第二十五話 シンの秘密

「実はな、グランの領主であるラルティ・ノース・グラン伯爵様がお前に会いたいとおっしゃっているんだ」


「領主?へ?俺に?」


 冒険者になって十日も経っていない俺に領主が会いたいと言う理由がよく分からない。何故そんなお偉いさんが俺に会いたいというのだろうか…


「ああ、実はウォルフは元Sランクの冒険者でね。何度かウォルフに依頼を出していた結果ラルティ様とは親友のような仲になったんだ。そこでウォルフが君のことを話したら、会ってみたいとおっしゃったというわけだ」


 ウォルフさんが領主というお偉いさんと友人だなんて思いもしなかった。Sランク冒険者ってスゲー


「わ、分かりました…それで、いつ会うことになっているのですか?」


「四日後の十時に領主館で会うことになっている。なので明日にはグランに行くようにしてくれ」


 カルトリで少しのんびりしてから帰りたかったが領主の呼び出しなら無視するわけにも行かない。

 それにしても領主館で会うと言われたが領主館はどこにあるのだろうか?俺がグランを探索した時はそれらしき建物を見つけることは出来なかった。


「領主館ってどこにあるのですか?」


「ああ、それに関しては大丈夫だ。ウォルフと一緒に行くことになっているから当日に冒険者ギルドに行けば問題ない」


「分かりました」


 一人で領主に会うというのは荷が重かったのでウォルフさんと行けることは嬉しかった。


「で、あとはさ、今回の試験でお前は何種類の属性を使ってたんだ?」


 流石元Aランク冒険者ばっちり分かってました。その試験と言うのがDランク昇格試験のことなのか、それとも冒険者登録の時なのかは分からない。

 まあ、それよりも厄介なのはその質問を自然に聞いてきたことだ。その為、


「三属性ですね…あ」


 このようにうっかり話してしまったのである。しかも後者の方を言ってしまった。まあ、あの質問からすでに気づいていたと思うので言わなかったところで結果はあまり変わらなかったと思うが…


「なるほどな…お前は将来有望すぎるな。宮廷魔法師長や国王直属の護衛にだって余裕でなることが出来そうだな…」


 国王に仕えることが出来たらきっと不自由ない生活が送れるだろう。ただ、やはり国に束縛されるのはなんかめんどくさいことに巻き込まれるのが王道だし、俺の不老疑惑が出てきそうだ。


「あーまあ、自由に生きたいんで遠慮しておきます」


「そうか。まあ、そう言うやつも結構いるしな。例えば俺もその一人だ」


「シンさんも?」


「ああ、俺は貴族から仕官してくれという手紙が何枚も来たことがあるんだが、すべて断ったんだ。理由はお前と同じく自由に生きたいからだ」


 どうやら俺と同じ考えをもつ人も一定数いるらしい。


「でしたら何故ギルド職員になったのですか?冒険者の方が自由だと思うのですが…」


「あーそれに感じてはな…怪我をしたからなんだ」


 深刻そうな問題かと思ったらまさかの怪我だった。ただ、見た感じ怪我をしているようには見えない。


「今も怪我しているんですか?」


「ああそうだ。ほら、これを見てみろ」


 そう言うとシンさんは左足のズボンのすそをめくった。すると、そこには金属で出来た足があった。


「え、これは!?」


 シンさんが義足だなんて想像もしていなかった。


「ああ、これは魔物に足を破壊されたんだ。いくら下位の方とはいえ、Sランクの魔物と戦うのはきつかった。まあ、パーティーメンバーの二人が大きな怪我を負わなかったことが不幸中の幸いと言ったところだな」


 ていうか足を噛まれるとかじゃなくて破壊されるという表現がすごい怖い。何と戦ったらあのステータスの人が足を破壊される大怪我を負うのだろうか…


「シンさんが戦ったSランクの魔物って何と言う魔物何ですか?」


「リッチロードというリッチの上位種だな」


「リッチロード…ですか……」


 リッチというとゲームでもちょくちょく出てくるアンデットで、魔法が得意だった気がする。


「魔法に当たらないように回避はしていたんだけど途中で当たってしまってね。しかもそれが石化の魔法だったんだ。そして石化した左足が砕けて見事に破壊されてしまったんだよ」


 全然見事ではないのだが…まあ、左足だけで済んで良かったのかもしれない。もしそれが腹とか頭とかだったら即終了なのだろう。


「まあ、俺の方に注意が向いたおかげでそのすきにパーティーメンバーが魔石を砕いて倒したんだよ。本当は魔石を入手したかったんだけどアンデット系はしぶといからね。体と魔石を切り離せば良かったんだが、それどころでは無かったんだ……」


 シンさんはその時のことを思い出したのか悔しそうな表情をしている。


「そ、そうなんですか…」


「おっと、暗い話になってしまったな。すまない。まあ、取りあえず明日にはグランに向かってくれ。これで俺からの話は終わりだ」


 シンさんは半ば強引に話を終わらせた。


「分かりました」


 俺はそう言うと会議室を出て下に降りた。


(この街にはどんな依頼があるか見ておこうかな…あとは宿も探さないと……)


 俺はひとまず掲示板の方へ向かった。


「夕方だとGランクかFランクのやつしかないな…」


 グランにもあった内容の依頼が残されていた。ちなみに報酬金が百五十万とかいうやばいやつがあったが、Aランク冒険者以上で、一ヶ月護衛をやってくれという依頼だった。

 今の俺には出来ないし、一ヶ月もかかるんだったら多分Aランク冒険者になってもやらなさそうだ。


「え~と…常設の方は…」


 俺が常設の依頼を見ようとした時、


「おいガキ。邪魔だからさっさとどけ」


 と、声をかけられてしまった。

 どうやらめんどくさいことになりそうだ。

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