第4話
多忙の中でもダグはそつなく仕事をこなし、私に会いに来てくれた、週に一度しかない休みの日を私の執事として働くタグに、辞めても構わないと言ったのにも関わらず、お嬢様の側に居るだけでも心が安らぎますのでこのままで結構ですと言われた。
まぁ普段多忙な身からすれば紅茶を淹れながら日向ぼっこするか、ダンスの稽古や、美顔ローラーを只ひたすら振るぐらいしかしていない私の側使いでは体力が有り余って仕方が無いぐらいだろう、私はそう解釈してダグとの日々を過ごしていた、今まであまり家から出なかった私は、ダグという友達を得て、俺とナンシーとダグとでよく散歩に出かけた、こうやって改めて外に出ると分かるのだが、ダグへの村民からの信頼や、村民への礼節を弁えた立ち居振る舞いはやはり目を見張るものがあったり。
村の男衆がナンシーや俺を見る時の目の泳ぎ具合が明らかに異質で目の中に水族館でも建設予定を建てているのか色目をこちらに向けられているのが分かる。
女性が男性に胸をみられているときは気付くと聞いたことがあるがこんな感じだろうかと思う。
前世じゃ視界に入らない様に逆に避けられてたのでなんか変な気分だが、悪い気はしなかった。
「そうです、お嬢様ルドガー家の長女という誇りを持って、時には笑顔で時には凛々しく、強弱をはっきり付ければ見るものは惹かれますのでそのことを意識してこれからは行動していきましょう」
そう助言をするナンシーはあくまで側使いと言う姿勢で私の3歩後を追従してきていた。
横に顔を向けるとダグがあたりの住人を見渡していた。
少し挙動不審かとも取れるその行動はすぐに分かった。
「エイドさん!」
ダグが声をかけた先には屈強なそれはそれはな人物が立っていた。
「おう、ダグデートかい?」
「ち、違いますよ! こちら領主であるルドガー家の長女でエレット・ルドガー様です!」
「やっぱりな、噂に聞いていた通りの美人さんで驚いたぜ」
「初めまして、ご紹介にあずかりました、ルドガー家長女エレットと申します、以後お見知りおきを」
「お久しぶりですエイドさん」
ナンシーが目の前の男性に挨拶をしたのを見て何か疎外感を覚えた。
「ところでエイドさんもう出歩いても大丈夫なのですか?」
「ああ、この通りよ! 毎日悪かったなダグ」
「いえいえ、このまま農業から逃げられでもしたら大変ですから、お目付け役がいないと」
不敵に笑うダグをエレットは初めて見た。
「バカ言え、俺が逃げるのはナンシーさんとだけだって決まってる! ね?」
そういうとエイドと言う男はナンシーにウィンクをした。
「私には仕事がありますので」
ナンシーはただただ真顔で返した、なんだ村でもナンシーはこんな扱いをされているのか、逆か? 話してはいけない内容ではなくするためにわざとこういう立ち位置に納まっているのか?
「お仕事に熱心な方とは存じておりましたが、こうも簡単に断られると堪えますな」
「エイドさん浮気はダメですよ! 今度奥さんに言いつけますからね!」
「違うって! 逃げるのは村の男衆からだって! 村の男たちがエドガー家に一目ナンシーさんを見ようとあの手この手の理由をつけて家を訪問しようとするもんだから、俺が止めてんの! こう見えても俺がナンシーさん最終砦なんだぜ!」
浮気、その言葉に過剰に反応してしまった、10年物のアンティークの飾りなのにもかかわらず、それに付随する記憶が嫌でも思い起こされる、俺はまだ心のどこかであの子を思っているのかもしれない、彼女の記憶が沸々と煮えてこようとするのを俺は抑え気づけば頭を振っていた。
「お嬢様どうなさいました?」
「い、いや、大丈夫よ」
「どうやら顔色が悪いようですね」
「ダグお前んちを貸してやったらどうだ、すぐそこだろ」
「いや大丈夫よ、これぐらい」
「お嬢様人に甘えることも覚えましょう、いざと言う時に一人で抱え込んでしまっては賢明な判断も愚者の真似事になってしまう」
ナンシーの言葉に後押しされ、私たちはダグの家へと向かった。
「ただいま」
ダグが声をかけるなり家の奥から2人の女の子が駆け寄ってきた。
「おかえ・・・」
最後の言葉を発しないまま女の子たちは家の奥へと引き返してしまった。
そのすぐ後からヒソヒソ話が聞こえるのと同時に母親らしき女性とその後ろにくっついた先ほどの女の子二人が後をついてきた。
「おかえりなさいダグ、今日もお勤めご苦労様」
「母さん紹介するね、こちら領主様の長女エレット様とメイドのナンシーさんお嬢様の体調が優れないようなので、うちで一休みしてもらってはどうかと言うことで呼んだんだ」
「まぁ、それは大変ね、お茶を入れますので、こちらへ」
二人はリビングへ通された、中はいたって普通の民家の域を出ない民家だった。
「お嬢様どうなさいますか? ベッドで横になりますか?」
べ、べ、ベッド!? bed!? いやいやそれはbadだ!
