第三十三話 グランを出る

「ではウォルフさん。行ってきます」


「おう。次会う時はどれほど強くなっているのか考えたら楽しみでもう夜しか眠れないぜ」


「あはは、健康な生活が送れそうで何よりです」


 俺は今、ウォルフさんと北門にいた。

 俺は五日ほどかけて道中の食事やテントを用意した。あとは万が一の為、森狼やレッドゴブリンいつものを倒して多少のLV上げ&金稼ぎをした。


「それではまた会う日まで」


 そう言うと俺はフードをかぶり、門の外に出た。


「気をつけろよー!」


 俺はウォルフさんとその様子を見ていた人たちに見送られながらグランを離れた。


「よし。行くか」


 俺は〈身体強化〉を使うとティリアンへ向けて気持ちジョギングスピードオリンピック百メートル走のペースで走りだした。

 ティリアンへ行くには、グラン→カルトリ→マリノ→トリス→ティリアンという経路で行く。歩いて大体十日ほどかかるのだが、俺みたいに〈身体強化〉を使えばその半分ほどしかかからない。俺は今日中にカルトリに行き、そこで一泊するつもりだ。


(た、頼むから襲わないでくれよ…)


 俺はカルトリからグランへ行く道中で襲われたことがある。あの時は撃退出来たが、また来られるのは勘弁してほしい。そう祈りながら俺は走り続けた。










「……まさか本当に襲われないなんてな…」


 俺は今、カルトリに入ったところだ。ここに来るまでの道中、盗賊、魔物、神の涙といったやつらが全く出てこなかった。〈身体強化〉を使っている為、森の中にそれなりの数の魔物がいることは分かっていたが、道から少し離れた場所にいたので、夕方にはカルトリに着きたいという思いを優先してわざわざ自分から行くということはしなかった。

 まあ、そんなことは置いといて、今は日が少し傾いてるくらい…大体午後四時くらいだろう。


(今のうちに宿をとってあとは街を散歩しながら時間を潰すとするか…)


 俺は前来た時に泊まった風の精霊亭へ向かった。





「すいません。部屋は空いていますか?」


 風の精霊亭に着いた俺は宿の女性従業員に声をかけた。


「はい。開いていますけど…一泊一万八千セルになりますがお金は大丈夫なのですか?」


 確かにこの宿は防犯がしっかりしている分かなり高額な宿だ。そこに身長が低めで、実際よりも年下に見られやすい俺が泊まりに来たら金について聞かれるのは当然だろう。実際、前に来た時も言われたので半ば予想はしていた。

 俺は〈アイテムボックス〉から一万八千セルを取り出すと無言で手渡した。


「あ、は、はい。失礼しました。では、部屋は三階の三〇二号室をお使いください。朝食は五時から十時の間に一階にて提供しております」


 そう言うと、深く頭を下げた。


「分かった。ありがとう」


 俺は礼を言うと三階にある客室へ向かった。




「ふぅ…疲れたな……」


 なんだかんだ串焼きを食べる為に立ち止まったことを除くと、朝から夕方までずっと走っていたことになるので、疲労感が半端ない。〈風強化ブースト〉を使ってもよかったのだが、長い時間使うと魔力がなくなってしまうし、少なくなった状態で神の涙に襲われたら流石にやばいと思ったので使わないで置いた。

 俺は一時間ほどのんびりしてから少し早めの夕食をとることにした。


「じゃ、ひと眠りするか~」


 そう言って軽い睡眠をとろうとした時、


「がはっ」


 今、廊下から人が血を吐く音がした。


(ん?なんだ?)


 何か事件が起きていると思った俺は〈アイテムボックス〉から白輝の剣を取り出すと、〈身体強化〉、〈風強化ブースト〉、〈剣術〉を使い、部屋から出ようとした。その瞬間、バン!と俺の部屋のドアが開き、普通の服装をした男三人が入ってくると、いきなり俺に近づき、右手に持っていた短剣で俺に切りかかて来た。

 ただ、準備万端の俺にとって、その動作は遅すぎだ。


「はあっ」


 俺は白輝の剣を横なぎに振った。


「がはっ」


 三人のうち二人は胴を両断されて息絶えた。ただ、一人は何故か切ることが出来ず、白輝の剣に当たると壁にたたきつけられて意識を失ったようだ。


「な…まじかよ…」


 白輝の剣には魔力を通しており、更にそれを魔法発動体として〈風強化ブースト〉を使っている為、威力はとんでもないことになっているはずだ。事実男二人は手ごたえもなく両断出来たし、剣を振った時の剣圧で壁に傷がうっすらとついているほどだ。それで生きているとなると考えられるのは、


「まさか魔道具ってやつか?」


 まだ生きている男は壁にたたきつけられて気絶していたので、俺は警戒しつつ、ポケットの中や懐の中をあさってみた。すると、


「お、何かあったぞ」


 ポケットの中から出てきたのはひびの入った薄い青色の石だ。


「これが魔道具か…」


 ただ、ひびが入っているので、すでに壊れてしまっているようだ。

 これは効果の強力さからも一回限りの使い捨てと考えるのが自然だろう。


「なるほどな…あ!さっき廊下からやばそうな音がしたんだった」


 俺は慌てて廊下へ飛び出した。すると、一人の防具を着た男が仰向けで倒れており、そこに宿の従業員たちが丁度来たところだった。

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