第六話 試験に挑む

「じゃあ、この登録用紙に名前と主な戦い方を書いてくれ」


 男は威圧感のある声ではなく普通に友人と話すかのような軽い口調で話しかけてきた。


(見た目に反して優しいタイプの人だな…)


 と思いつつ、俺は登録用紙にそれとともに手渡された鉛筆で名前を書いた。


(主な戦い方は魔法だな。ただ、〈剣術〉と〈身体強化〉のスキルも持っているしな……)


 試したことはないが、この二つを同時に使うコンボはなかなか強そうだ。

 どっちも使えると書いてもよかったが、〈剣術〉のスキルは使ったことがないが、魔法は森の中で割と使ったから、魔法と書いておくのが無難だろう。


「これでいいですか?」


 そう言って俺は登録用紙を手渡した

 男性はそれをまじまじと見た。


「ああ、完璧だ。名前はユートというのか。よし、これから戦えるかどうかの試験を訓練場でする。今からやってもいいか?」


「大丈夫です」


「あ、忘れてた。俺の名前はウォルフだ。よろしくな」


「はい。よろしくお願いします」


 その場で軽く握手をしてから俺は訓練場に連れてかれた。




 冒険者ギルドの裏側にある訓練場は、学校の体育館くらいの大きさの部屋。と言うよりは天井がない為、観客席のない闘技場と言った方が近い気がする。その中にも白い枠で囲われたスペースがいくつもあり、そこで戦っている人が何人かいる。俺はその中の一つに案内された。

 俺が案内されたスペースの真ん中に試験官らしき人がいた。


「シン、こいつの試験をしてくれねえか?」


「分かった」


 シンと呼ばれた男は落ち着いた口調で答えた。

 シンは、黒髪黒眼の四十代前半のように見える落ち着いた雰囲気を持つ男性だ。

 身長は百七十センチメートルほどあり、やや筋肉質だ。そして、防具を着ており、右手には木剣が握られていた。


「ユート。こいつの名前はシンだ。こう見えても元Aランクの冒険者だ」


「こう見えてもは余計だぞ。まあ、お前に勝ったことは一度もないから反論のしようがないな…」


 シンさんはため息をつきながら答えた。


(Aランクってどのくらい強いんだ?)


 よくわからないが、話を聞く限り、シンさんはかなり強そうだ。そしてウォルフさんはさらに強いのか……

 まあ、あの威圧感だし納得は出来る。


「で…君はユートというのか。そして……魔法が使えるのか」


 この言い方からするに、魔法はみんな使えるわけではなさそうだ。


「魔法ってどのくらいの人が使えるんですか?」


「そうだな~大体三人に一人が使えるといったところだな」


「なるほど……分かりました」


 思ったより少なかった。ただ、めちゃくちゃ希少というわけでもないようだ。


「まあ、雑談はこのくらいにして試験を始めようか。とりあえず俺から十メートルほど離れたところに立ってくれ」


 俺は言われた通り、十メートルほど離れた場所に立ち、意識を集中させた。


(これで仕事に就けるかどうかが決まるんだ。絶対に合格しないと……)


「ずいぶんと集中しているな…俺は邪魔にならないように受付に戻ってるぞ」


 ウォルフさんはそう言ってこの部屋から出て行った。


「これは試験だから先手は君に譲るよ。遠慮なくかかってくるといい。あと、別に俺に勝つ必要はないから安心してくれ」


 それを聞いて、俺は安心した。まあ、試験官に勝てだなんて普通に考えたら無茶ぶりもいいところだろう。


「分かりました」


 俺は頷くと、とりあえず〈火球ファイアボール〉を撃った。


(火だから木剣で防ぐことは出来ないし、範囲も俺が使える中では一番広いしな……)


 そう思って撃ってみたがその期待はすぐに消えてしまった。


「一個だけならよけるのも簡単だな」


 と、言われると普通にしゃがんでよけられてしまった。

 なんかショックだ……

 ちなみに〈火球ファイアボール〉はそのまま訓練場の壁にぶつかった。木でできているのにも関わらず、一切燃え広がらなかった。不思議だが、異世界だからってことでその疑問は片づけた。


「魔法は一度撃ったら、相手のよける方向を予測して連発するといい」


 そう助言しながらシンは十メートルの距離をニ秒ほどで詰めてきた。


「これで終わりだな」


 そう言って木剣を振り下ろした。

 だが、俺にも考えがある。

 シンさんが木剣を俺にあたるギリギリで止める前に、


「がっ」


 という音とともに木剣は〈結界シールド〉によって防がれた。


「なっ〈結界シールド〉だと……」


 シンさんは一瞬動揺した。

 俺はそこを見逃さず、〈結界シールド〉の横へ移動すると、〈火球ファイアボール〉を撃った。


「ぐっ」


 シンさんは〈火球ファイアボール〉があたった衝撃で一メートルほど飛ばされた。


「まさかニ属性も使えるなんて……君はなかなかの逸材だな」


 シンさんはかなり驚いていた。どうやら二属性以上使える人は俺が思っている以上に少ないようだ。


「普通は属性って一つなのですか?」


「そうだな。稀に二属性持っている人はいるが、冒険者の中では五パーセントほどしかいないな」


 もしここで実は五属性使えますなんて言ったら面白いこと……じゃなくて大変なことになりそうなので言わないでおこう。


「ちなみにだがこの国の宮廷魔法師長は三属性使えるらしいな。あとは他の国にも大体一人から三人ずつ三属性使えるやつがいる」


 何となくわかったことだがもし俺が五属性使えますなんて言ったら国に束縛されるような気がした。

 俺は自由に生きたいし、極力秘密にしていこうと心に刻んだ。たぶん無理だけど……


「で、試験の方だがもちろん合格だ。それにしてもいくら不覚を取ったとは言え、試験官である俺が負けるなんてな……」


 シンさんは悔しそうにため息をついた。一方俺は試験は合格だったし、その上で試験官に勝つことが出来たのだから正直言ってかなりうれしい。


「では、この試験合格書を持って受付にいるウォルフの元へ行くといい」


「分かりました。今日はありがとうございました」


 俺は軽くお辞儀をした後、ウォルフさんのいる受付へ向かった。

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