第19話

 あいつ、また何かしくじったのか?

 だがこの日少女は川の方は向いていなかった。こちらの方向を見ていた。視線の先は、どうやら昨日荷物の運び込みを手伝ってもらったこの家の勝手口のようだ。

 どうやら清二に用があるらしい。

 用件はすぐに推察がついた。

 少女の家庭は厳格なようだ。昨日の事件の顛末を聞いた母親が、あらためてお礼に寄越したのに違いない。

 思わず口元が緩んできた。

 飛んで火に入る夏の虫だ。しばらく時間をかけてゆっくり料理してやろうと思っていたが、向うからわざわざ飛び込んで来たのだ。このチャンスをものにしない手はない。

 心配なのは体力だが――清二は自分の前を握ってみた。

 なんとかいけそうだった。


 今日のアメリーは、同じ洗い晒しながらフリルのついた白の綿ブラウスとグレーのスカートだった。スカート丈は昨日より短くなっていたが、それでも膝まであった。これでも精一杯おめかししてきたのだろう。

 彼女は清二の姿を見ると微笑んだ。曇りのない笑顔だった。それが益々清二の劣情を煽った。無論そんなそぶりは見せない。

「よお」

「昨日は有難うございました」

 また九十度に腰を折った。

「昨日は過分なお心遣いを頂きまして、大変恐縮でございます」

「いやいや……」

 母親の口上をそのまま口にしているのだろうが、よくつかえないで言っている。

「母ちゃんがそう言えって言ったんだな?」

「はい。本来なら母がお礼を申し上げるべきところですが、何分臥せっておりますもので、参れませんので、娘にことづけます……」

 主語がごっちゃになっている。

「いいよ。君の言葉で話せ」

「はい。有難うございました。お礼を言いたくて来ました」

 急に軽くなった口調でそう言った。

「ずっと立ってたのか?」

「はい」

 ということは、いつ出て来るかも分からない清二をじっと待っていたということだ。

「暑かったろ? 中で冷たいもの飲んでいきな」

「はい」

 素直についてきた。


「まあ、座りなさい」

 清二は卓袱台に沿って並べた座布団の一つを示した。

「はい」

 すすめられるまま、アメリーは隣接する和室を背にして腰を落ろした。

 和室への襖は開いていて、敷いた蒲団が見えている。今二人がいる部屋はフローリングなので、本来卓袱台なぞは置かれていない。それを、窓からアメリーの姿を認めてから、わざわざ和室の隅から引っ張り出してきて据えたのだ。意図的な行為だ。

