第25話
よく反り返る指先が更にしなって、真っ白い内腿を下から上に撫で上げた――この感触を、以前どこかで誰かがロウセキに譬えていたっけ。
由香里は偶々知っていたが、彼女の世代でロウセキを知っている者はいないだろう。その粉をふいたロウセキのような膚がうっすらと汗ばんできて、次第に指に貼り付くばかりのしっとりと細やかな感触に変わってきている。
乳首をゆっくりと揉み上げながら、仰向いた顔を盗み見た。
ピクピクと睫毛が震え、閉ざされた目蓋や頬に鮮やかな血潮が盈ちてくるのを見るのが由香里はとても好きだった。
そっと乳首を唇に含んだ。
腹が波打った。唇が開き、語り得ない言葉を探すように蠢いた。エロチックだった。
右手を臀部に回して、半横臥にさせた。たっぷりとした腰部が更に盛り上がった。左の臀部を掴み、ねちっこく揉み上げた。呻きが漏れ始めた。
今日は特に念入りに責めてあげよう――。
乳首を強く吸った。するとしをりの両手が伸びてきて、由香里の頭髪から肩、そして背中を浮遊するように撫でた。
由香里の内には二つの正反対な性欲が潜んでいる。
一つは受動的な欲望。ごく一般的な女性の性欲だ。もう一つは相手を責めたいという欲望だ。そんな折の相手は女性がいい。男女では構造的に役割分担が決まっており、あべこべにすることが不可能だ。女性なら本性が受動的なので、すんなりと苛みを受け入れてくれる。
奔放な由香里は以前から女も相手にしてきた。だが女の相手をしてくれる女性は少ない。それに相手にする女性は美人でセクシーでなければ嫌だった。相手が男の場合は美醜にはあまり関心がないのに、女が相手だとどうしてそうなるのか、由香里は自分でも不思議だった。
ともあれ、女性とセックスできる機会は稀だ。初めてしをりを相手にした時、由香里は下半身が溶けて流れるのではないかと思う程激しく欲情した。しをりは相手として基準を満たしているという以上に、これ以上はない大輪の花だった。それは結婚以来、幸雄以外の者とする初めてのセックスだった。女が相手なら幸雄に対する罪悪感もなかった。
それは、麻里が看破したように、洸一郎の死後、孤閨を守ることにしをりが堪えきれなくなった頃合だった。その頃しをりは、物理的な接触に過敏になっていた。ほつれ毛が額にかかるだけでも欲情した。由香里のアプローチに体もなく落ちたものだ。
以来由香里が男役、しをりが女役という構図が続いてきたが、そろそろ役所を交替してもいいかなと由香里は思い始めている。無我夢中になると、しをりも攻勢に出てくるようになっていた。
だがその前に、新しい関係がそろそろ――多分今日生まれるのだ。どんなに鈍感な幸雄でも流石に気付いた様子だった。さっきはそんな目をしていた。
そう思うと由香里は余計に昂奮し、ねちっこくしをりの肉体を苛むのだった。
頭をしをりと反対向きにした由香里は、しをりを二つ折りにした。ぐにゃりとすぐに、膝が頭の後ろに回るほど曲り、股間が一番上部に持ち上がってきて、大きく開いた。
淫らに突起した肉の茎を指と舌で刺激してやる。その下の、餓えた子供のように涎を流している大きな構造にはけして手をつけない。その部分で女性を満足させようと思ったら、もともと男に敵うわけがないからだ。
そのスタンスを、由香里は最初の相手だった若い同性愛者の友人に教わった。その友人は白人のストリッパーから教わったのだ。
強張った小さな芽と小水の口、括約筋に守られた深奥だけを相手にしをりを責めあげる。その間自らはしをりの顔に跨がったりはしない。しをりを快楽に耽溺させてやりたいという思いからだ。
