第三十一話 ラルティ・ノース・グラン伯爵

 俺は今、冒険者ギルドに向かっているところだ。

 これから領主と会うということもあり、俺は若干緊張気味だ。因みに神の涙による襲撃は今のところはないし、変な気配も感じない。一応少しでも強くなる為に昨日はグランの森でLV上げをした。おかげでLVが三上がった。運よくポイズン・スネークを二匹も見つけ、倒すことが出来たのが結構大きかった。しかも、この時見つけたポイズン・スネークはLVが35と、この前見つけたやつよりもLVが高かった。


 因みに新しく魔法を習得したか確認してみたが、新しく使えるようになった魔法はなかった。この前襲撃してきた神の涙が使っていた〈氷槍アイスランス〉は便利そうな魔法なので、是非とも使ってみたいところだ。一回〈氷槍アイスランス〉をイメージしながら〈氷結フリーズ〉を使ってみたのだが、どれだけ頑張ってもせいぜい五十センチメートルほどの氷塊を一メートルほど飛ばすことぐらいしか出来なかった。しかも、魔力をいつも以上にに消費してしまう。まあ、何となくだがLV40になれば新しい魔法を覚えられるようになると思っている。


 そんなことを考えていたら冒険者ギルドの前にいた。中に入ると、何と入口にウォルフさんが腕を組みながら待っていた。


「お、ユートか。さっそくの元へ行くとしよう」


 今の俺は神の涙の襲撃があったことで、少しでも神の涙から認識されないように常にフードをかぶっている。それなのに何故ウォルフさんは何の迷いもなく俺だと分かったのだろうか…流石は元Sランク冒険者。恐るべし……


「分かりました。の元へ行きましょう」


 何故領主のことをと言っているのかというと、周囲に人がいる状態で領主に会うなんて言ったら「あの黒いローブの男は何者だ?」と言われて騒ぎになってしまうことを防ぐ為にウォルフさんが気を利かせてくれたのだ。

 俺はウォルフさんに案内される形で貴族街にある領主館へ向かった。貴族街というのは主に貴族の別荘、大商人の屋敷、そして領主館がある区画のことで、身分の高い人たちが多くいることからグランの中でも警備が特に厳重な場所になっている。俺はそこに向かっているのだが…


「な、何かさっきからずっと視線を感じるんですけど…」


 道行く人たちが俺たちのことをチラチラと見てくる。それが気になって仕方ない。


「まあ、俺は結構有名だからな。流石に多少の視線は仕方ないと思ってくれ」


 と、俺の話は軽く受け流された。


 そんなことがありつつも、無事領主館に到着することが出来た。


「凄ぇ豪邸だ…」


 鉄柵の扉の隙間から見えるのは白い石畳の道、その両側にある広い庭、そして正面には白を基調とした豪邸が建っていた。そして、領主館はレンガの塀で囲まれている為防犯性もばっちりだ。

 そんなことを思っていると、扉の前にいた衛兵と話していたウォルフさんからついてこいと言われた。

 俺は小走りでウォルフさんの元へ行くと、そのまま中にある白い石畳の道を進んで領主館の扉の前まで進んだ。


(執事とかメイドとかが案内するのかな?)


 そんなことを考えていたら、


「ん?何立ち止まってるんだ?そのまま入ってきてくれ」


 ウォルフさんが自分の家のような軽いノリで入っていった。


(そんなに気軽に入っていいものなのか……)


 と、思いつつも俺はウォルフさんの後に続いて中に入った。




「うわぁ…凄ぇ……」


 俺はそう息を漏らした。

 領主館に入ると、目の前に一階と二階が吹き抜けになっている白を基調とした大きなエントランスホールがある。その両脇には階段があり、二階へと続いている。


「ははは、まあ初めて来たら驚くよな。まあ、ラルティは伯爵で、その中で一番の権力を持っているやつだからな。でなきゃこんな豪邸建てられるわけがない」


 ウォルフさんは興奮している俺を見て、苦笑いしながら答えた。


「そ、そうなんですね…ほんと凄いなここ…ほんとに…」


 もう今の俺は凄いしか言えなくなっている。それくらいこの領主館は凄いのだ。


「あいつを待たせるのもあれだしさっさと執務室に行くか。ついてきてくれ。気になる所があるからといって寄り道しないようにな」


 ちょっとからかうように忠告された。確かにここを探検してみたい気持ちは少なからずあるが、もうそんなことをする年じゃない。

 俺はウォルフさんのあとをついて行き、二階にあるひときわ大きな扉の前で立ち止まった。


「ラルティ、入っていいか」


 と言ったのにもかかわらず、ウォルフさんは許可の言葉が返ってくる前に扉を開け、中に入っていった。


 執務室の中はなんかもう…凄い豪華だ。壁には絵画や剣が飾られていた。奥にある机には装飾が施されており、その前にあるソファや小さい机も細かい装飾がされている。


「はぁ…入りながら入っていいか聞くのはせめて私とお前の二人だけの時にしてくれ」


 奥の机に座っていた男性がため息をつきながら半ば呆れていた。

 男性は白銀の髪に金色の眼をした優しそうな感じの人だ。大体四十代前半くらいに見え、体はかなり引き締まっていた。


「ああ、すまない。いつもの癖でな。それで、こいつがちょっと前に冒険者になってちょっと前にDランク冒険者になったユートだ」


 ウォルフさんは「ちょっと」の所を強調しながら俺のことを領主に紹介した。


「ああ、君がユート君か。初めまして。私の名前はラルティ・ノース・グランだ。ハラン王国にて伯爵の地位を持っている。今日は君と少し話がしたくて呼んだんだ」


 ラルティさん…様は軽くお辞儀をしながら挨拶をした。


「では、さっそく話をしたいから二人ともそこのソファに座ってくれ…て、ウォルフはもう座ってるのか…」


 この二人の会話の雰囲気がとてもじゃないが、冒険者ギルドの支部長と、領主の会話とは思えない。

 そんなことを思いつつも、俺はウォルフさんの隣に座った。

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