「暑いかい?」

「いえ」

「冷房いれなくていい?」

「大丈夫です。慣れてますから。それに午前中はまだ涼しいですよ」

「うん」

 確かにアメリーの家はエアコンなどなさそうだ。

 清二も榊家の人の常で、冷房が好きではない。どうにも不自然に感じ、調子が狂うのだ。それに一旦入れてしまうと、外出が億劫になる。

 佳花は午後に入ると必ずエアコンをいれた。夜はタイマーをセットして眠る。午前中はつけないのがせめてもの幸いだった。だが転がりこんでいる身としては文句はいえない。

 小百合には文句をいった。言えば彼女はすぐ止めた。洸一郎で慣れているのだ。

「朝飯食ったか?」

「はい。済ませてきました」

「そうか。俺はまだだ。すまねえが、食わせてもらうよ」

「ああ、そうでしたか。お食事のところ失礼しました。どうぞお構い無く」

 よくできた娘だ。ちょっと白ける程だ。

「なんかつまむか?」

「あ、いいえ」

「こんなもんでよければ、食ってくれ」

 モロキュウをだした。

「酒のつまみだよな……。俺酒飲んでいいか?」

「どうぞ」

 にこりと笑った。相手に親しみを感じさせる笑みだ。結構接客に向いているのかも知れない。

「父ちゃんは飲んだか?」

「少しは……。よく日本は高くて種類が少ないって言っていました」

「ん? ああ、ワインか?」

「ああ、そうです。済みません」

「フランス人だってな。なら無理ないよな。なんで日本なんかに来たの?」

「父ですか?」

「うん」

 色々訊いてみると、ぼつぼつアメリーのことが分かってきた。

 アメリーの父は浮世絵に魅かれて日本に来た。そしてすぐにアメリーの母親と知り合った。後に宣教師になろうとしたが、入った神学校は揉め事を起こして中退した。その後母親と結婚したことで、最終的に宣教師を断念し、語学講師として働き始めたという。だが授業と関係なく生徒達に躾をやかましくいい、叱るので、保護者からの顰蹙をかい、仕事がなくなっていった。最後は日雇い労働者をしていたという。

 その父親が癌であっという間に亡くなるのと前後して、今度は母親が病の床についた。看病が必要になり、アメリーも一旦就職した会社をやめた――といった事情らしい。

 介護支援を受けることができるはずだが、母は認定人が来ると頑張って起き上がり、何事もないように振る舞うので、認定されないのだという。その後は反動でぐっと寝込んでしまう。

 あとは生活保護だが、これも潔しとしないのだ。人様の世話にはなりたくないというのが、彼女の信条らしい。

 まさに八方塞がりだ。

 清二はアメリーが気の毒になった。だがそれと、これからしようと企んでいることは、清二の中では別物だった。

「君も酒飲めよ」

「ええっ!? 未成年です」

「フランスじゃ、その年ならもう飲んでんだろ?」

「それは――そうらしいですが……」

「それにもう社会人だ。学生じゃない」

「でも……」

「酒弱いのか? 父ちゃんはどうだった?」

「強かったと思います」

「母ちゃんは?」

「わかりません。飲みませんから」

 清二は弱い方に賭けたい気分だった。

「とにかく少しならいいだろ。俺も一人で飲むのはつまんねえ。付き合ってくれ」

「わかりました」

 飲ませてみると、アメリーはどんどん飲んだ。

「美味しいです」

 猪口を傾けて透明な酒を眺め、しみじみとそう言った。

「初めてじゃねえな?」

「初めてです」

「ほんとかよぉ……。強えんだな」

「なんだか体質にあってるみたいです。好きになりそうです」

 酒を飲むアメリーは心から楽しそうだった。考えてみれば、遊びたい年頃なのに、ずっと忍耐を強いられてきたのだ。初めて気持ちを晴らす楽しみを見つけたのかもしれない。

 清二はその様子を注意深く観察した。

 理性の箍が外れるくらいに酔わせなくてはいけないが、何も覚えていない程酔わせすぎてもいけない。

 しかしどうやらアメリーは酒が強いようだ。

 清二も酒には自信がある。今日首尾が上手くいけば、この先セックスに加え、酒の相手をさせてやっても面白いなと考えた。

 アメリーに酔いの兆候が現れるには大分時間がかかった。顔色はあまり変わらないが、目の下がほんのりと赤らみ、眸がとろんとしてきた。酔って気持ちが悪くなるタイプではない。意識が飛ぶタイプなのだ。

