第20話
ゆっくりとアメリーから
男の道具はまだ屹立していた。短時間で達すると、まだ余力を感ずることがしばしばある。
清二は和室を出て、居間に行き、酒で喉を潤した。それから和室に戻り、布団の下に隠しておいた避妊具を取り出した。相手に逃亡の隙を与えぬようにすると、最初からは使えないだろうと予想していた、その通りになった。だが一度ものにしてしまえば、あとは好き勝手だ。
アメリーは移動していた。
窓側の比較的暗い隅に背を向けて、正座していた。背を丸め、背面以外はうなじと髪しか見えない。胸を庇っているらしく、腋の下から白い指がのぞいている。
清二は真後ろにしゃがみこんだ。
丸い肩から背中を、まるでなめくじが這うように撫で下ろしていく。
「へっへっへ……」
アメリーはピクリともしない。
柔らかい餅のような臀部を握り、指に圧を加えながら肉を手前に手繰る。これで敏感な領域全体が引っ張られて拡がり、内部にも刺激になっているはずだ。
アメリーの背に微細な漣がたった。
勃起した先端を尻の肉に押し付けた。こうした姿勢で密着していると、子供の頃よくしたお医者さんごっこを思い出す。
腋の下もこじ開けて手を突っ込み、華奢な指を放逐して、豊かな胸を鷲掴みにした。汗に濡れた先端がたっていた。
清二は片手でコンドームを装着した。
アメリーを前へ突き倒した。
「ああっー」
情けない声があがった。
止まりかけたサイコロがコトリと最後に回り、1の目が出たように、彼女の赤い「1」の字が目に飛び込んできた。
「1」の中央を両手の親指で拡げた。襞の奥で口が開きかけた。小突起が濡れて光っている。
襞を大きく割って、内側を覗いた。
うむ……。
女っぷりのいい道具だった。大きすぎるということはないが、総てにめりはりがきいて立派だった。
濡れ方も申し分なかった。
前触れもなく清二は押し入った。
「あっ!」
アメリーがまた短い悲鳴をあげた。
「いちいち騒ぐな!」
尻を引っ叩いてやった。
それから猛然と突きまくった。
絶え入りそうな呻きが断続的に続いた。
一度放出したうえに避妊具を装着した道具はなかなか昂らない。
女体をひっくり返して、また正常位になった。
アメリーは目を瞑っていた。観念した顔も綺麗だ。額に垂れる前髪が気ままに踊った。手は躊躇いがちに、突っ張った清二の両腕に添えられている。
しばらく清二だけが一人で動いていると、驚くことに徐々にアメリーが反応し始めた。
脚を曲げて上げるようになり、更に前後に揺することで、軽く迎え撃つ動きを始めたのだ。
体の緊張はまだ完全にはとれていないが、動きはずっと柔軟になった。そのため、男の先端が感じる刺激が飛躍的に増した。内部の表情もニュアンスに富んできた。
これは――
清二は訝しんだ。
アメリーが感じだしたとは考えにくかった。
ポルノ小説によく、初めての女が痛みのあと次第に感じ出して、オルガスムスに達するという筋立があるが、実際にはそんなことは起こりっこないと清二は思っている。
緊張と怖れの中で体験する破瓜はただただ痛いだけに違いないのだ。快感は回を重ねることでやって来る。
登山のようなものだ。素人がいきなり高峰の頂に立つことなど不可能だ。高山病にかかり、遭難してひどい目にあうこと必定だ。普段から足腰を鍛え、低い山から徐々に経験を積んでのち、やっと高峰の頂に立つ喜びが得られるのだ。無論元々心肺能力の高い者はいるし、頑健な身体に恵まれた者もいる。だから高峰を踏破するに至る時間には個人差がある。結局至り着けない者もいるのだ。だがそうした才能に恵まれた者でも、初登山では無理だ。清二は女ではないので、女体の感覚が分からないから断言はできないが、経験上そう確信する。
するとつまり、とにかくアメリーは清二の意を迎えようとしているらしかった。何故だろう? 疑問は感じたが、この際そんなことはどうでもよかった。
たっぷり時間をかけて、清二は二回目の放出をした。
「う~む」
清二は湯槽の中で四肢を伸ばした。朝から二人も女が姦れて気分がよかった。片手に握ったカップ酒が旨い。すこぶる快適だった。
湯からあがってスポーツウェアに着替えて戻ると、まだアメリーはいた。
とっくに逃げ帰っただろうと思っていたので、意外だった。
しかもまだ裸のままだった。さっきと同じ位置に、さっきと同じ姿勢で背をむけて正座していた。違っていたのは、ブラウスで胸から腹を隠していることだった。
カップ酒を持ったまま、清二はアメリーの身体の側面を眺める位置に胡座をかいた。
「おめえ、もう帰れ」
呼び掛けを〝君〟から〝おめえ〟に変えていた。
アメリーは返事をしない。
「母ちゃんが心配すっぞ」
「はい……」
