第四話 彼女に手を出したら俺が許さない

「おはよー、カイトくん」


「お、おはようございます……松川さん」


 早朝。

 いつも通りに家を出て、出勤しゅっきんした。

 本当にいつも通りだったのだが。


 俺の目の前には異様いような光景が広がっていた。


 相変わらず可愛い松川さんなのだが、その奥で何かが動いた。彼女の背中に隠れるように引っ付いているのは、


 俺はすぐに分かった。

 それはこの世に生きる者ではないと。


 すなわち、悪霊。

 その霊の周りには黒いモヤがかかっている。

 力の強い悪霊ほど、モヤが多いのだ。


「どうしたの? 体調わるい?」


「い、いや、大丈夫です」


「そっか。……でもヤバそうならすぐに休憩するんだよ? 私もなんか昨日の夜から肩が重くて……ってそんなことより、体に気をつけてって事ね!」


「ありがとうございます。松川さんも気をつけてくださいね。最近マジで働きすぎですから」


「あはは、私は大丈夫だよ! それじゃ!」


 そう言って彼女は後ろを振り向き、店の奥へと歩き出した。

 つまり、彼女の背中が見える訳だ。

 当然、後ろに隠れていた悪霊があらわになる。


『……、るな』


 ボソリと何かを吐き捨てた悪霊と、目が合った。


 ――その男の皮膚は腐ったようにどす黒く変色していた。


 ――その男の目はくり抜かれ、眼窩がんかには空洞が広がっていた。


 ――その男は松川さんの背中に、おんぶされるみたいに引っ付いていた。


 年齢は若くない。

 スーツを着ているのでサラリーマンか。


 松川さんに何をやっているんだ。もしアイツに何かあったら…………。


 松川さんにしがみついている男をにらみつけていると、スー子が後ろから現れて耳元でささやいた。


『バレちゃったね〜、カイちゃんが悪霊見えちゃうってこと。向こうも相当そうとう警戒けいかいしてる。大丈夫なの?』


「分かってるさ、分かっててにらんでるんだ。松川さんにだけは近づいてほしくねぇ」


『それ私の前で言うかな〜? 私、嫉妬しっとでどうにかなっちゃいそう♡』


 こんな状況でも何やら頭をポコポコ叩いてくる。

 本当に緊張感の無いやつだ。


「なあスー子、お前から見てあの悪霊の事どう思う?」


『あれはヤバいよ。幽霊の強さって「霊力」の強さで決まるの。いわゆる戦闘力的な? アイツはその「霊力」がずば抜けて高い。カイちゃんも見たでしょ? あの悪霊の周りに漂うモヤモヤを。……あれは本当に、間違いなく、敵に回しちゃダメなやつだよ』


「……、」


『私が言うのもなんだけど、悪霊とは関わらない方が良いよ〜? 特にアイツは本当に』


「そんなヤバい悪霊が、松川さんの所に……」


『……かれてるね、完全に。松川さんって可愛いから、目的の悪霊を呼び寄せやすいんだと思う。あれだといつまで生きられるか……』


「……ッッ」


 くちびるを噛んだ。

 なぜ松川さんなんだ?

 あの人は何も悪いことなんかしていない。

 なのに。

 なんの罪もない人間が、なぜおとしめられなくちゃいけない?


『どうするの? 今のカイちゃん、すごく怖い顔してるけど……』


「そんなの決まってるだろ。どうにかして、あの悪霊をがす」


『私としては、あんまり関わってほしくないんだけどな〜』


 そう言って、店の中だというのに辺りをフワフワ飛び回るスー子は、どこかうれしそうだった。

 顔も赤い。幽霊だというのに。


『(ま、そういうところが良いんだけどさ)』


「聞こえてるぞー」


『う、うるちゃい! 盗み聞きなんてずりゅいぞ!』


「焦りすぎだろ、噛み噛みじゃねえか」


『……でもさ、』


 スー子はゆっくりと俺に近づき、頭をでてきた。顔も近い。下手をすれば吐息が当たる。

 その可愛い顔を改めて見て、ドキリとした。

 いきなりなんだ!?


『あの悪霊の退治、全力で協力するよ。そういうお人好しな性格が、私は好きなんだ。あの時、私を路地裏で助けてくれたのも、そういう目をしたカイちゃんだったから』


「え、好きって……え!?」


 今なんて言ったよ!?

 さりげなく爆弾落としやがったなおい!


『なんてね』


「ちょ、今のどういう――」


 更に問い詰めようとした時、後ろから怒鳴どなり声が飛んできた。


「おい森川! ひとごといってないで、さっさと準備しろ!」


「……は、はい! すみません。すぐ準備します!」


 そう言って、俺も着替えに行こうかと足を踏み出した時。

 となりでプカプカ浮いていたスー子が何やら呟きやがった。


『ちぇ、いい雰囲気だったのに』


 あとで問い詰めるぞゴラ。

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美少女悪霊を助けたら、取り憑かれて同棲する事になりました。 Yuu @HinaZamurar

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