電話

「商店街を使う方々にも注意してもらわないと」


 マスターの言葉に一同は頷く。


「ところで名探偵。対策を打つための情報はどうかな」

 

 巡査部長が探偵に語りかけると「”名”はもっと活躍してからです」と言いながらもメモ帳とペンを取り出す。


「警察署に報告することになっていますが、まずはこちらにも」


 彼の聞き込みによればこうだ。

 夜間での自転車のいたずらは全くなし。

 自転車の移動は昼下がりから夕方に集中している。

 放置状況。犯人が持ち去り場所から必ず見える範囲に自転車を置くとは限らない。


「少し動かすだけなら、そもそもやるなっての!」


 巡査部長は不満そうに手を首に当てる。

 そこに誰かの携帯電話が鳴る。鳴っている本人は一同の視線で電話に気付く。

 

 藤田さんが電話に出る。

 どうやら娘さんからの電話らしい。怒られているのだろうか。

 電話を切った藤田さんは申し訳なさそうに一同に頭を下げる。


「いや、最近は買い物にも娘の許可が必要になっちまって」


 その言葉にマスターは立ち上がると詫びる。


「これはいけない。買い物帰りに引き留めてしまって」


 その言葉に藤田さんは「何を言っているの」と照れくさそうにまた笑う。


「いやぁ、何を買うつもりだったのかも忘れちゃってね。せっかくだからマスターの顔を見ておこうと思ったのさ。今日は楽しかったよ。」


 そう言い残すと、藤田さんは笑顔で去っていった。

 それをマスターと探偵が店先まで見送る。

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