第一章・魔獣災害編

第3話:魔獣災害(本編スタート)

 エストリアーズ大陸の強国、トリニア共和国。

 その首都テルジネットから南南東に150kmほど。

 小さな農村の地主の家に生まれたロランは、14歳になっていた。

 いろいろあった幼少期を経て、彼は成長し、今ではアルファランの神童と呼ばれるまで、村の人たちの信頼を得ていたのだった。


 そんな中、グラントリニエ・ケスタと呼ばれる円環状の丘陵地帯の南端に存在するこの村で、今まさに「魔獣災害」と呼ばれる災害が発生していた。

 牧月プレリアール29日のこと。

 森の奥から出てきたイノシシのような見た目の魔獣の一群は、現在、村に猛スピードで押し寄せてきている。ロランはいたって冷静だった。彼には確信があったからだ。


 …数刻前。

 ロランの家に、血相を変えて飛び込んできたのは、村の南に住む農民、クリストフだった。

「アルファラン卿はいらっしゃいますか⁉」

「どうした、なんかあったのか?」

 父、ジョルジュは現在不在である。不幸にも、この日は偶然近くのメラージュという街に出かけていたのだった。


「ロラン様ですか。ジョルジュ様はどこにいらっしゃいますか?」

「父なら今頃メラージュだ。私が用件を聞こう。」

「なんと…いや、しかし…」

 クリストフはそのあとの発言をためらい、思案に入る。数秒のしかめっ面をしたのち、彼は口を開いたのだ。

「村の南方で魔獣の群れを発見しました!」

「魔獣⁉種類は?」

猪型サングリエと思われます。個体数は20以上。」

「距離によっては何とかなるか?」

 ひとまず安心だった。猪型は一般的にそこまでの脅威とはみられていない。

「とりあえず見に行こう。村南方だったな?」

 家を飛び出し走り出した。


 そして村の南の丘に僕とクリストフがたどり着いた時、そこには信じられない光景が広がっていた。

「8,9,10…これ絶対20匹とかのレベルじゃないだろ。50は居ると思うんだが?」

 クリストフは頭をポリポリと掻いて「すみません…」というばかりだ。

「現在どこに向かうか決めかねている様子だが、村には魔石を使用した道具がたくさんある。そのうち村に向かってくるぞ。」

「とりあえず私はここで見張っておく。クリストフは村の男衆を集めて、それからメラージュの国民軍にも連絡してくれ。」

「はい!」

 クリストフは震えた声で返事をし、緩やかな斜面を下って行った。

「さて、どうしたものか…」

 腕を組んで思案を巡らせる。この国では、”冒険者”という職業はとうの昔にほぼ消滅した。今は魔獣退治のときは近くの国民軍駐屯地に連絡し、討伐してもらうのである。ここから一番近い駐屯地はメラージュ。連絡すれば父も一緒に飛んでくるだろう。


 しかし、おそらく騎兵隊が出動するのだろうが、おそらく到着まで30分はかかるだろう。それまでに魔獣が村に向かい始めるのなら、自分たちで対処しなければならない。

「無理ゲーでは?」

 そんな独り言を漏らしつつ考えていた時、頭にある案が浮かび上がった。


「で、今何と…?」

 一通りの説明を集まってきた村人にしたのだが、男衆はどうやらまだ14の子どもが考え付いた案に対して疑念を隠せないでいるようだ。

「もう一回説明するぞ。」

「猪型魔獣は足が比較的短く、おそらくあまり急な坂を上れないだろう。幸いにも、村と魔獣の間に連続した丘が存在する。そこで守る。」

「また、葡萄の木が柵となり、この斜面では人間も魔獣も非常に動きづらい。魔法が使えるものはその段階で攻撃、威嚇をする。使えないものは各々鍬でも鋤でも持って威嚇し、牧草地に誘導するといいだろう。その際あまり追い詰めすぎないように。魔獣は小さくてもパワーがある。倒そうとはするなよ。」


「魔法を使えるものは名乗り出てくれ。」

 手を挙げるものは誰もいない。そりゃそうか。この世界では誰でも魔法を使えるわけではない。平均すれば10人に一人ほど。しかし魔法を使える者のほとんどは貴族かその血縁だ。

 魔法なし退治は厳しいな…そう思っていたところ、群衆の後ろで小さな手が上がった。


「俺、魔法使えるよ。」

「…君は?」

「ジャック。南の大工クリストフの息子だ。」

 その少年がそう答えると、クリストフが少年の頭をポカっと殴る。

「こら!敬語を使わんか!」

「愚息が申し訳ありません。」

 クリストフは萎縮した様子で言う。

「ジャック、君はどの魔法を使える?」

「火・水・風なら初級魔法一通りできる。」

 彼はどや顔でそう言い放った。確かにすごい。私と同じ年齢でそこまで魔法を扱えるものはなかなかいない。

「頼もしいな。他にはいるか?」

 そう言うと、集団の後ろの方でゆっくりと手が上がった。

「火魔法を少しだけ…」

 そう自信なさげに言うのは村の東の鍛冶屋見習い、シモン。

「大丈夫だ。特に火魔法なら威嚇効果が高いから心強い。」

「それでは、作戦開始だ。全員配置についてくれ。」


 そうして全員が配置につき警戒していた時、丘全体にほら貝のような、合戦の始まりの合図のような音が響き渡った。

「魔獣の咆哮か…?」

 ふと群れを見ると、一斉にこちらに向かってきていた。戦いが始まる。おそらく20分ほど時間を稼げば何とかなるだろう。

「来るぞ!気を引き締めろ!」

 若き指揮官の声が響き渡った。







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