Chapter1 死に損なった都市⑥

 南千住。

 その日はフェリクス・史香のペアと科戸・梨乃のペアのチームでの任務だった。

 任務の内容はインフラ再建任務に就く陸自部隊の護衛。数日前にオルタネーターとの戦闘による余波で、JR常磐線、並びに東京メトロ日比谷線の南千住駅は破壊され尽くしていた。北千住から南千住にかけての架線は隅田川付近で寸断されてており、これの復興作業にあたる陸自施設科部隊をオルタネーターから守るのがフェリクスたちの任務だ。

「こちら葉月、異常無し」

《こちら科戸、こっちも異常無いよ》

 互いにインカムで連絡を取りながらフェリクスと科戸は周囲の警戒にあたっている。

《このまま何事も無く終わってほしいなあ》

「お前そういうこと言うと、大抵厄介なことが起きるんだよ。黙ってろって」

 封鎖都心の調査において鉄道インフラは最も重要な要素の一つとされている。封鎖都心内の調査を行うオブジェクターとエフェクターを比較的安全に遠方に輸送することが可能となり、調査の効率も上昇する。そのため鉄道の復興が出来たエリアは実質的に踏破成功とみなされた。無論、電力までは復興できないため、利用される列車はディーゼルに限られている。

 寸断された架線の周囲に自衛隊の部隊が展開され復興作業が開始される。

 菖蒲が自衛隊の部隊の傍に控え、フェリクスが周辺の哨戒を担当することになった。

 フェリクスは復興作業に勤しむ自衛官たちを遠目にみやる。

 自衛官がフェリクスたちオブジェクターとエフェクターを見る目は、大きく分けて三つに分けられた。

 先日の高田や金谷のように、こちらの身を案じたりしてフランクに接してくれる者。一方で、おおよその日本人と同様に化け物を見る目を向けてくる者。そして積極的に関わろうとせずに黙って任務を務める者。

