつけていたりする。

 結論から言えば、薬草畑の環境を最適に保つための魔道具が原因だと思う。

 屋敷で見つけた資料からの推測ではあるけど、おそらく間違っていないはずだ。


 ただ、最適な環境に保ったところで何故目の前に広がっているような惨状にまで発展するのかが気になるところだけど。

 ……まあ、長い年月で魔道具が暴走して栄養が過剰供給されるとかそういう状態なんだろう。

 その場合、魔道具の修理が必要になりそうなので、それはそれで問題なんだけどね。


「でもまあ、今後の生活のためにもこの薬草畑くらいはどうにかしないとね」


 一応、前任者が自給自足に利用していただろう場所はこの薬草畑以外にもある。

 屋敷の資料で確認した限りでは、他にも小麦畑や野菜畑、果樹園と思しき場所がある。

 そちらの方が、単純な食料確保としては優秀ではあるのだけれど、直近の金策という目的からは外れてしまう。

 さすがに小麦や野菜を冒険者ギルドに持ち込んでも他を当たれと言われるだけだろうし。

 なので、冒険者ギルドが素材として買い取ってくれる薬草の確保が一番理想的なのだ。

 薬草畑で安定して薬草を育てることができれば、それだけでお金の問題が解決するかもしれないし。

 まあ、ここで育てられていた薬草にどれだけの価値があるのかわからないのだけれど。




「……にしても、育ち過ぎじゃない?」


 薬草畑(仮)に蔓延る推定・元薬草をかき分け進んでいるわけだけれど、一向に前に進めない。

 後ろを振り返ると少しは進んでいることがわかるけど、幼女の力と歩幅では進んだ距離はお察しである。

 目の前の惨状の原因であろう魔道具をどうにかしようと捜索を開始したわけなのだけど、この状況を鑑みるに考えを改めるべきかもしれない。


「……先に草刈りをしましょうか」


 そうつぶやき、お昼どきであったこともあって一度屋敷へと引き返すことにした。


 ちなみに、屋敷へ推定・元薬草を持ち帰って鑑定してみると、確定・薬草という結果になった。

 正直、通常の薬草の4、5倍サイズに異常成長したものを同じ薬草判定する鑑定の魔道具に疑問を覚えないでもなかったけれど、屋敷にあった資料が正しそうだということがわかったのでスルーすることにした。




「さあ、オニキスやっちゃって!」


 お昼を食べて気を取り直した私は、助っ人のオニキスを連れて薬草畑へと戻ってきた。

 目の前の異常成長した薬草を刈りつくすような魔法が使えれば良かったのだけれど、あいにくとそういう便利な魔法はまだ教わっていない。

 なので、オニキスの出番だ。

 牛飲馬食なんて言葉があるくらいなのだから、元軍馬であるオニキスにかかれば目の前の異常成長した薬草ごとき大したものではないだろう。

 そういう期待を込めてオニキスを見上げたのだけど、無茶言うなとでもいう感じで顔をそらされてしまった。


「くっ、さすがにこの量は無理かっ……」


 まあ、冗談はさておき、私も倉庫から持ってきた鎌を手に目の前の惨状に向かうことにする。

 目の前の薬草群を一気に刈り取るような魔法は使えないけど、身体強化であればお手の物だ。

 幼女の身長で大人以上の力を出せるのだから、おそらく大人よりも効率よく草刈りが進むだろう。


「まっ、今日明日でどうにかしないといけないわけでもないし、ゆっくりやりますか」


 目標としては1週間以内ではあるけれど、食料の備蓄的には1ヶ月程度は町に行かなくても問題ないはず。

 なので、伸び放題の薬草を食んでいるオニキスを見ながら、そんな風にゆるく考えてしまうのだった。

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