　ことの始まりは噂程度だった。

　それは”自分の自転車が離れた場所に移動している”というもの。

　止めたはずの場所から少し離れた場所、それも目に届く範囲内。なので、誰もが考え事の途中で、自転車から降りてしまったのかと思ったらしい。

　だが、噂が広まるにつれて被害者が相当数いると分かった。

　これは由々しき事態ということで地元警察も動きだした。しかし、パトロールを強化しても手掛かりは掴めず、いたずらは収まらない。

　何よりも自転車の移動は駐輪位置から10メートル以内。

　さらに施錠したはずのロックが解除されていることも厄介だ。

　鍵のかかった自転車を運んで移動させているなら不審だと分かる。

　だが、ロックを開錠されては警官は持ち主かどうか見分けがつかない。そのうえ、短時間で移動されてしまう。そのため犯行の瞬間を押さえるのに苦戦している。

　もちろん警察も手をこまねいているわけではない。

　警官をできるだけ動員し、持ち主の確認を徹底し始めた。

　注意喚起も強化中だ。

　手がかりもある。

　狙われるのは必ずアルミ製の自転車であること。

　その備え付けのロックだけが決まって解除される。

　なので、警察は備え付けとは別にロックをかけるよう呼び掛けている。

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