か細い声でやっと返事があった。だが一向に動き出す気配はなかった。
「どうした。またまんこやりてえのか?」
初めてアメリーは清二と目を合わせた。怒りと非難の目だった。頬が染まっているのは昂奮と羞恥のせいか。
清二はびくともしない。
アメリーはおずおずと目を伏せてしまった。
他愛ないもんだ――清二は薄笑いを浮かべて、ものにしたばかりの女体をねめ回した。今後この体をどう責めてやろうか――考えるだに頬が弛んだ。
「……さい」
アメリーが小声で何か呟いた。
「あ?」
「おあし下さい」
今度ははっきりした声だった。
清二には意味がすぐに分らなかった。
分ると猛然と腹が立ってきた。おあし――つまり金を寄越せといっているのだ。
「何だと。てめえ……」
今度はアメリーは清二を正視していた。
「私、額に汗して働きました」
何をこの野郎――と言おうとして、清二を言葉を飲んだ。相手は一歩も引くまいという真剣な眼差しだった。
「お願いします。私働かなければなりません。母の薬代を稼がなければいけないのです」
いきなりアメリーは頭を畳に擦り付けた。しばらくそのまま動かない。
ふいに清二は得心した。
考えてみれば、金の関係にした方が楽なのだ。それなら厭きればすぐ切れるのだ。後腐れがない。
アメリーの考えに乗る気になった。
「おめえの言い分にも一理あるわな。わかった」
アメリーがぱっと顔を上げた。顔が輝いていた。あどけなさが残る無邪気な明るさだった。言っていることとの乖離に呆れつつ、清二にはその顔が妙に眩しかった。その間ブラウスの存在は忘れられていた。無防備の実年齢を裏切る成熟した乳房が表情とアンバランスだった。
幾ら払ったらいいのか――清二は迷った。この年齢の女の〝相場〟が分らない。まあ二万円――出しても三万円かなと思ったが、五万円だした。
「こんなに……」
アメリーは目を輝かせた。
「初乗り運賃込みだ。今回だけだぞ」
「ほんとに有難うございます。あの……洗濯物干します」
洗濯機が止まったのを聞いていたようだ。
「よせよ。気ぃ使うな」
「でも、お礼致します」
もうアメリーは動き出していた。まずは清二が毟り散らかした衣服をかき集めた。
「いいから。それより風呂入れ。その体のまんまじゃ帰れねえだろ?」
「はい……。でも人様の家で、あつかましくありませんか?」
「酒呑んで、まんこやってりゃ、もう充分厚かましいだろ?」
「……はい」
恨めしそうに清二を見た。
「ほら」
「はい」
アメリーは風呂場へ向かった。
清二は洗濯機から洗い上がりを取りだし始めた。
するとすぐにアメリーが出てきた。烏の行水だ。
清二が用意してやったバスタオルを恥ずかしそうに身体に巻くと、隅の方で着てきたショーツをそっと着けようとした。
「それ穿くのかよ?」
「はい」恥ずかしそうに答える。
「汚ねえだろ?」
アメリーは真っ赤になった。
「でも、替えは持ってきてませんから」
「パンティーならこの家には売る程ある。好きなの穿いてけ」
清二はアメリーを佳花の箪笥に連れていった。
抽斗を次々開けてみせると、アメリーは目を瞠った。
プレーンなもの、高価そうなものなどに混じり、セクシーなものも沢山ある。穴の開いたのや 透けたもの、殆ど紐だけのもの、ブラジャーと一体になったもの等様々だ。
「すごいですね」
「な? 一枚や二枚なくなっても気付かねえよ」
清二は一番下の抽斗の奥の隅から適当にピンクのショーツを抜き出した。
「穿きな」
「はい」
素直に、バスタオルを着けたまま器用に穿いた。
「どれ。見せてみな」
清二はバスタオルを剥ぎ取った。
アメリーは恥ずかしそうに腰をくねらせた。
背はアメリーの方が佳花より高かったが、腰回りの大きさはほぼ同じだった。
こうして実際着けてみると、アメリーが着けていたショーツと佳花のショーツの違いが際立った。佳花のはセクシーアイテムというわけではないのに、キュートでチャーミングだった。アメリーのは野暮ったいだけだった。
アメリーにもそれは分かったらしい。洗面所の鏡に映った姿をじっと瞶ていた。
清二はブラジャーも選んでやった。
胸はアメリーの方が佳花より大きい。カップからはみ出た双丘が窮屈そうに盛り上り、くっきりとした谷間を造った。
「ついでに服も選べ」
「ええっ!? とんでもないです!」
「遠慮すんな」
自分のものではないから清二は気前がいい。
クローゼットにアメリーを連れていった。
佳花はクローゼットを四ヶ所も持っている。夏服、冬服、あい、そしてフォーマルとドレスとコートに分けている。夏服だけでも300着はある。
何故これ程服を持っているのか?
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