 潮時だ、と清二は判断した。

 ものにすることだけが目的なら、意識を飛ばさせてしまったほうがいいにきまっていた。だが明日以降も抱き続けるためには、意識は絶対残しておくべきだった。

 清二は静かに腰を浮かし、アメリーの傍らに移り、身体をぶつけた。

 酩酊したアメリーは微かに瞳を動かしたが、焦点は合っていない。

 肩を抱き、のしかかるようにしてキスした。

 アメリーは、あれっという顔をしたばかりだった。うまく状況が認識できないようだ。

 それからの清二は容赦なかった。

 上体を押して突き飛ばした。

「きゃっ」

 座布団に頭から突っ込んで、アメリーはようやく事態をのみ込んだようだ。

 スカートがめくれあがり、白い大腿が露わになった。

 ようやく逃れようともがきだした脚を乱暴に引きずり寄せ、脚を開かせ、抑えつけた。

 股のところまで下着が晒された。白だった。生地のしっかりとした質実剛健なショーツだ。

 そのど真中にごつごつとした指を突き立てた。

 生地越しにも、指先が中にめり込んだ。

「いや。いやっ!」

 アメリーは必死で上体を起こし、清二を撥ね除けようとする。下半身を抑えられたままの上体の屈曲だ。軟らかい体をしている。こういう女は道具も柔軟だ。

 抵抗が男の狩猟本能を煽った。

 引き千切るようにショーツを毟りとり、投げ捨てた。弾みでアメリーの体が和室寄りに投げ出された。

 のしかかり抑え込むと、荒々しく剥き出しの股間に掌を充てた。指の腹側に繊細な肌理を感じた。

「へええ……濡れてるじゃねえか。なんでだ? えっ?」

 実際には濡れてはいない。言葉でもいたぶるのだ。

 アメリーの突起は大きめだった。小指の先くらいの大きさと太さがある。そこを指の腹でいたぶってやると、

「いや。いやですー!」と絶叫した。

 それを聞いて、ますます清二は昂った。

 片手でブラウスの裾をたくしあげ、ブラジャー共々押し上げて乳房を剥き出しにした。

 天然の大きな乳房。それでいて若さゆえ崩れたところがなく、張り切って瑞々しい。普段陽に晒されることがないため、抜けるように白い。小さめの乳暈は色が薄い。

 乳房を鷲掴みにした。汗にまみれた肌は粟だっていた。感じているせいなのか、恐慌をきたしているせいなのかは分からない。服の熱気が残っていて熱かった。

 紅潮してきた頬にキスした。額は玉の汗を置いていたが、こっちは滑らかだった。化粧っ気のない若い膚が瑞々しく照っていた。

 舌先で耳朶をもて遊んでやる。

「いやっ! ……です」

 反応からして、耳は性感帯のようだ。

 手も怠けさせてはいない。柔らかい肉の開口部を指の股に挟んで、左右に拡げたり寄せたりして、摩擦による刺激を与えてやる。それから指を二本挿入した。

 外人の血が入っているせいか、アメリーの性器は大きく、奥も深そうだ。

 中に入れた指を乱暴に出し入れさせた。

 アメリーは今にも絶えいりそうな哀れな声をあげた。

 頃合だろう。

 清二は身を離し、自らも裸になった。逸物が躍り出て、天を向いて鋭角にそそり立った。

「あっ!」

 アメリーが目を瞠いた。そこに怯えの色が宿った。

 這って和室に逃げ込んだ。

「へへへ……」

 思うつぼだった。

 充分奥に追い込んでから、猛然と襲いかかり、布団の上で捕まえ、裏返しにし、抵抗する腰を押さえ付けた。

 アメリーは清二の顎と胸に腕を突っ張り、寄せ付けまいとするが、構わず股を割り拡げ、身体をいれ、一転ゆっくりと挿入していった。

「あーつっ!」

 アメリーが絶望的な叫びをあげた。

 どこの段階で破瓜が起こったのか、清二には判らない。彼女が絶えず苦しげな呻き声を切れ切れにあげていたからだ。

 身体を硬直させ、嫌がる素振りはまだみせていたが、アメリーの抵抗は急速に弱まっていった。

 狼は今や完全に獲物を制圧した。あとはゆっくりと貪るまでだ。

 ブラウスとブラジャーを剥ぎ取った。ゆっくりと、しかし容赦ない力で。

 清二は正常位以外の体位をあえて強いる積りはない。

 緊張した肉体は生硬で、潤っていない内側はコリコリしていたが、それは予想通りだった。彼女はまだ自分の性を表現できていない。海のものとも山のものとも自分自身を知らない。今後彼女が清二にもたらすものは、海の幸か山の幸か、はたまた煮ても焼いても食えないようなものか。しかし経験的に後者はないと確信していた。

「むむむ……」

 放出が起こった。

 征服の快楽に酔いつつ、気持ちよく清二は達した。

 最後の昂揚が体内から吐き出されるまで、アメリーを組み敷いて清二はじっとしていた。

 急に蜩の声が耳についた。終了の軽い騒音をたてて、洗濯機が止まった。

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