第二十一話 フェリルの悩み

「よっと。みんなはもう夕食を食べ終えたのかな?」


 俺はそう言うと、テントの外に出た。


「んーと……丁度みんな食べ終わったところだな」


 みんなは食事を終えて、片づけをしている所だった。


「あ、ユート。遅かったね。もう夕食は食べ終わっちゃった」


 シャノンが俺のことに気がづくと、申し訳なさそうにそう言った。


「分かった。食事は一人でも食べられるから問題なし。それで、後は寝るだけでいいんだよな?」


「ええ。ただ、見張りの順番を決めておかないと。感知の魔道具はあるけど、万が一ってこともあるからね」


「そうだな。それで、どうやって決める?」


 こういうのは、”じゃんけん”、”適当”、”自分がやりたい順番を主張する”、の三つの決め方が王道だが、みんなは何を選ぶのだろうか……


「う~ん……適当でいいんじゃない?」


「そうね」


「別にこだわりはないからな」


「ああ」


「それでいいんじゃないか?」


 王族貴族Sランク冒険者の全員が、適当に物事を決めるのは、意外と貴重なことなのではないか?とこの時の俺は思った。


「まあ、俺から時計回りの順番で良いだろ?」


 ディールの案は即採用され、順番はディール、バール、バルザック、フェリス、シャノン、俺、の順番になった。


「じゃ、おやすみ」


 俺はそう言うと、そのままテントの中に入った。

 そして、そのまま意識を手放した。




「……ん?」


 テントの人が近づいてきたら目が覚める機能により、俺は目を覚ました。


「ユート」


 小声で俺を呼ぶ声がした。この声は……シャノンだな。


「シャノン、後は俺がやるから寝ててくれ」


 俺はテントから出ると、目の前にいたシャノンにそう言った。


「分かったわ。おやすみ」


 シャノンはニコッと笑いながらそう言うと、自分のテントの中に入った。


「ああ。おやすみ」


 俺も、シャノンに向かってそう言った。


「……やっぱり暇だな」


 俺はその場に座ると、そう呟いた。

 ゴーレムに任せて、自分は寝てしまいたい気分なのだが、そんなことしたら怒られるのは目に見えている。


「……剣でも振るか」


 俺はおもむろに立ち上がると、〈アイテムボックス〉から世界樹聖剣を取り出し、構えた。


「はっ」


 みんなを起こさないように気を付けながら、俺は剣を振った。


「はっはっ」


 目の前に敵がいて、そいつが俺に襲い掛かってくる光景を想像しながら剣を振った。因みにその”敵”は俺が今までに戦った中で一番強かったシャオニンのことを指している。

 俺はこの剣術修行を暫くの間続けた。





「あ、おはよう」


 最初にテントの外に出てきたのはフェリル様だった。流石は王族といったところだな。


「ああ、おはよう」


 俺は世界樹聖剣を〈アイテムボックス〉にしまうと、そう言った。


「もしかして、見張りの間ずっと剣を振っていたの?」


 フェリル様はテントをボタン一つで片づけ、朝食の準備をしながらそう言った。


「ああ。暇だったからな」


 俺は〈アイテムボックス〉からクリスお手製の弁当を取り出し、食べながらそう答えた。


「やっぱり強者は違うわね。それほどの強さを持ってなお、少しでも強くなろうと努力するのだから。私みたいに、金の力でレベルを上げて、勇者パーティーに入る私とは大違い」


 フェリル様は俯くと、そう言った。


「金の力……なるほど。あの方法か」


 この世界に来たばかりの頃に聞いた方法のことだろう。

 金で高ランク冒険者を雇い、強い魔物を死ぬ寸前まで弱らせてもらう。そして、最後の一撃を自身が与えて倒すことでレベルを上げる。俺がノアにしたことと同じ方法でもある。


「ええ。自衛のために、ほぼ強制的にLV.50まで上げさせられたわ。たった1年で。私は身に合わない力を持ってるのよ。バールやディール、そしてシャノンも同じ方法を使ってレベルを上げているけど、みんなは高くてもLV.20前後まで。それ以降は全て自力で上げている」


 フェリル様にもそのような悩みがあったのか……て、俺もノアにそのような思いをさせる可能性があるな。

 よし。これからは極力手は出さないようにしよう。

 ……それで、この雰囲気をどうすれば変えられるのだろうか……


「……だが、君は宮廷魔法師長に勝った。レベルはむしろ向こうの方が上だ。これは己の力を上手く扱えている証拠だ。あの魔法の発動タイミング、当てる場所。どちらも完璧だったと思う。むしろ、俺の方が身に合わない力を持っていると言ってもいいだろう」


 そうだ。今の俺の力は、身の丈に合っていない。技術と力が釣り合っていない。

 この世界に来て数ヶ月しか経過しておらず、技術を鍛えたのは僅か一ヶ月弱だ。そんな俺が、世界最高の力を持っているんだ。本当に……俺はチートだな。


「ま、何が言いたいのかと言うと、己の努力をちゃんと認めろ。己を低く見るな。そして、お前は強い」


 俺は思ったことをそのままフェリルに話した。


「それに、LV.50まで上げさせてもらったっていうことが、お前の強みだ。俺にも、恵まれたスキルと魔法を持っているという強みがある。己の強みを生かして、勇者パーティーに入ることの何が悪い?」


 俺は言いたいことを言い出せて、スッキリした顔になると、食事を再開した。


「……ありがとう」


 フェリル様は俯いたまま笑みを浮かべると、そう言った。

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