第三十二話 白輝の剣

 軽い雰囲気の中、ラルティ様が口を開いた。


「それでは本題に入るとしよう。何故私が君を呼んだのかというと、君に、私の元で護衛として働いてほしいと思ったんだ。もちろん住む部屋はこの屋敷の中に用意するし、報酬もかなりよいものになるよ」


(ここに住めるのか…)


 それは俺としても興味がわいたが、俺はこれからティリアンへ行くつもりだし、やっぱり自由に生きたいので、


「そのお誘いは嬉しいのですが、誰かに仕えるつもりは今のところはありません」


 と、断った。「何か言われるかな?」と内心ドキドキしていたら、


「そうか…まあ、ウォルフの言ってた通りだね。それなら私も無理強いはしないよ。君に頼みたいことがあったら指名依頼で頼むことにしよう」


 と、意外にもあっさりと諦めてくれた。


「え?ウォルフさんが何か言ってたんですか?」


 シンさんにはそんなことを言ったが、ウォルフさんには言った記憶がない。


「ああ、君は自分の意思で、好きなように生きるのが好きな人だということをウォルフが言ってたんだ」


 俺がウォルフさんの方を向くと、


「まあ、俺は多くの冒険者と会ってきたんだ。多少話せばどんなやつかぐらいすぐに分かるんだよ」


 と、少し誇らしげに言った。


「そ、そうなんですね…」


 まあ、ラルティ様はお偉いさんの中に一定数いる傲慢な人ではなさそうだ。それなら出来そうな指名依頼なら受けてみようと思った。


 ここで、場の雰囲気が一転して少し硬い感じになった。


「それとさ…昨日ウォルフから聞いたんだけど神の涙に狙われているんだよね?そして、すでに二回も襲われていると聞いたのだが…」


「はい。カルトリと、グランへ帰る道中の計二回襲われました」


「そうか…実はグランのスラム街にもやつらのアジトがあるという情報を少し前に手に入れたんだが場所の特定には至ってなくてね…そのせいでグランでも襲われていないか心配だったんだ。もし襲われていたら私は自身を許せなくなるくらいには落ち込んでたよ…」


 ラルティ様は頭を深く下げて謝罪した。


「あ、頭を上げてください。そ、それに俺はこの後ティリアンのダンジョンに行くつもりです。なのでそんな風には思わないでください」


「分かった。ありがとう。君には死んでほしくないし、グランのアジトを見つけ出せないのは私の責任でもある。そのわびも兼ねて君には魔道具をあげるよ」


 そう言うと、ラルティ様は席を立ち、壁にかかっている絵画の額縁をさすった。すると、その近くの床一メートル四方が壁の方向にスライドした。


「凄ぇ…隠し通路だ…」


 俺は隠し通路という男のロマンを目の当たりにして凄い興奮していた。


「ははは、そういう所への反応は結構子供っぽいな。まあ、ついてきてくれ」


 ここでようやく硬い雰囲気から解放された。

 中を覗いてみると、中には階段があり、それが下まで続いていた。俺はラルティ様とウォルフさんに挟まれる形で階段を下りた。


「凄ぇ…」


 中には様々な武器防具が置かれていた。


「ここにあるのは魔道具の武器や防具だよ。この中から好きなのを一つあげるよ」


(この中から…いいのか……)


 武器を見る目がない俺でも分かる。ここにある剣は全て今俺が持っているミスリルの剣よりもいいものだということを。

 それにしても魔道具ということは……


「魔道具ってことは何か特殊な効果がついてるってことですよね?」


「そうだよ。ここにある武器の大半は強度や切れ味が強化されてるし、防具は軽くなってたりするよ」


 確かにそれは凄い便利だ。防具は俺には合わなさそうなので、やはり剣が欲しい。

 ただ、どれが一番いい剣かは俺には分からないので、ウォルフさんに頼ることにした。


「ウォルフさん。この中で一番よさそうな剣って何だと思いますか?」


「そうだな…お前が今使っている剣の完全上位互換ならそこにあるぞ。多分あれがお前にとって一番だと思う」


 ウォルフさんが指をさした先には今俺が使っているのと同じく白く輝いている細剣があった。どんな効果が付いているか聞いてみたら、


「それは切れ味の強化と魔力の伝導性が強化されている。見た感じやっぱりこの中でも最高品質の剣なんじゃないか?」


「ははは…流石ウォルフだね。それは確かにこの中でも最高品質の一つさ。名前は白輝の剣プラチナソードというんだ。ただ、さやがないんだよね。流石に抜き身の剣を持つわけにはいかないと思うけど…」


「あ、俺〈アイテムボックス〉を持っていますので問題ないです」


「あ~それは便利だね。てかそれならさやがない方が実践的だと思うから君にぴったりだね」


 俺は〈アイテムボックス〉の中に白輝の剣をしまった。


「これでユートの強さが格段に上がったな」


「剣としても魔法発動体としても使えるから是非使いこなしてくれ」


「分かりました。こんないいものを下さり、ありがとうございます」


 俺は深くお辞儀をして感謝した。


「うん。じゃあこれで私から言いたいことは以上だ」


「ああ、ユート。帰るとしよう」


「そうですね」


 予想外の収穫があった領主との面会はこれにて終了した。

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