第三話 日常α_暖かみ
「おはよう、カイトくん」
「おはようございます。松川さん」
俺は飲食店で働いている。
開店前のそれに入るやいなや、可愛い女性の声が俺の耳を
彼女の名前は
アルバイトで入っている高校生だ。
年齢的には俺と同じだが、立場が違うので少し劣等感……。
「それじゃ、自分は準備してきますね」
「うん。今日も頑張ろうね!」
可愛いッッ!!
「?」
「な、なんでもないでふ! んじゃ!」
照れがバレる前に逃げなくては!
スタッフオンリーの札がかかっている部屋に逃げ込み、深呼吸をする。
やっぱり可愛かった。
身長が少し低いから、守ってあげたくなる小動物的な可愛さがハンパない。
『満更でもない様子だったネ』
どこからともなく。
空間にぼやっと現れたスー子はそう言った。
「お前、いつの間に!? ってか、何でそんな棒読みなんだよ」
『あの子、可愛かったし』
あの子、という言葉を聞いて、松川絵里のことが頭に思い浮かぶ。
あんな子と付き合えたらなあ……。
『ほら、顔! いま絶対あの子のこと考えてた!』
「……もしかして嫉妬してんの? バカップル?」
『バカじゃなぁぁぁぁあいッッ!!』
この後めちゃくちゃ呪われた。
◆◆◆
結局、家に帰ったのは十二時を過ぎた頃だった。
『おかえり、そしてただいまぁ〜!』
彼女は宙に浮いたままスピンしている。
フィギュアスケートの選手もこれにはびっくりだ。
「なあ、カップ麺買ってきたんだけど、食べる? ってか、幽霊ってご飯たべたりするの?」
『食べようと思えば食べれる』
「おお意外! 豚骨か塩かどっちがいい?」
『食べようと思えば食べれる。でもそれは今日じゃないぜ?☆』
言うと、スー子は浮遊したままキッチンへと向かった。
『幽霊とは言っても、割と自由なんだ。現世への物理的な
「物理的な干渉? 許されてる?」
『まあつまり、ポルターガイストの類は「物理的な干渉」って訳で……』
「結局、何が言いたいんだよ」
『ご飯をちゅくってあげましょー!』
「おい大事なところで盛大に噛むな。俺が幼児みたいじゃねえか!」
数十分ほど待った。
キッチンから「うわ!」とか「やばっ」とか聞こえてくるのが心配で仕方がないが、ここはスー子に任せると決めたのだ!
すると、美味しそうな香りがリビングまで伝わってきた。
『完成したよ!』
「お、美味しそうな香り! どれどれ〜?」
味噌汁が、たった一つ。
ご飯やおかずは無く、味噌汁が一つ。
『仕方ないじゃん! カイちゃんの冷蔵庫、ほとんどもぬけの殻だったし』
「そういえばッッ!!」
そういえばそうだった。
一人暮らしで
マジかよ。
せっかくの『美少女手作り晩ご飯イベント』が、味噌汁で終わってしまうのか!?
……と考えていると、少し悲しそうな目で見てくる悪霊がいたので、そろそろ味噌汁を頂くぞ。
「いただきます」
『にゅふ』
「そんな笑い方聞いたことねぇ……」
具も少しだけあるが、まずは汁を先に飲む。
ゴクリ。
あれ。
こんなに。
『ど、どう……かな?』
こんなに味噌汁って美味しかったっけ。
体に染み渡るうま
そしてなんだこの満足感は! 心が満たされていく感じは!
「おいしい! これいくらでも飲めるぞ!」
『…………』
たったひと皿に
「あれ、悪霊の無言ってk」
『よかった……ほんとに、』
「…………」
『ちょっとでも仕事の疲れが取れたら、良いな』
「その、ありがとな。俺のために」
『私は幽霊。しかも悪霊。だからこんな事しかできない。だけど喜んでくれて嬉しいよ』
人の温かみに触れたのは、いつぶりだろう。
ちなみに、これから毎日みそ汁が出ることになったのは言うまでもないッッ!!
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