第二十六話 怪しい影

「おいお前。邪魔だからさっさとどけ!」


 その声が聞こえた方に振り返ると、防具を付けたガラの悪そうな男がいた。


「あ、すいません」


 また問題を起こすのはめんどくさいので謝ってその場を離れようとしたが…


「おいなんだよその謝り方は!」


 そう言われた時、俺は思った。こいつは前に絡んできたやつと同類だ……と


「ちょっとこっち来いよ。安心しろ。殺したりとかしないから」


 周囲の人の話し声もあってか近くの人にしかこのトラブルは見られておらず、その人たちは巻き込まれたくないのか不憫そうな目で見てくるだけだ。


(仕方ない…黙らせるか…)


 俺は〈身体強化〉を使うとこいつの腕をつかみ、床にたたきつけた。前はたまたま飛ばした方向に人がいなかったから良かったが、今後はそういうことにも気を付けていこう。

 床にたたきつけられた男はそのまま気絶してしまった。前は壁をへこませてしまったので、今回は床をへこまさないように頑張った。


「ふぅ…無事でよかった(床が)」


 周りの人たちは「無事じゃないだろ!!(男が)」と言う目で俺のことを見てくる。視線が痛いので俺はフードをかぶると冒険者ギルドからそそくさと出て行った。


 外はだいぶ日が沈んできており、人通りも徐々に少なくなってきている。


「んー早いけど夕飯にするか~」


 俺はグランで買ったオークの串焼きの残りの四本を人の邪魔にならなさそうな路地裏に行き、食べた。


「あ~うまいな…今後の食事はこんな感じにした方が手軽でいいな」


 屋台とかで大量買いして〈アイテムボックス〉に入れ、好きな時に食べる。〈アイテムボックス〉の中では時間が止まっているのでいつでも出来立てほやほやな食事を楽しむことが出来る。実にいいアイデアだ。


 俺が上機嫌で串焼きを食べていると、


「こんな所でのんきに食事をしてたら悪い人に狙われるよ。例えば僕みたいなね」


 突然前方から声がした。視線を前に移すと、十メートルほど前に二人の男が現れた。服装はいたって普通だし、殺気も感じられない。軽く見ただけではただの一般人だと思ってしまう。しかし、ステータスが一般人ではないことを物語っていた。

 ー--------------

 名前 エルス LV.42

 体力 3700/3700

 魔力 4000/4000

 攻撃 3100

 防護 2000

 俊敏性 5500

 スキル

 ・気配隠蔽LV.6

 魔法

 ・火属性

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 ー--------------

 名前 ノーム LV.40

 体力 3200/3200

 魔力 4100/4100

 攻撃 2800

 防護 2200

 俊敏性 5100

 スキル

 ・気配隠蔽LV.6

 魔法

 ・土属性

 ー--------------

 ステータス的には一対一なら勝てそうだが、ニ対一だと分からないといったところだ。ただ、〈身体強化〉と〈風強化ブースト〉で速度を桁違いに上げれば圧倒出来るかもしれない。ただ、そこは相手の技量しだいといったところだ。


「何が目的なんだ?」


 俺は緊張する気持ちを抑えて、冷静に聞いてみた。


「それはもちろん仲間を皆殺しにされた報復だな。お前が仲間を殺したこと。我が主は大変お怒りになられていたぞ」


 と、怒りを含んだ声で返答が来た。

 皆殺しにしたと言われると心当たりしかない。恐らくは今日襲ってきた盗賊のことだろう。


「それは襲ってきたあいつらが悪い。盗賊は殺さなければならない」


「盗賊とは心外だな。盗賊というのは私利私欲の為に人々から金品を奪う人たちのことだ。一方我らはとある目的の為に必要なものを貰っているのだ。我が主の為に、そして世界の平和の為に必要なことなのだ」


 と、熱弁してきた。

「いや、それも立派な盗賊だろ!」と言いたかったが、それを口に出す前に男の一人が懐から短剣を取り出すと一気に俺の目の前まで近づき、頭めがけて突き刺した。


「よし、帰…あれ?いない?」


「おい!どこに消え…がはっ」


 後方にいた男の腹から剣が突き出た。


「やれやれ…あと少し遅れてたら死んでたぞ俺…」


 目の前に迫る短剣には正直めっちゃビビった。九死に一生を得るとはまさしくこういうことを言うのだろう。

 俺はそのままミスリルの剣を男から引き抜いた。


「な…お前…魔法師じゃなかったのか?あの時にあれほどの魔法を使っておいて…それに何なんだ今の速さは……」


 男は今の出来事に頭がついていけず、混乱しているようだった。

 別に俺は特別なことをしたわけではない。〈身体強化〉、〈風強化ブースト〉、〈剣術〉を使うと、全力で後方の男の背後に回り、〈アイテムボックス〉から取り出したミスリルの剣で突き刺す。ただそれだけだ。

 まあ、かなり無茶な動きをしたので腰が少し痛い。その為、〈回復ヒール〉を使って身体を即座に癒した。


「ちっ…ただこれで終わりだと思うな。我が組織。神の涙の同胞が必ずお前を殺す」


 男はそう吐き捨てると、その場に懐から取り出した白くて小さい球体を投げ捨てた。


「お、おい!何をする気だ!」


 その瞬間、その球体は爆発し、白い煙幕が張られた。

 そして、煙が消えた時にはすでに男は消えており、倒れていた死体もなくなっていた。


「神の涙…か……」


 俺が会った神様が涙を流すとは思えないが…

 いや、今は取りあえずこのことを誰かに話さないといけない。


「シンさんに話すか…」


 シンさんなら何か知ってるかもしれないと思い、俺は再び冒険者ギルドへ向かった。


(ていうか俺今日襲われすぎじゃね?)


 今日の運勢は大凶のようだ……

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