しをりは体臭の強いほうではない。それでも微かに立ち上る甘いアロマと、ビロードのような手触り、クリームを舐めるような舌触り、こちらに貼り付いてくるような細かい膚――由香里は我を忘れ、陶然と顔を埋めた。
その動きが優しすぎたのか、じれたようにしをりが下から腰を突き上げた。
それがまた由香里を昂らせた。喉を開いて虎視眈々と獲物を呑み捕ろうと狙っている真っ赤に充血した陥穽を注意深く避けながら、窒息せんばかりに顔をめり込ませていった。
そのせいで、幸雄が入ってきたことにすぐには気付かなかった。
気付いた時には、幸雄はしをりにキスしていた。
長く感じられるキスだった。押し付けあった唇の間で、舌を盛んに絡み合わせているのだろう。しをりがぴくぴくと肩を震わせ、荒い息が鼻から漏れた。
幸雄は既に全裸だ。筋肉の張った脚の間に、男の武器が、野蛮な攻撃本能も露わに怒張していた。
それを見て、由香里は一層欲情した。今のところ、しをりは望み通りすすんで幸雄を受け入れているようだ。心の中にあった微かな懸念が霧散し、由香里はいっぱいにアクセルを踏み込んだ。
幸雄はしをりにフェラチオをさせ始めたらしい。それもいきなり深く。しをりの口から微かな喉鳴りが漏れた。
それも束の間、幸雄はすぐに由香里の目の前にやってきた。
キスされた。
ひとしきり由香里の唇を貪ると、幸雄は頭を下げ、屈むようにしてしをりの尻を拡げ、括約筋の中に舌を突き入れた。由香里に責められていた肉茎との間――女性の最も主要な部分が空席になっている。その真上で、二人はまた舌を絡めたキスをした。男のキスは女のキスよりも力強く、刺激に満ちている。由香里は思わず息を乱した。幸雄の指は由香里の乳首を揉み、由香里の指は幸雄の、しをりの唾液で濡れた道具をしごいた。
幸雄が膝立ちになって、屹立したものを由香里の眼前に突き出した。待っていたようにすぐ由香里はそれを銜えた。由香里の大好物だ。それを一種類か二種類のドレッシングだけでシンプルに味わうのがいい。始めは唾液というドレッシングだけで。やがて愛液というドレッシングをミックスさせる。そちらはこれから自家製でないものも増えてくるだろう。そこにしばしば男という食材の肉から滲みだす汁も混入し、すると旨味がぐっと増す。肉汁は芳香をも添える。
銜えながらも、しをりの茎を刺激し続けた。
やがて怒張が糸を曳いて由香里の口を離れていった。
幸雄は寝転んだ。横臥の姿勢から、仰向けのしをりの陥穽に自らを埋め入れた。
「きゃああっ――!」
しをりの口が絶叫を発した。
屋敷中に聞こえるのではないかと思われる程の大声だった。しかし今日は休日なので、家政婦はいない。朝、顔を見せた膳場もとっくに姿を消していた。
由香里は茫然とした。
場の空気が一変していた。
瞬きする一瞬の間の出来事だった。なす術を知らず、由香里は自失のまま固まった。男根の存在感はかくも絶大なものなのか。
営々と積み上げてきた女達だけの秩序がいとも易々と破却されたことを彼女は感じた。頭では分かっていたことである。男である幸雄が加わることによって、女二人だけの世界が変容するのは当然だった。男の性がもたらす摂理はけして女が与えられるものではない。だから悔しさややきもちの気持ちは湧きはしなかった。
由香里はただしをりの豹変に驚いたのである。それ程劇的だった。浜辺を泡立てて洗うだけだった穏やかな波が、突如猛り、立ち上がり、岩礁に激突し、雨のように派手な飛沫を飛散させる――そんなドラスチックなしをりの変わりようだった。
