第三十話 情報って大事なんだなあ…

 空が夕陽で染まりかけたころ、


「ふぅ…二日ぶりのグランだな」


 俺は冒険者カードを見せて街に入った。


「それにしてもあの威力の魔法をくらって服もローブも破れてないって普通に凄えな~」


 あれからふと〈氷槍アイスランス〉と〈土弾ロックバレット〉が当たった所を見たが、傷は一切ついていなかった。どちらも耐久力上昇の効果がついているが、まさかこれほどとは思いもしなかった。


(うーん…神の涙のことをウォルフさんにも言っといた方がいいかなあ…)


 神の涙という組織は結構やばい組織のようなのでウォルフさんにも相談した方がいいと思った。あと、明後日領主に会うこともウォルフさんから詳しく聞いておきたかったので、取りあえずウォルフさんに会う為にも冒険者ギルドへ向かうことにした。




(相変わらずにぎやかだな…)


 夕方ということで依頼を終えた冒険者で冒険者ギルドは溢れていた。

 俺はは試験の時に倒したレッドゴブリンとオークの討伐証明部位もついでに渡すために受付へ並んだ。







「えーと…レッドゴブリン二十匹、オーク一匹なので二万四千セルになります」


 俺は報酬金二万四千セル受け取った。オークの討伐の報酬は四千セルと、レッドゴブリンの四倍もあるようだ。俺はその後、支部長と話しがしたいと言おうとしたら、受付の奥からウォルフさんが出てきた。


「お、やっぱりユートか。ちょうどいい。三日後の件で話があるから支部長室に来てくれ」


 そう言うとウォルフさんは受付から出て来くると、階段を上って支部長室へ向かった。俺も直ぐにそのあとをついて行った。前のようにそのことでざわつくのは言うまでもないが、今回は神の涙の件もあってフードをかぶっていたので前に冒険者三人をぶっ飛ばした人とは思われていない。そのこともあってか俺は貴族の子供と思われていたらしいが、そのことを俺は知る由もなかった。






「よし、取りあえず何故ラルティがお前に会いたいって言いだしたのかというとな、俺が最近冒険者になったやつの中に金の卵がいるって言ったんだ。俺は元Sランク冒険者にして冒険者ギルドの支部長だから信憑性はかなり高い。それもあってかラルティが一回見てみたいと思ったんじゃないかな」


(領主の名前を呼び捨てにするのか…)


 何か話を聞く限り二人の間柄は親友のような感じがした。


「よし、それでは本題に入ろう」


 ウォルフさんが急に真面目な顔になった。やっぱりウォルフさんは笑っている方がいい。真面目な顔はちょっと怖い。


「シンから通信石で連絡が来たんだが、お前、神の涙に目をつけられたらしいな?」


「はい。試験の時に襲ってきた盗賊が神の涙の連中で、俺が全員殺しちゃったので狙われました。今のところカルトリの路地裏で一回、カルトリからグランに帰る途中の一回の計二回襲われました」


 真面目な雰囲気に合わせて俺もいつも以上に真面目に答えた。


「そう…か!?カルトリで襲われたことは聞いてたけどグランに戻る道中でも襲われたのか?それはやべぇな」


 真面目な雰囲気は一瞬にして崩壊した。まあ、今日も襲われましたなんて平然と言われたら普通は「は!?」と首をかしげたくなるだろう。


「まあ…そうですね。短剣を使う男三人と魔法師の女二人の計五人も襲われました。なんだかんだあったけど無事全員焼却処分にしたので安心してください」


「わ、分かった。個人的にはそのなんだかんだの所を詳しく聞きたいのだが…それよりも聞かなくてはならないことがある。そいつらは何か持っていなかったか?通信石を持っていたらやつらのアジトの一つが分かるかもだし情報を吐いたんだったら些細なことでもいいから教えてくれ」


 そういえば倒すことに必死だったから何か持ってないか調べるのを忘れてた。というか気配隠蔽の魔道具を持っていたらしいので、それはもらっておくべきだったと後悔した。それに、情報に関しても、


(うーん…戦う前に何か言ってた気がするようなしないような……)


 一応倒した後に生き残りから情報を引き出そうとしたのだが、自殺されてしまった為結局何も分からなかった。

 俺はそのことを申し訳なさそうにしながら話した。


「なるほど…まあ、そこまで頭が回るほど経験を積んでいる人はあまりいないから気にしなくていいぞ」


 俺の失態はウォルフさんが笑い飛ばしてくれたおかげでなかったことになった。


「まあ、そうなると今後も狙われる可能性が高いな。人のいない所に行かないのはもちろんだが、人が密集している所にも行かない方がいい。すれ違いざまに毒を塗るのは暗殺の常套手段だからな」


「分かりました。俺は領主との話が終わったらティリアンへ向かうつもりです。そこで強くなればやつらに殺される可能性も減りますからね」


 迷宮都市ティリアンはダンジョンがあり、LV上げがしやすいとシンさんから聞いていた。


「なるほど…いい考えだな。まあ、俺はお前のことを気に入ってるからたまには戻ってきてくれ。お前が何時俺を超えるのか考えるとわくわくするしな」


「そうですね…まあ、いつか超えてみせますよ」


 人生長いしなんとかなる。一応元の世界に戻ることを第一に考えてるつもりなのだが、なんだかんだこの世界の方が好きなので前の世界でやることを終わらせたらまたこの世界に戻るつもりだ。





「では、失礼しました」


 暫く雑談をしてから俺は支部長室を出た。ウォルフさんは仕事があるからと言ってその場に残るようだ。

 冒険者ギルドの外に出ると、もう日は沈んでいた。


「取りあえず夕飯適当に幸福亭で食べたら緑林亭に行くとするか~」


 俺は二度と襲われないことを願いながら夕飯の為に歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る