第五話 街へ案内してもらう

「この辺だと思うんだけどな……」


 俺は声がする方向へ走っていた。

 すると前方に人影が一つ見えた。


(あ、人が居る。良かった~)


 俺はそのまま近づくと、


「あ、あの~ちょっといいですか?」


 この世界で初めて人に会ったこともあり、少し緊張しながら訪ねた。


「ん?慌ててるみたいだけど何かあったの?」


 そこにいたのは俺と同じくらいの背丈をしたの栗色の髪と眼をした華奢な女性だ。

 防具を着ており、腰には剣をさしていた。

 年齢は二十代前半ほどに見える。

 髪は肩までストレートに伸ばしており、かなりの美女だ。


「この辺に街はありますか?道に迷ってしまって……」


「この先にグランっていう街があるわ。私もそこへ帰るところだし案内してあげる」


 と、快く頷いてくれた。


「ありがとうございます」


 こうして俺は町へ行くことになった。

 女性と一緒に歩くことなんて初めてだからなんか恥ずかしい。

 そう思っていると、女性の方から話しかけてくれた。


「私の名前はミリ。Cランクの冒険者よ」


「俺の名前はユートだ。案内を引き受けてくれてありがとう」


「帰る所だったから問題ないって。というか……ずいぶん変わった服装だね。」


「ま、まあ…そうか?」


 言われてみれば服は前の世界で死んだ時のままだ。ただ、殺された時にできた穴や血の跡は何故かついていないが……


「そういえばあなたってどこに住んでいるの?」


(や、やばい…答えることが出来ない質問が来た。な、なんて答えようか……)


 素直に答えるなら「異世界に住んでいました」と答えるのだが、そんな風に答えたら頭のおかしい人と思われてしまう。

 この時に咄嗟に思いついた言い訳がこれだ。


「え~と……俺、実は森で母親と二人で暮らしていたんだよね。ただ、母親が死んじゃったからどこか人のいる所へ行こうと思ったんだよね」


 と、少し動揺しながらもそれなりにいい言い訳をすることが出来た。

 ふう……我ながらなかなかいい言い訳だ。

 俺は自分で自分を褒めたたえた。


「あ、そうなんだ……」


 ミリは少し申し訳なさそうな顔をした。確かにミリから見たら母親が死んだことを思い出させてしまったと思うだろう。まあ、実際は違うからむしろその顔をするのは俺の方なのだが……


「……それにしてもこの森の中にずっと暮らしていたの?」


「う……うん」


「この森って昼間に活動する魔物はあまり強くないんだけど夜中に活動する魔物はかなり強いからこの森で過ごすのってすごく危険よ」


「そ、あ…そうだな」


「そうなのか?」と聞きそうになったが、それだとここに住んでいたという言い訳が疑われてしまうと思い、少し挙動不審になりながらもニナの言葉を肯定した。


(ここで野宿したけどもしかして結構危ない橋わたってたんだな…俺)


 それに肉を焼いた時も、その匂いにつられて危険な魔物が来たらひとたまりもなかっただろう。まあ、あの時の俺はそんなことは知らなかったし、もし知っていたとしても食欲に負けて食べていたと思う。


「ていうかずっと森の中で暮らしてたんでしょ?お金とか大丈夫?」


「大丈夫じゃないで…す……」


 やばい。すっかり忘れていた。それにお金を稼ごうにも前の世界では仕事はおろか、バイトも全くしていない。就職活動について全く知識を持たない俺に仕事なんて見つかるのか……

 そう悩んでいると、


「ユートってこの森で過ごせるってことは結構強い?」


 俺はこの世界にきてまだ二日だ。強いか聞かれても答えようがない。

 ただ、神様が世界最高クラスにしたといっていたし、魔物とも戦うことは出来た。

 それに、ここで弱いと言ったらこの森で過ごしてきたという言い訳を疑われてしまう。


「まあ、それなりには戦えます」


 と、口ごもりながら答えた。


「それなら私と同じ冒険者っていうのをやってみるのはどう?」


 よく分からないが、仕事に就くことが出来そうだ。

 俺は即答したい気持ちを抑えつつ、一つ質問をした。


「冒険者ってどういうことをするんだ?」


「冒険者ギルドから出される依頼をすることが冒険者の仕事よ。冒険者の主な仕事は魔物の討伐、薬草の採取、街の仕事の手伝いが一番多いわ」


「なるほど…それなら俺でも出来そうだな。俺も冒険者になろうかな…」


 魔物の討伐は昨日したし、街の手伝いも専門的なことでなければあらかた出来そうだ。


「じゃああなたは私の後輩ってことになるわね。」


 ミリは笑顔でこう言ってきた。


「そうだな……」


 俺は少し照れながらも答えた。










 十分後…


「あ、グランが見えてきたわ」


 前方を見ると、高さ五メートルほどの門が見えてきた。


「このまま冒険者ギルドまで案内してあげる。そこで冒険者になる手続きをすればいいわ」


 俺たちは門をくぐり抜けて街の中に入った。実は街に入る時の手続きで俺は少しもめた。身分を証明するためのものが必要と言われたのだが、俺はそんなもの持っていない。「やばい、どうしよう」とかなり焦ってしまったが、ミリが身元保証人になることで、何とか入ることが出来た。もうミリに足を向けて寝ることはできない。

 街は高さ三メートルほどの石の塀で囲まれている。そして、街の中はたくさんの人がいてにぎやかだ。

 暫く歩いていると、左側に大きな建物が見えてきた。

 入口の扉の上についている看板には「冒険者ギルド グラン支部」と書かれていていた。


「ここが冒険者ギルドよ。ついてきて」


 俺はミリに連れられ、冒険者ギルドへと入った。




 冒険者ギルドの中はそれなりに広かった。そして、沢山の人でにぎわっていた。

 横にあるテーブルで酒を飲んでいる人や、雑談をしている人、受付と書かれているところに並んでいる人もいた。


「冒険者になるには、左の方にある冒険者登録って書かれている、受付へ行けばいいわ」


 そう言うと、ミリは通常受付と書かれている受付へ行った。


「優しくて明るい人だなあ」


 ミリは例えるならクラスに一人はいるコミュ力が高い女子といった感じだ。


「さて…俺も受付へ行くか」


 そう言って俺は冒険者登録と書かれている受付へ向かった。

 幸いなことに受付には誰も並んでいない。ただ、受付をしているのはスキンヘッドで目つきの悪い四十代半ばほどに見える半袖短パンの男性だ。筋肉がかなりあり、威圧感が半端ない。


(冒険者登録に来る人っているのか……)


 この見た目じゃビビって逃げ出す人が絶対いる。

 そう思いつつも、俺は今後の生活の為、覚悟を決めて話しかけた。


「す、すみません。冒険者登録をしたいのですが……」

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