集まった人々

 この日、喫茶店『秋雲』の閉店は早かった。


 「事件」の対策会議で貸し切りとなる。

 

 店内には大通りを挟んで向かい側にある、商店街の自治会長さん。

 さらに商店街の見回りを担当する交番の巡査部長。

 そして、『秋雲』の店主マスター


 そこに、しばらくして最後の客が入店する。

 濃い緑のコートを羽織った探偵である。


「いや、失礼。私が最後でしたか」


 若い探偵は申し訳なさそうにハンチング帽子を胸にあててお辞儀をする。

 それを高齢のマスターは笑顔で迎え入れる。


「これからコーヒーを淹れるところです。会議はそれからだそうですよ」


 そこに巡査部長が割って入る。探偵と親しいようだ。


「よう、名探偵。マスターはお孫さんのお土産を見せたくて仕方ないのさ」


 探偵は事件で呼ばれたのに、穏やかな話題もあることに驚く。

 マスターは探偵に照れ笑いをしながらカウンターでコーヒーを準備する。


 そこに来客がある。

 予定外の来客だ。


 「お店、開いているよね?マスター」


 お客は胡麻塩頭の短髪男性。年齢はマスターと同じくらいか。

 マスターは突然の訪問に驚いたが、嬉しそうに「フジちゃん!」と声をかけた。

 これに商店街の自治会長は「フジ自転車の藤田さん!?」と驚く。

 藤田さんは年齢を理由に引退したが、数年前まで商店街の自転車屋さんをしていた方だ。


「これはちょうど良かった。これから自転車絡みの事件の話がありまして」

「事件?」


 入口で不思議そうな顔をする藤田さんにマスターが声をかける。


「まぁ、それよりもコーヒーとバウムクーヘン、どうです?」


 

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