 今回の自衛官たちは三番目だった。変に絡まれるより気が楽だ、とフェリクスは胸の内で呟く。

《ランニング遊歩道方面に多数のオルタネーターを目視で確認。撃退に向かってくれ》

 高所で周囲の監視にあたっている自衛官からの通信だった。

「了解。というわけだ科戸、ちょいと行ってくる。すぐ済ませてくるぜ」

《心細いから早く戻ってきてよー》

「言ってろ」

 菖蒲のおちゃらけた声にフェリクスは鼻を鳴らす。仮にも菖蒲も古参兵として見なされる程の実力者だ。

「さて、さっさと終わらせるとするかね。厚治が美味いもん買って待ってるからよ」

「はいっ!」

 史香が瞼を閉じ、意識をフェリクスに向けて集中させる。フェリクスも向けられた史香の意識を受け止める。

 そうして二人はゆっくりと瞼を開く。するとフェリクスは右眼が、史香は左眼が変貌していた。白いはずの結膜が黒く濁り、瞳は毒々しいアメジストの紫の輝きを放っていた。

〈レゾナンス〉

オブジェクターとエフェクターの意識のようなものが共鳴する。この状態に入ることで、ようやく人類はオルタネーターに対し対抗することが可能となる。

 レゾナンス状態になることで得られる効果は二つある。一つはオブジェクターとエフェクターの身体能力の強化だ。

 フェリクスと史香は指定された場所へ向かって走り出す。その速さは人の領域を超越していた。更には子供の史香さえもフェリクスの走る速さについていっている。

 だが二人の前に倒壊した家屋が壁となって立ちはだかった。レンゾナンスによる身体能力強化での跳躍でも飛び越えられない高さだと、フェリクスは目測する。

「史香、行くぞ!」

 フェリクスは足を緩め史香と並ぶと、彼女を小脇に抱え上げる。

 周囲の空間が揺れ始める。倒壊したり、あるいは破壊された家屋や建築物からむき出しになった鉄骨がガタガタと揺れ始めた。

 ばんっ、とまるで何かに弾き飛ばされたかのように史香を抱きかかえたフェリクスが空高く跳躍した。

 更にフェリクスは空中でまるでそこに足場があるかのように宙空を蹴り、ダッシュする。

 まともに落下すればアスファルトに叩きつけられる高度。だがフェリクスは着地の寸前でふんわりとクッションに包まれたかのように安全に地に足をつけた。

 これらの現象は全て、磁力がもたらす斥力によるものだった。

〈レゾナンスエフェクト〉。レゾナンスによってもたらされる二つ目の効果である。この旧二十三区の中でのみ、オブジェクターは人智を超えた超常の異能を発揮することができる。

 史香がフェリクスにもたらすレゾナンスエフェクトは〈磁力加速リニアドライブ〉。空間に磁場や磁界を展開し、対象物や己自身に磁力を付与することを可能としている。

「いました、フェリクスさん!」

 アナログ放送の空きチャンネルに走るスノーノイズの塊、オルタネーターがたむろしていた。

 フェリクスは鞘から二振りのショートブレードを引き抜き、構える。

 ショートブレード〈ボーンバイター〉。シマダディフェンシブツールズ社製のオブジェクターに支給されている武装の一つで長脇差大の両刃の剣である。刃はメタリックブルーにカラーリングがされており、銃刀法の特別措置によって封鎖都心の中でのみ使用を許可されていることを意味している。峰には装甲が施され、これによって頑強さを得ていた。

 オルタネーターが二人を察知しこちらに襲いかかる。不定形の体から触手が伸び、鞭のようにしならせフェリクスめがけて振り下ろす。

 だがフェリクスは触手をショートブレードで受け、片っ端から斬り落としていく。斬られた触手はそのまま塩となって砕け散っていった。

 踊るように剣を振り、オルタネーターの攻撃を弾き返していくフェリクス。そしてオルタネーターの猛攻に僅かな間が生まれた。

 決定的な隙。それをフェリクスは見逃さなかった。

 自身の足場と背中に磁場を展開、斥力によって弾かれたようにダッシュし急接近、肉薄した一体のオルタネーターを両のブレードで斬り裂いた。

 更に返す刀で横にいたもう一体を斬り伏せる。

 そして少し距離が離れた史香の方を振り返る。史香の周囲が影で覆われる。反対側にいたオルタネーターが史香掛けてのしかかってきた。

 だが、すぐに弾き飛ばされ上空に打ち上げられた。フェリクスが自身の周囲に強力な磁場を展開したまま突進し、斥力で弾き返したのだ。

 更に空中に打ち上げたオルタネーターを磁力で掴み上げると自分の方へ勢いよく引き寄せた。高速で飛来してくるオルタネーターをフェリクスはすれ違いざまに真一文字に両断してみせた。

 飛び散る塩を気にも止めず、ブレードを鞘に収め残心する。

 フェリクスの戦闘術に淀みのようなものは全く無かった。レゾナンスによって動体視力や反射神経も含めた身体能力全般が強化されていることもあるが、経験によるものも大きく寄与していた。一撃でもまともに喰らえば致命傷となる相手に微塵も恐れることなく拙速に立ち向かい、猛攻を捌き切ってみせる。更に史香の身にも意識配分を忘れず、コンマ単位で変化する状況にも臨機応変に対応できる判断力。

 フェリクスがこれまでにどれほどの死線を潜り抜けてきたかを証明していた。

 史香もまたフェリクスの戦い方に全幅の信頼を置いていた。彼と出会い、共に戦ってきた三ヶ月間、経験と実力に裏付けられた鬼神の如き戦いぶりを間近で見てきた。

 行く手を遮るオルタネーターを粉砕し、隅田川のほとりにあるランニングコースに到着する。監視を担当していた自衛官の報告にあった別のオルタネーターの群れの姿があった。

「さすがに数が多いな。史香、出力を上げろ」

 レゾナンスエフェクトの発動は基本的にオブジェクターの意思によるものだが、その出力のコントロールはエフェクターに委ねられている。史香はもうひと段階、集中力のギアを上げた。フェリクスの中で、活力のようなものが更に湧き出るか感覚を覚えた。