よそ様の家にまで来てベッドにもぐりこんでみろ、想像しただけで末恐ろしい!
「い、いえ私はこちらで大丈夫よ? べ、ベッドなど借りたら申し訳ないわ」
「ですがお嬢様先ほどより顔色が大分優れないご様子ここは一度お言葉に甘えてはいいかがでしょうか?」
違うんだナンシー! これはベッドと言う言葉に化学反応を起こしてだな! これは体調が悪いのとは一切関係ない! だからできるだけそっとしておいてくれないか!
「お姉ちゃん大丈夫?」
先ほど出迎えてくれた女の子たちが心配そうに私に近寄ってきてくれていた。心配されることに慣れていないから余計にしどろもどろになり、呂律が回らなくなるし、何しろこの子達可愛い!
「だ、だ、大丈夫よ! き、き、きっと良くなるから!」
どうしてだろう、突然前世の記憶が蘇り、隠キャ時代の遺物である吃音症が再発症してしまった!
「とりあえずダグお嬢様をベッドへ」
ダグとナンシーはアイコンタクトで頷きあい、少し無理矢理にでもベッドに寝かせようとしてきた、そして先導しようとしてダグの手が私の手に触れた瞬間だった。
身体中に電流が走るようだった。
俺は突然の出来事に悲鳴をあげ、気づけばダグの家を出て、自分の家へと走り出していた。
晴天の霹靂なのだろうか、突然頬を伝う雨水はどこか塩気がさしていた。
それからと言うもの私は部屋に閉じこもった。
異世界転生などしても所詮前世は陰キャ、自室で性の快楽と共に頂点へと達するのがお似合いで、外に出て頂点へと立ちことをなすということが間違っていたのだ、外に出てもろくなことがないのは幾度となく証明されたわけだし。
そんな時だった、いつも身だしなみを整えている化粧台に何者かが姿を現したのは。
「久しぶりね元気にしてた?」
鏡の中には何を隠そう薄い羽衣を身に纏ったいつぞやの女神様がいた。
「ああ、ぼちぼちな」
返す言葉がないというのはこの時のために作られた言葉であると俺は思った。
元気などあるはずもなく、ただ自分の人生に絶望しているかのように俺は気づけば化粧台の椅子に腰かけて、鏡の中に映る女神を眺めていた。
「嘘をついても無駄よ、全部分かってるんだから」
「じゃぁなんで聞いただよ」
「今までお嬢様然としていた口調も今となってはどこえやらね」
「そういえば、今までは意識しなくともなっていたような・・・?」
「この前はごめんなさいね」
突如として切り出した言葉に女神は少し浮かない顔でいた。
「あなたが突然他人と話せるようになると思う? 酒の力を借りてもそんなことは無理よ、あなたの性格じゃ、だから私は力を貸してあげていたの、けれどこっちで諸事情があって、あなたを構っていられなくなった。そんな時あなたは外に出て突然活発に動き始めるんだものびっくりしちゃった。で、気づけばあなたは見知らぬ人間たち4人に接触していたわけ、話は入っていたのだけれど、こっちの用事のほうが重要だったの今回も私の落ち度ねごめんなさい、これこそ汗顔の至りってやつね」
女神は鏡の前でその金色に伸びた髪を地面へとたらしながら腰を折って頭を下げた。
「なんだ、そんなことか」
「ええ、両親とナンシーは別だけれどね、あの人たちのあなたを思う気持ちは本物よ、まぁ娘と主なのだから当然よね」
女神の物言いに俺は何と思えばいいのかさえ分からなくなっていた、女神が俺を手伝っていた、そうかダグと話していた時俺は自分の意志で話していたわけでもないのか、考えてみればダグに裸を見せたときなんとも思わなかったのに、手が一度触れただけであのてんぱりよう。
「そうね、あれは私がやらせたことよ、少しのハプニングが二人の仲のスパイスにでもなればと思ってね、けどもうそんな悠長なことは言ってられないわ、少し荒療治になるかもしれないけれど、接触しなければならない人ができたし、その先に待つ人物をあなたに会わせないといけないの、詳しい話はまた後日するから」
女神はそういうと鏡の中から消え去ってしまった、先に待つ人物が気になりかけたが今は気持ちを落ち着かせることに集中せねば、荒療治と言っていたからな・・・ダグ・・・
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