世間話

 しばらくは世間話に花が咲いた。


 バウムクーヘンの上品な甘さと、それに合うコーヒーがあるのだから。


「さすがは、マスター。腕を見るにしばらくは大丈夫そうだ」


 藤田さんは笑いながらマスターを褒める。


「フジちゃんだって元気そうじゃないの」


 その言葉に藤田さんは顔の前で手を振る。


「いや、引退後はダメだ。最近曜日の感覚が無くてね。娘に認知症じゃないかって」


 その言葉に一同は大丈夫だろうと声をかける。

 しかし、藤田さんは自身でも認知症を意識していると語る。


「いや、実はね。最近物忘れがひどくて。自転車をどこに置いたか忘れちまうんだ」


 それを自虐的に「毎度見当違いなところにあってさ」と笑う。

 だが、それらの話に全員の顔つきが険しくなる。


「フジちゃん。それだよ。それ」


 マスターが声をかけると。初老の自治会長さんが続く。


「藤田さん。それはどこで?」

「商店街の入り口かと思ったら途中にあったって、娘に……」


 そこで藤田さんも周りの真剣さに気が付く。


「そういや、今日は何かの集まりだっけか?」

「はい、自転車へのいたずらが多発しているのです」

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