第5話
光量を半分落とした室内灯は暗すぎず、明るすぎず、由香里の裸身を輝かせながらも、しっとりと柔らかく、光景に内包している。
由香里の貌は人形のようである。
やや面長な輪郭。はっきりした眸、張りのある頬、肉感的だが整った唇。茶髪に染めたわずかにウェーブする髪は、前髪が額に散りかかり、後髪は放恣に拡がったまま、艶々と光の筋を撒いている。二十半ばの張りのある乳房は、横たわってもツンと上を向き、胴はきれいにくびれ、下腹に無駄な肉はない。三歳程のわずかな差が、しをりと由香里の肉付きを微妙に分けている。当節の若い女性らしく脚は長いが、西洋人のように長すぎるということはない。身長は百七十センチもある。しをりは更に二三センチ高いはずだ。二人は百八十センチある幸雄とは釣り合うが、並の男なら、二人に囲まれたら圧倒されてしまうだろう。
幸雄は由香里の脚の間に手を差し入れた。その軽い接触だけで、もう由香里は脚を開いた。肉体を通して心が通いあった男女の呼吸だ。
由香里のそこは、完全に脱毛してある。所謂ハイジニーナだ。幸雄はそこを掌で覆う感触がとても好きだ。ふくよかに盛り上がる丘は滑らかで、無毛の肌目は吸い付くように細やかだ。
股間は肉付きがよく、縦に深く切れ込むクレバスのラインは素直だ。整って、どこにも破綻がない。
だが幸雄はよく知っている。こうして掌を置いただけで、火口までマグマが沸き上がって来てしまうことを。端整な外見とは裏腹に、呆れる程拡張し、汎ゆるものを飲み入れ、反対に熱い情熱を噴き溢すことを。
自然に置いた指の先を内側へと少し曲げた。
するとクレバスが割れて容易く埋まり込んだ。指先が熱いマグマに浸かった。
くびれた腹が波打った。幸雄は更に親指で濡れた突起に触れた。
普段の幸雄なら、もう堪らず由香里の上に重なっていたはずだ。だが今夜の幸雄は精力に自信がなかった。取り敢えず指先で愛撫を加えながら、乳首にキスをした。時間稼ぎだ。それとなく、自分のものに触ってみたが、柔らかかった。
それを由香里が目にとめた。催促だと思ったのか、上体を起こして、それに覆い被さってきた。
由香里の口戯は唇と口腔が中心だ。舌使いも上手いが、基本は吸う技と飲み込む技だ。手は使わない。
これまで由香里に銜えられた時、硬直していなかったという記憶はない。由香里が何か言うかと気になったが、彼女は気にもしていないようだった。黙って口からなまくらを出し入れさせ始めた。
口戯を受けながら、幸雄は晩餐時のしをりを思い出していた。
二組の夫婦は従来別々に食事をとっていたが、榊老人が亡くなってからは三人で食べるようになっていた。
この晩のしをりは晴れやかな顔をしていた。性的に満足した女に特有の顔だった。幸雄に向ける目には親密な色があった。そこに何かそれ以上特別なニュアンスが籠められていた訳ではない。寧ろ彼女は平常を演じていた。だからそれは感情の自然な発露だった。
由香里はそれに気が付かなかっただろうか? 女性はそんなことに敏感だ――彼の下半身に顔を埋めて、頭を上下させている由香里を眺めながら、幸雄はそんなことを考えていた。
乳房に触ろうとしたが、指先がかろうじて乳首に届く程度だった。今夜の由香里の口戯は位置が下すぎる。
その内に、硬度が増してきた。やがて普段並みの長さになった。手が乳房に届いた。
幸雄は理解していないが、手が届くようになったのは、彼の硬度が増したせいだった。極度に硬直した男根は持ち主の顔の方へ反り返り、腹から離れにくくなる。それに対応して由香里が位置を上げてきたのだ。
幸雄は心持ち上体を起こし、由香里の左の太股を引き寄せた。
それだけで充分だった。由香里は幸雄の男を銜えたまま、口を支点にぐるりと百八十度回転し、脚をあげて、幸雄の顔を跨いだ。
眼前に由香里の〝女〟が来た。膝の位置を調整するその動きで、尻の肉が盛り上がり、揺れた。緩みのない、張りのある肉の揺れ方だった。
両手の親指で肉付きのいい〝唇〟を押し拡げた。それは抵抗なく大きく拡き、内の果肉があらわになった。そこからとろりと蜜が垂れてきた。
音をたてて幸雄はそれを啜った。
ピクリと体を軽く震わせて、由香里は彼の顔面に腰を落とした。
顔の下半分がそこに密着し、幸雄にできることは、中深くへ舌を突き入れることだけになった。
彼は張りきった風船のように膨んだ豊かな尻を掴み、強く自分へと引き付けた。彼の〝男〟も深く飲み取られたようだった。
それでも一旦尻を持ち上げて、幸雄は由香里の〝女〟の具合を見た。
開ききって深部を露呈しているその肉壁が痙攣し、存在しない〝男〟を締め上げようと収縮し、呑み取ろうとまた広がって、貪欲に喘いでいる。束の間加えられる刺激に気を散らされなくなった由香里の口唇の動きが執拗さを増した。
幸雄は舌先で弛み拡がった獲物をなぞり、舌を上下に往復させた。粘性のある液体が絡み、ねっとりと糸を曳いた。その糸を押し潰して、再び顎を埋めた。
ひとしきり互いの股間に構いあって、幸雄はようやく挿入したくなった。口を離し、尻を叩いて合図した。
由香里は幸雄の上から降り、彼に向き直った。それでもまた暫く口で幸雄のものに構い続けたが、やがて満足したように、