「まとめて片付ける。身を低くしてろ」

 言われて史香はフェリクスから離れて腰を落とす。

 磁気の嵐が吹き荒れた。フェリクスとその前方を中心として強力な磁界が展開されていく。

 フェリクスは二振りのショートブレードを構える。レゾナンスエフェクトに注ぐ意識、こちらに襲いかかってくるオルタネンターの放列、高まる集中力とタイミングが一致した時、フェリクスの毒々しい紫の眼睛が一際輝きを放った。

 展開された磁界の中をフェリクスそのものを豪然たる磁束が投射した。

 耳を劈くほどの炸裂音と共にフェリクスの姿が消え、オルタネーターの群れが塩となって砕け散ったはほぼ同時だった。 

 即ち――レールガン。

 超高速の突進と同時に放たれる斬撃は広範囲に及び、オルタネーターの群れを薙ぎ払ったのだ。

 降り注ぐ塩の雨の向こう側で、大技を出したせいか僅かに疲労の滲んだ表情を浮かべていた。そのあまりの怜悧さに、史香はわずかに息を呑む。

「ま、こんなもんだろ」

 頭や肩に降り掛かる塩を払い、髪をかき上げるフェリクス。その仕草が史香にはどうしようもなく蠱惑的に見えた。

 見とれていた史香の目が危機に見開かれたのはその時だった。

「フェリクスさん、後ろ!!」

 フェリクスの背後にまだ残っていた一体のオルタネーターが忍び寄っていた。

 だがフェリクスはそれも最初から見通していたかの如く、当然のように後ろ回し蹴りを放つ。蹴り飛ばされたオルタネーターが蹴られた箇所が塩となりながら、ノイズの塊は隅田川に落水した。

 悶え暴れながらオルタネーターが水没してゆく。だが水に触れた箇所からノイズが白濁化し塩となっていく。暴れた勢いで身体が崩れ落ち、そのまま隅田川へ溶けて流れていった。

 通常兵器が一切通用しないオルタネーターだが、オブジェクターによる肉弾戦の他にも水没させることが有効な手として知られていた。

「知ってたっての。あんまり俺を見くびってくれるなよ?」

 不敵な笑みを向けてくるフェリクス。だが「ぺっぺっ、塩が口の中に入った。あーくっそ」と顔をしかめる。そんなフェリクスに史香は安堵とおかしさに笑みをこぼした。

「葉月だ。追撃と掃討終わったぜ。そっちの状況はどうだ?」

 気を取り直してフェリクスは帰投の連絡をインカムに吹き込む。

《――――》

 返答はなかった。インカムから聞こえてくるのは、無言のホワイトノイズだけだった。

 その代わりに――悲鳴と銃声。

 人間の住む場所ではなくなった都市に、人間の悲鳴はよく響く。

 タタタタ、と乾いた音と絶叫が遠くの方で連続して聞こえてきた。自衛隊と菖蒲たちがいる方角だった。

 フェリクスはすぐに史香を抱え上げると、〈磁力制御〉の斥力によって弾かれたように銃声のする方角へ向かう。

 跳躍する先々の建築物の壁や屋根に磁場を展開し、それらを足場として先を急ぐ。

 悲鳴と銃声は止んでいた。痛いほどの静寂が戻っている。それが何を意味するのかをフェリクスは理解できていた。

 だがそれでも、一縷の望みというものを抱かずにはいられなかった。

 元の場所に戻ってきたフェリクスと史香を出迎えてきた者は誰一人としていなかった。

 架線に入り込んだ史香が息を呑む。彼女にとって信じがたい光景がその目の前に広がっていた。

 先程までそこにはなかったはずの積もった塩の山が転々としており、その傍には迷彩服が落ちている。それが意味していることを、史香はすぐに理解できた。

 史香が見たもの同じく目にしてフェリクスも苦悶に表情を歪ませる。

「おい!! 誰か生き残っていないか!?」

「誰かー! 誰かいませんかー!?」

 二人の声が虚しく都市に木霊する。誰何の叫びに返答は無かった。

 呆然と絶望を顔に浮かべる史香。その一方でフェリクスは必死に首を巡らし周囲に視線を走らせ続けていた。やがて一つの物陰を注視するように目を眇めると、そちらに慌てて向かっていった。