幸雄はというと、彼女のそんな感慨とは無縁に、最硬度にまで仕上がった抜き身を突き入れ、ただ猛然と女体を責めたてていた。慣れ親しんだ光景だ。だが相手は自分ではない。自分に構う姿しか知らなかった幸雄が、今は別の女を苛んでいる――その光景が不思議で、また新鮮だった。
幸雄のものが勢い余ってしをりから外れた。
濡れた、湯気が立ちそうな巨きな道具が由香里の目を射た。すぐにまた挿入しようとする幸雄の体の前に夢中で顔を差し入れ、貪るようにそれをしゃぶった。次いで、まだ挿入の形に開いているしをりの体口に舌の腹を押し当てた。しをり相手についに自ら〝禁〟を破った瞬間だった。花弁の縁は猛烈なストロークに早くも白濁した澱を溜めていた。その汚れを口の周りに付着させながら、中心に舌を挿し込んだ。二三度奥を抉ってから、幸雄に譲った。すると、
「あ!?」
自らの潤った体奥にも同じように舌が挿入された感触があった。しをりも女だけのルールを放棄したのだ。手を伸ばした幸雄が親指の腹で固い突起をグリッとねぶったのが同時だった。
一瞬で由香里の理性がふっ飛んでいた。
幸雄の尻にむしゃぶりつき、撥ね飛ばされぬようしがみつきながら臀部を割り、男の深奥に舌を捻じ込んでいた。
気が付くと、いつの間に射精したのか、その残滓を噴き出しながらびくびくと首を振る男のものを擦り上げながら、由香里はしをりの開いた花弁にべたりと唇を圧しつけて、逆流してくる夫の精を啜っていた。
幸雄はそんな由香里に一度キスをすると、背後へ回った。
尻の肉を左右に強く開かれた。拡がる花弁に引っ張られて、体内が大きく口を開ける感触があった。刺激的だった。
だが、そこはすぐには充たされなかった。
粘性のある液体が口内で撹拌されるような卑猥な音――しをりが口蓋をまだ湧出する夫の蜜で満たしながら、激しく怒張をしゃぶりだしたのだ。
待ちきれずに、由香里は尻を振った。その様子に、しをりが濡れたような視線を投げた。
突然それは侵入してきた。
「ああんっ!」
鋭く叫んでいた。自分でも驚くことに、瞬間に達していた。
それからはもう三人とも獣と化した。
男の体液と女の体液が、どれがどうといえない程混淆したドレッシングに全身まみれて、互いを貪り、抉り、締め上げ、埋まりこんだ。
幸雄はとうとう精を出し尽した。刺激に対して全く無反応になってしまった。
ノン・プレイヤーはひっそりと幕の後ろに身を隠すに如くはない。女達はまだ満足しないのか、69になって互いを貪りあっているが、かなり荒々しく指を挿入しあっていた。幸雄は知らないのだが、ルールは確かに変わったのだ。
夫婦の部屋に引き揚げる際、二人は全裸の体をぶつけ合い、縺れあいながら歩いて行った。由香里は幸雄の尻の奥に、幸雄は由香里の股間の前に指を挿入していたが、実は幸雄の方は全くのお付き合いだった。
空腹で、喉もからからだった。
時計の針をみて、幸雄はびっくりした。なんと六時間も飲まず食わずでセックスし続けたのだ。
飲み物を探すのももどかしく、幸雄は水道の水を手で掬って飲んだ。それから口にたっぷり含み、それを口移しに由香里の喉に流し込んでやった。
布団を被ると、さっそく由香里が幸雄のものを握った。しかしそれは冬眠中の両棲類のように愚鈍だった。諦めた由香里は幸雄の手を取って、自分の両脚の間に導いた。表面の肌は既に乾いていたが、そこだけは内側が地球の深部のように熔けていた。指の挿入の瞬間、由香里は陶然とした笑みを浮かべたが、すぐに寝息をたて始めた。
その寝顔を見守りながら、幸雄もまもなく眠りに落ちた。
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