第二十七話 神の涙

 冒険者ギルドの中に入った俺は気まずい気分になっていた。

 俺が冒険者ギルドの中に入ると、ちょうど俺が床にたたきつけた男が担架で奥に運ばれるところだった。

 その為、一部始終を見ていた人たちが一斉にこっちを見たが、直ぐに「なんでもないから気にしないで」と言わんばかりの雰囲気を出しながらその場を去っていった。そして、何も知らない人たちが「何をしたんだ?」て感じの視線を向けてくる。

 そして今に至るというわけだ。


(うう…なんか居づらい……)


 そう思っていると、二階からシンさんが小走りで下りてきて、俺に近づいてきた。


「どうかしましたか?」


「いや、この辺で誰かが戦闘をしているようだったからな。それで、お前はさっきまで外にいたようだが何か見なかったか?」


 戦闘というと心当たりしかない。


「あー見たというか…それ多分俺ですね。路地裏でそれなりに強い人二人に襲われました」


「お前だったのか…会議室で詳しい話を聞かせてくれないか?」


 俺は頷くとシンさんと共に会議室へ向かった。









「で、何があったんだ?」


 実は外で今日殲滅した盗賊の仲間らしき男二人が現れて俺を殺そうとしてきました。で、結局逃げられてしまったんですけど、その時にそいつらが自分たちが所属する組織のことを神の涙って言ってたんですよね」


 俺はひとまず何があったのかを説明した。


「か、神の涙だと…」


 シンさんは深刻そうな顔をしながら神の涙という言葉に心の底から驚いていた。


「な、何か知ってるんですか?」


「ああ、神の涙というのは世界最大の犯罪組織だ。世界中にアジトがあり、目的の為なら手段を択ばない危険なやつらだ。いつからあるのかは不明だが、少なくとも五百年以上の歴史があると言われている」


「ご、五百年!?」


 そんな長い歴史を持つ犯罪組織なんて前の世界でも聞いたことがない。


「そうだ。十五年前には小国とはいえ神の涙によって占領された国もあったんだ。今は占領されてないけどな」


(犯罪組織が国を乗っ取るって…とんでもないないな……)


「まあ、何となく事情は分かった。それにしてもまだ若いのに神の涙に狙われるとはな…やつらは一度狙った獲物は犠牲を払おうがしぶとく追い続ける。理由は逆らうやつをなくすためだろうな。特に厄介なのは暗殺部隊の神影だ。やつらの腕前は大国の暗殺部隊に匹敵すると言われているくらいなんだ。くれぐれも気を付けてくれ。あと、襲われても対処できるように強くなった方がいい。残念だが俺から出来ることはあまりないんだ…」


 それを聞いて俺はとんでもないやつらに狙われたなと思わされた。ただ、強くなる。つまりLVを上げるというのは俺の目的である転移の魔法を取得し、前の世界に行く為にも必要なことなので丁度いい。


「分かりました。絶対強くなります」


 俺はそう決意した。


「ああ、そうするといい。強くなるんだったらダンジョン都市、ティリアンへ向かうといい。グランから歩いて十日ほどの距離にあるから割と近いな」


 歩いて十日は俺の感覚からしたらすごく遠く感じる。まあ、〈身体強化〉を使えばある程度短縮されるだろう。


「分かりました。ところで、ダンジョン都市って何ですか?」


「ダンジョン都市っていうのは、都市の中もしくはその近くに魔物が大量発生する洞窟のような場所がある都市のことだ。そこでは大量の魔物が次々と現れる為、魔物を探す手間が省けるし、下に行くほどだんだん魔物が強くなっていく為、実力にあった魔物と戦うこともできる」


 なるほど…グランでは弱い魔物しか出てこなかった。一応強い魔物も出るが、それは夜にしか出てこないと聞いたし、そもそも今の俺ではランク不足で夜に行くことは出来ない」


「分かりました。グランで領主と会ったらそこに行ってみることにします」


「そうか。頑張ってくれ」


 俺は一礼し、会議室を出た。そして、そのまま冒険者ギルドの外に出て、宿を探すことにした。

 色々あった結果、もう夜になってしまっている。空には月が浮かんでいる。そもそもあれを月と呼ぶのかは知らないが……


「神の涙のことも考えるとそれなりにいい宿に泊まりたいな」


 安宿よりもいい宿の方が防犯もしっかりしていると思い、その選択を取った。


「さてと…この辺を歩き回ったら見つかるだろ」


 そう思いながら俺はフードをかぶり直すと宿探しを始めた。















 カルトリのスラム街にある家の地下にて…


「ーー----------のようなことがありました」


「そうか…分かった」


 重い雰囲気の中、二人の男が話し合っていた。男、エルスの隣には今日ユートによって殺された男、ノームが横たわっていた。


「まさか三属性の魔法が使えるものが剣術においても一流とはな……まさかお前が目で追えないなんて想像もしていなかった」


「はい。ただ、彼ほどの魔法戦士ともなれば有名でもおかしくはないのですが……」


 エルスは重い雰囲気の中、純粋な気持ちを投げかけた。


「うーん…強き者の中には人前に出たがらない者も一定数いる。彼もそのたぐいなのだろう。まあ、我々の邪魔をしたのだ。排除しろ」


「分かりました。ケルト様。では、失礼しました」


 エルスはノームの死体を抱えるとその場を立ち去った。


「必ず我々の邪魔はさせない」


 怒りを含んだ声で男、ケルトは呟いた。

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