 奇跡的に一縷の望みは残っていた。本当に一縷でしかなかったが。

 物陰には梨乃の姿があった。身を小さくして潜め、口を必死に手で塞いで嗚咽を堪えていた。

「梨乃ちゃん! 梨乃ちゃん大丈夫!?」

「おい、大丈夫か!?」

 ひと目見てわかる外傷は、転倒によるものか、膝や肘を擦りむいている程度のものだった。

 彼女の傍には二、三人分の塩にまみれた迷彩服と装備の一式が転がっている。それを目にして、フェリクスは奥歯を噛み締める。

 だが彼らに弔慰を示すのは後だ。フェリクスは屈んで梨乃と視線を同じくして彼女に尋ねる。

「科戸は!? お前のパートナーはどこだ!?」

 しゃくりあげるばかりで答えられない梨乃に、フェリクスも思わず苛立ちを顔に露わにしてしまう。それに怯えて梨乃は更に口を閉ざしてしまった。

「おーい、こっちだよーぅ」

 聞き覚えのある呑気そうな女の声。フェリクスが慌てて駆け出す。史香も梨乃の手を引いて後に続いた。

「科戸、無事か!?」。

「ごめーん、しくじった……」

 菖蒲の腰から下、上半身と下半身が分かたれており、文字通り折れていた。辺りには白い結晶が砕けて散らばっている。

「……そんな、や、やだ、やだやだ……!」

 目に映る光景を否定するように史香は首を横に振って小さく呻く。

 もう首も固まってきて動かせないのか、菖蒲は濁りつつある目だけをフェリクスの方に向けた。

「ごめん葉月、もう目もぼやけてきたんだけどさ、梨乃は無事?」

「……膝を擦りむいただけだ」

「そっか。それならよかった……。帰りも送ってあげてくれる? あたしはもう無理っぽい……」

 自らの情けなさに菖蒲は苦笑してみせるが、口角を釣り上がると頬がひび割れ、白い細やかな結晶がはらはらとこぼれ落ちた。

「なんとかならないんですか。フェリクスさん!?」

 涙ながらに懇願する史香の頭を無言で撫でててから、フェリクスは徐々に白濁化していく菖蒲の前に跪いた。

「最期に何か言い残したいこと、誰かに伝えたいことってあるか?」

 もう何度も口にしているような、フェリクスのその口ぶりは慣れているものだった。

「あー……こういう時、家族とかに言い残したいことがあると思ったけど、いざとなるとなんも思い浮かばないや……」

 その代わり、とかすれた声で続ける。

「機会があったら、梨乃のことを悪魔呼ばりしたり勝手に祭り上げてるアホどもにさ、くたばれクソババアって中指立ててやってよ。あたしの代わりに……」

「……わかった。他には?」

 返事は無かった。菖蒲は既に塩の彫像と化していた。肌はざらついた白い結晶となり、その口はもう何も言葉を紡ぐことも無い。その眼はもう何も捉えることも無い。

 フェリクスはもう動かない菖蒲の左手に手を伸ばす。左手首に嵌めれられた手錠端末。認識票(ドッグタグ)の役割も果たすそれを回収しようとする。ぼきり、と菖蒲の手首の形をした塩の塊を手慣れた手付きで折ると、はらはらとフェリクスの手から崩れてこぼれ落ちていく。その手に残ったものは金属製の枷だけ。

