第4話 大都会のピーターラビット。

 彼が私の前をはだけ、ブラのホックを外す為に背中に手を回した時に、そのフェザー・タッチに全身に鳥肌が立ちました。そして、標本にされる蝶の様な姿にされると、経験した事の無い出来事に興奮しているのか、性的な刺激に酔いしれているのか分からくなり眩暈めまいを感じました。


「さぁ、見せて下さい。大草原を彷徨う僕に『不思議の国』の入り口を、あなたの花園を……」


 ストキングとショーツを膝まで一気に下ろされて、私のヴァルヴァが露わになり、彼に見つめられている事を想像すると、恥ずかしさから身を捩り抵抗しましたが、エロティックな刺激に身体は喜びを感じていました。あの特別室のバルテュスの絵画が今の私を暗示していたと知り、私は絵の中の少女の様に折檻され、苦悶か恍惚か分からない表情を浮かべている自分を想像しました。そして、その私を眺めて彼は楽しむのだろうと。


「美しい。とても綺麗ですよ。アリスさん」


 私は紅潮するのが分かるほどでした。彼は椅子にでも腰を掛けたのか、私の恥ずかしい姿をじっくりと眺めている様でした。そして、時折、傍に来て触れるか触れないフェザー・タッチで脇の下から乳房の下を触ったかと思うと、おへそから鼠径部を触ってみたり、衣服の横から背中に手を回し、背骨の横に指先を這わせると、お尻の形を確かめる様に撫でました。私は身を捩じらせながら、声が出ない様に堪えていました。


「不思議の国の入り口は湿っているようですね。あなたの花園の花弁の中は密で溢れていますよ……」


 彼はそう言うと吊り下げていた縄を解き、手かせを外しました。私が拘束から解放され両手をついてベッドの上で四つん這いになっていると、コートの裾を撥ね上げる様に捲り、下半身が露わになって腰を突き出している私の花園からこぼれて内腿を伝うしずくを舌で舐め取りました。


「さぁ、送って行きますよ」


 彼は幼い子供に服を着せる様に、私に服を着せるのを楽しんでいました。そして、車で駅まで送って行く途中で目隠しを取ると、まばゆい光に不思議の国から現実世界に戻って来た事を実感していました。少しすると目が慣れて景色を眺めていましたが、恥ずかしくて彼の顔を見る事は出来ませんでした。



 こうして私の『ギターのレッスン』は終わりました。


 彼の『不思議の国』と、私の『不思議の国』が交差して重なり合い、街行く人が誰も知らないエロティシズムの世界に二人が居た事を、夕闇に包まれた家並みに遠く過ぎ去った過去の様に、懐かしさを感じていました。



 帰宅をすると、丁度、夕食を済ませた主人と子供が出迎えてくれました。


「早かったね、もっと遅くなると思っていたよ。それだったら、夕食を一緒に出来たのに」


「御免なさい。予定より早く終わったものだから。夕食は簡単に済ませますから、心配しないで下さい」

 

 食事を済ませて後片付けをして、主人が浴室に入り、入浴しているのを確認すると、エロティックな体験を反芻する様に、私はアプリを開きました。


「ピーターさん。私の花園はお気に召して頂けたのかしら? 零れ落ちた蜜の味はお口に合いました?」


「アリスさん。繁みの奥の花園はとても美しく、良い香りがして、とても気に入りました。零れ落ちた花の蜜は、甘美で適度な苦みが有り、僕の嗜好にぴったりでしたよ」


「ピーターさん。次のレッスンは何時なのかしら?」


 私は彼のレッスンで背徳感と罪悪感が人生のスパイスになる事を知りました。その夜、寝室で主人と一緒に寝ていると身体の火照りを感じてしまい、眠れませんでした。主人は仕事柄、強い緊張感から眠れない事が多く、最近は睡眠薬を常用していましたので、静かに寝息を立てて寝ていました。


 私はベッドから出て浴室に向い、洗濯物の中から分けておいた高級ランジェリーを取り出しました。そして、ショーツに出来た染みを見つめていると、ピーターの言う香りと味を追体験せずに居られませんでした。家人の寝静まっている中で、私は洗面所で洗濯をしてベッドに戻り、一人静かに蜜の溢れる花を可愛がりました。



 レッスンを受けた私は彼の虜になっていました。そして、数週間が過ぎたある日、急に仕事の依頼が有り、私は打ち合わせの為、クライアントの経営する専門店に出向く事になりました。銀座の有名な画廊の近くだったので、打ち合わせを済ませたら少し銀座を楽しみ、新しい下着を買う予定でした。


 その専門店はオートクチュールでもプレタでもない、高品質で極少量生産のアーティスティックなデザイナーの服とアンティークジュエリーを扱うお店でした。ショウウインドウのサイズを目視で確認し、建物の脇の専用口から中に入り、事務所に案内されると、知り合いのアート・ディレクターが待って居ました。この仕事は彼の紹介だったので、挨拶を済ませて席に着きました。


 暫くして私の前に現れたクライアントを見て、私は目を疑いました。そこに居たのはピーターだったのです。そして、私の素性が全てバレてしまった事と、彼の本当の姿を知ってしまった事に、恥ずかしさのあまり、その場を立ち去りたい衝動に駆られました。


「初めまして。VMDディレクターの藤野美穂と申します。この度はご依頼賜りまして、誠に有難う御座います」


「初めまして。社長の佐藤康孝と申します」


「美穂さん、社長は君が過去に製作したウィンドウ・ディスプレイのデザインが大変気に入ったそうで、直々に指名されたんだよ」


 私はローマの休日のラスト・シーンの様に、周囲の誰も知らない二人の関係を胸に秘めたまま挨拶を交わし名刺交換をしました。そして、ロマンティックな恋に憧れていた私を消し去り、エロティックな羞恥を与える彼の瞳に映る、私自身の姿を見つめていました。





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 Insert song Erik Satie  Gymnopedies #1 ~ Gnossiennes #1,3,4,5




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