第2話 台湾の真ん中で中国を叫ぶ

 V.1.2


 1.50年前、日本で見たアメリカのテレビ番組にこんなのがありました。

 真昼間、頑丈そうなヘルメットを被った、若き頃のウッディ・アレン風の弱々しい男が、アメリカのニューヨーク市内の一角であるブロンクス(当時、犯罪率世界一の危険なスラム街といわれていた)を歩いている。


(アナウンス)

「ビル・ジョーンズ(この名前は何でもいい仮名)、彼は世界で最も勇気ある男である。」


 彼は、多くの黒人たちが たむろする一角に来ると立ち止まり、大きな声でこう叫ぶ「ニィガー !」。そして、一目散に走り出す。

 一瞬キョトンとするも、すぐに怒った黒人たちは、手にしていた飲み物やタバコを放り投げ、この男を追いかける。

 彼の運命や如何に・・・。


(Niggerとは、黒人に対する蔑称で、辞書には載っていますが、面と向かって言ってはならない言葉とされています。私はこの本で客家人を蔑視するわけではないので、真に平和を望む人間であれば文句は出ないと信じています。)



 2. いま現在(2022年4月)、私は台湾の屏東県という客家系住民(中国大嫌いの人たち)の多い地域に住んでいます。駅や大学・警察、カルフールなんていう外資系の会社には、非常に客家人が多い。


 私がよく買い物に行く内埔(ねいぷ)という街の住民は、7~8割が客家です。私が住む建物の大家は客家、20名近い居住者(大半が近くの屏東科学技術大学という、客家による客家のための学校、の生徒や職員)もほぼ全員客家、隣近所の家々は何処もかしこも客家だらけ、という客家村(村の名前は中林村)です。台湾という国をマクロの目で見ても、サイさんという現職の台湾総統(台湾で一番偉い人)は客家です。


 彼ら客家とは、血のつながりというよりも、日本の創価学会と同じく「利益共有のための宗教集団」です。ユダヤ人と同じく、移民・移住先の住民と混血を繰り返しながら、自分たちの利益をベースにしたその移住先(国)での権益を拡大していく。日本人や中国人(漢民族)のような純粋の濃い血ではなく、雑種強勢です。


 ユダヤ人は世界規模ですが、客家はまだ台湾やシンガポールといった狭い地域でその基盤を固めている最中。創価学会は日本を手中に収め、アメリカのユダヤ人のような国家の中の国家を形成していますが、台湾における客家は、これから中国と一つか二つ、もめ事を起こしながら、台湾での彼らの支配権を更に拡充していこうとする途上です。




 さて、そんな台湾で「中国友好」を叫ぶなんて、これくらい危険なことはないのかもしれませんが、これは成り行きというか運命でそうなってしまった、としか言いようがない。



 ① 日本製や中国製よりも頑丈で素朴な、台湾原住民の作る下駄を買いに来た台湾。そこで、これまた、ひょんなきっかけから、長期間台湾に住むことになる(2020年3月~)。


 ② 台湾のニュースで中国語でも勉強するかとテレビを設置したところ、たまたま「大陸尋奇」という中国の姿を伝えるテレビ番組にはまり、その素晴らしさを本にして日本の各大学にある日本拳法部に送付し、ネットでもその本を公開したところ(2020年7月)、なんと、今まで観れていたテレビが急に見れなくなる(2020年8月)。まあ、政府による情報規制なんてどこでもあることなので、大して気にしませんでした。You-Tubeで1800回以上も続くこの長寿番組は見れるのだし。



 ③ そこで、今度は「フォーカス台湾」という、台湾政府発行のネット広報新聞を毎日見るようになる(政治経済には興味がないので、もっぱら天気予報を知る程度の閲覧)。


 1年間、漫然と見ていたのですが、最近になって、中国を批判・誹謗・中傷する記事があまりにも多いので食傷気味となり、ここまで台湾人に評判の悪い中国のこともよく知らなければと、中国政府発行の「人民網日本語版」というネット新聞を半年ほど前から(たまに)見るようになる。中国と台湾のことなど日本人である私には関係がないので、気楽な気持ちで両者のネット新聞を見ていたわけです。


 ④ 今年2022年の初めから始まったロシアとウクライナの問題に端を発し「中国が台湾に侵攻する」という機運を盛り上げようとするニュースが「フォーカス台湾」紙上で増加する。


 一方で、アメリカや台湾による様々な中国に対する挑発(攻撃)に対し、「人民網日本語版」に見る中国の態度に、逆に私は感銘を受けるようになる。



 「台湾が中国の領土」なんて話は、私にはわからないし興味もない。どうぞご勝手に、というスタンスですし、それが正しい外国人のあり方であると思います。


 しかし、台湾と中国のことをネット上(台湾と中国それぞれの国営ネット新聞記事)を今まで読んできた限りにおいては、中国と台湾とでは、形而上的(精神面・文化面)において、大人と子供、横綱と幕下くらい格が違う、と言わざるを得ない。


 この評価は、台湾に住んでいるということと全く関係がありません。むしろ、2年間も台湾に住んでいるのですから、本来は台湾に好意的になるはずですが、物価が安いという理由だけで住んでいるだけで台湾人の友人・知人は一人もいないので、特別台湾を好きということもない。また、中国へ行ったこともないし、中国人の友人もいないので、台湾・中国に関して私は全くのニュートラルの立場なのです。


 ⑤ そして、私が「叫ばざるを得ない」最大の理由とは、この半年間、台湾と中国に関する自分の見解を書き留めたノートや磁気データすべてを、客家だらけのこのアパートの玄関に、一ヶ月前のある日、6時間にわたって置き忘れてしまった、ということなのです。

「誰のものか」調べるためにディスクを開き、データを自動翻訳にかければ、今ここで述べている台湾や客家に対する考えは大体わかる。日本に住む客家に送信すれば、日本語からでもわかる。別に盗んだわけではない、当然の「調査」です。

 6時間後、帰宅したときには、かばんはそのままの形で、置き場所は違っていましたが何事もなかったように置いてありました。



 ということで、日本へ帰ってから本にしようと思っていたことが、すっかり知れてしまった以上、いまさら隠していても仕方がない。松江候の玄関先で、素性がバレてしまった河内山宗俊の名セリフ「悪に強きは善にもと」ではありませんが、この私のウッカリを、善にしてみようということなのです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る