 手の中の手錠端末にじっと目を落とすフェリクス。しばらくして大仰そうに立ち上がって、とぼとぼと重い足取りで全滅して同じように塩となった自衛隊員たちの元へ向かった。史香もその後についていこうとしたが、「梨乃と一緒にいてやれ」と制された。

 フェリクスは自衛隊の迷彩服と塩に埋もれた認識票を拾い集めていく。時折、深くうんざりしたようにため息をつきながら。

 やがて、片手が認識票で一杯になった頃、しばらく呆然と佇立するばかりとなった。

 どれほどぼんやりと立ち尽くしたのだろう。いきなり手の中に一杯に持っていた認識票と菖蒲の手錠端末を地面に叩きつけた。突然の、がちゃん、という音に史香も梨乃もびくりと身を震わせた。

「うぁぁあぁああッ!!」

 フェリクスが叫ぶ。誰へともなく、どこへともなく。

「もう沢山だ!! あと何人死ねば終わるんだよこんな茶番!! あと何人死ねばいい加減飽きてくれるんだ!!」

 それは慟哭だった。

「こんな東京なんか取り戻せるわけないだろ!! オルタネーターなんか全部倒せるわけないだろ!! 普通に考えればわかんだろうが!! 頭イカレてんのかよ!! どいつもこいつもよ!!」

 その悲嘆を聞き入れる者は、この東京の内にも外にもいない。

「いつ終わる!! いつ終わるんだよっ!! こんなことっ!!」

 慟哭に震えるフェリクスの背中を、史香はただ静かに見つめることしかできなかった。

 その悲嘆を聞き入れる者は、この封鎖都心の中にも、そしておそらくはその外にもいない。


 司の手の中にある最後の一枚の書類が灰となって灰皿に落ちていく。

 その様を深山は金縛りにあったかのように身じろぎ一つせずに見つめていた。

「正直なとこ、本気で東京を取り戻せると思ってる人なんているのかな? 深山さんはどう思う? 日本は東京を取り戻せるかな?」

 あちち、と焼け落ちた書類を持っていた手を振りながら、司が口を開く。

「それは……」

 誰もが抱いた疑問だ。されど誰もが言葉にしてはならないと、口を噤んだ疑問でもある。

「先にオブジェクターとエフェクターが全滅するのが早いだろうね。なまじ取り戻したい存在が目の前にあるから日本人は東京を諦めることができないんだ」

 オブジェクターとエフェクターと呼ばれる人間の存在が確認され、そして東京奪還のために本格的に動き出してから四年が経つ。その間、東京に人が戻れると判断できる成果は何一つ得られていない。

 そればかりか、湯水のように注がれる財政や人的資源などのリソースが人々の生活を圧迫し、国内情勢は疲弊の極みにある。誰も彼もが精神的にも経済的にも汲々としている。

 それを証明するかのように、今日では特定の世代の女児の人口は著しく少ない状況にある。

 このままではいずれ、この国の総てが「東京」という奈落に引きずり込まれて沈む。

「もう取り返すことのできないものなら、いっそのこと壊して失くしてしまったほうが精神衛生的にも良いんじゃないかな?」

 この部屋では政府の意向とは別の方角を向いている思惑が醸成されている。いや、この部屋だけではない。

 外務省から出向してきた自分が今、この部屋にいるということは司千歳の得体のしれない思惑に多少なりとも関わっているということだ。

 深山は僅かに首を回し、自分の傍で控えている阿波野にも視線を向ける。この阿波野という女も防衛省から出向してきたと聞いている。この防衛省の背広組の女は、まるで司の今の言葉を待ちわびていたかのように、眼鏡の奥の瞳に決意のような光を宿している。

 嵌められた。自分の出向元である外務省にも、そして目の前の女にも。二度と抜けだすことのできない泥沼に。

 深山は慄然と小さく口を開けたまま呆けるしかなかった。

 自分は一体、どんなとんでもないことに関わっているんだ……。

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