バウムクーヘン

「おやおや、大層なものが来ましたね」 


 マスターが持ってきた箱を見て探偵が呟く。

 テーブルの上に置かれた赤い箱。出てきたのは輪っかホールのままのバウムクーヘン。

 光沢こうたくがあるかのような、黄金色こがねいろ飴色あめいろの断面に甘く優しい香りが食欲をそそる。

 職人の手作りなのだろう。砂糖でコーティングされた円の外側には小さな突起がぽつぽつと出ている。

 これは丁寧に生地を重ね焼きする過程でできるもの。


「マスター、お孫さんはいくつでしたっけ?」


 巡査部長は目の前のご馳走にそわそわしながら尋ねる。

 マスターは笑顔で「3歳ですよ」と答える。


「この前、息子が家族旅行に行ったんですよ。そうしたら孫がバウムクーヘンを大層気に入ったらしくて」


 マスターはそこで区切ると、照れくさそうに続ける。


「家族用に買ったら『じぃじにも』って譲らなかったそうで。嬉しいもんです」


 そこでテーブルに座った一同にも笑みがこぼれる。

 もともと集まった理由を忘れたかのようだ。


「では、コーヒーを注いでいきましょう」

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