「挿れていい?」と訊いた。
「うん。いいよ」
由香里は再び幸雄の腰を跨いだ。
膝立ちの姿勢から、後ろ手に幸雄のものを引き起こし、自分の股間にあてがった。が、すぐには挿入させず、股間全体に強く擦り付けた。クチュクチュと下品な音がたった。先端はかなり深くそこを抉った。起伏に富んだそこは、男にはかなり強い刺激になる。もし日中しをり相手に何回か果てていなかったら、この時点でたまらず放出したかもしれない。
由香里の手の動きが止まった。手が離れると、先端が開口部の縁に当てられていた。男の方から挿入してくれというわけだ。由香里は、それが自分を押し開いて入り込んでくる感触を味わいたいようだ。
由香里は無意識に自分の下腹部を見降ろしていた。彼女に結合部分が見えるはずはないのに。同時に肉付きのいい唇が円く開いていた。これも無意識のことだ。その唇に紅がひかれていた。
由香里は閨事の前に必ず化粧をする。何かの事情で幸雄の帰宅が遅れても、どんなに遅くなっても、きちんと化粧をして幸雄を迎え入れた。化粧を落とすのは本当に眠る時だった。その心遣いが幸雄には嬉しい。
満足そうな由香里を見ていたら、悪戯してみたくなった。
いきなり下からグイと突き上げてやった。
「やん!」
ゆっくり味わおうと思っていた由香里は途端に竦み上がった。若い女らしい、可愛い声だった。
愛おしくなった。押し倒して、上から姦りこめようかという衝動を覚えたが、騎乗位が好きな由香里の気持ちを考えて、行動に移らなかった。
由香里は奥まで入ってしまったペニスを、腰を浮かせて一旦結合が解けるギリギリにまで抜き出した。それから、先端の傘の部分だけを浅く出し入れさせ始めた。そして次第に腰をくねらせて、穴の入口付近を色々刺激させて、しばらく弄んだ。
それから漸く深く没入させた。一度いっぱいに呑み取ると、腰をくねくねさせて、体内を掻き回させている。それからやっと普通に上下運動を始めた。
それは次第に早くなっていった。
更には腰のグラインドが加わった。美しい女が貪欲に性の快楽を求める姿は、ちょっと感動的だ。
幸雄は下から掬い上げるように乳房を揉んだ。掌に余る乳房の柔らかい感触が昂奮を煽る。男のものを埋めて体の上で躍動する尻の感触も心地よい。尻の肉を使って男のものの周辺をこねくるのも由香里の特徴だ。女には男の肌の粗さが気持ちがいいのか。
由香里とのセックスはいつもとろけるようだ。しをりと由香里――共に性に対して優れた天稟を持つ二人の女を分けるのは、男経験の差だ。しをりはセックスが好きなくせに、男はどうやら洸一郎が初めてだった様子だ。由香里は男遍歴が華やかだ。結果、全身これ性器のように、どこを構われても感じる身体になってしまっていた。
結局、この晩二度、幸雄は精液を搾り取られた。
まだ残滓の漏れ出る幸雄のものを、由香里は未練そうにしゃぶった。それは流石に力を失って、蒟蒻のようだった。
そのへなちょこを振って、由香里は彼を見遣った。
「今日、なんか少なくない?」
どきりとした。
「いや……普通だろ?」
「そお? 何処かで出してきたんじゃない?」
「まさか……じゃ、疲れてんのかな? 自覚はないがなあ」
「貴方が疲れるなんてことあんの? フルマラソンしてから重量挙げして、それから続けて15ラウンドボグシングしても、すぐに平気で女を抱けそうな貴方が?」
「ボグシングでノックアウトされちゃったら無理だろ。……おいおい、俺だって人間の女の腹から生まれたんだぜ? 疲れもするし、病気にもなるさ」
「だから、見たことないって」
「だいたい、誰としたっていうんだよ?」
それには由香里は答えずに、彼の胸に頬を埋めて、
「ねえ。明日からあたし出張だけど、お義母様のこと宜しくね」と言った。
ひやりとした。どうにも解釈ができた。
「……うん。わかった」
由香里は単に、昼間のようなことがあるから、清二には気をつけろと言っただけかもしれない――そう思おう。
事業が拡大している幸雄の会社は、役員や部長クラスまでフル回転で、猫の手も借りたいほどだった。社長のしをりはどっしりと腰を据えて陣頭指揮だから、由香里達が頻繁に出張することになる。彼女には明日から三泊四日の出張が入っていた。
由香里がいない三晩、幸雄としをりは毎晩のように求めあった。昼は家政婦や膳場も出入りしているが、夜は家の者だけになる。二人は夏の夜長を風が通う屋敷で一糸纏わぬ姿で過し、しをりの蒲団で共に寝た。
夜を重ねるにつれ、しをりからは飢餓から来る貪欲さが消えたが、かわりに純粋にセックスを楽しもうとする積極性が現れてきた。責める幸雄に応えるしをりの反応は素晴らしかった。二人は肉体を通して会話をした。語りかけ、答えられ、語られ、答えた。話題は刻々と転じた。時にダイナミック、時に繊細、そして濃密――常に親密なニュアンスを帯びながら。
しをり――由香里と持ち味は違うが、同じ程上質の女体――を毎晩抱ける幸福に幸雄は素直に溺れた。
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