第四話 身体強化の意外な使い道

「チチチチチ……」


「ふぁ…朝か……」


 俺は鳥の鳴き声で目を覚ました。


「取り敢えず飯食いながらこれからどうするか考えよう……」


 俺は〈アイテムボックス〉から昨日焼いた〈森狼フォレストウルフ〉の残りを取り出した。〈アイテムボックス〉の中では時間が止まってるので、肉は焼き立てのままだ。


「取り敢えず人がいる所へ向かわないとなあ…流石にいつまでも野宿する訳にはいかないし……」






 十分ほどたち、肉を食べ終わった俺は歩き出そうとしたが、


「あ、そういえば魔法が増えてないかチェックするの忘れてた」


 昨日やろうと思ってから寝たのにもう忘れてしまっていた。


(まあ、寝起きで頭回ってないし、仕方ない仕方ない……)


 と、頭の中で言い訳をしつつ、俺は使える魔法を見た。


「…光属性に〈回復ヒール〉ってのが追加されているな」


 ほかの属性も確認したが、残念ながら追加されていないようだ。


「試してみたいけど別に怪我してるわけじゃないしな~」


 かといってわざと自分を傷つけるのはやりたくない。


(ていうか“自分で自分を傷つける”という言葉だけを聞くとなんか病んでいる人みたいだな……)


 まあ、これは使う機会が来たら使うことにしよう。その機会は来ない方がいいのだが…


(そういえば俺はこの世界にきてから傷一つ負ってないな…)


 魔物は二回襲って聞いたが、魔法を使うことで切り抜けることが出来た。


「まあ、それは置いといてとりあえず人を探して街へ案内してもらおう」


 俺はそう言うと〈身体強化〉を使って人探しの旅に出た。







「……〈身体強化〉ってのはすごい便利だな~これほどのスピードで走っていて全然疲れないんだから…」


 俺は人探しの旅に出て三時間。大体時速ニ十キロメートルで走っているが全然疲れない。いや、スタミナが〈身体強化〉によって増えているというのもありそうだが、今の感覚としては軽いジョギングをしているような感覚だ。これほどの速さで走っていてジョギングの気分なので、なんか不思議な気分だ。


「ていうかスキルって魔力を使わないんだな……」


 ステータスで魔力のところを見てみたが、魔力は全く減っていなかった。

 これだけ聞くと、どんな時でも〈身体強化〉を使っていればいいと思ってしまうが、世の中そううまい話はない。

 〈身体強化〉をつかうと、解除しなくても数十分で強制的に解除されてしまい、また使いなおさないといけなかった。



 ふと、空を見上げてみると、日は真上から地面を照らしていた。


「もう昼なのか。まあ、お腹も減ってきたしここで昼飯にするか」


 俺は〈アイテムボックス〉の中からから昨日焼いた森狼フォレストウルフを取り出した。


「昨日焼いた分もこれでおしまいか…」


 次たべる時はまた解体して焼くという作業をしなければならない。まあ、その前には街に着けるだろう。多分……


「流石に三回連続同じ食べ物っていうのは飽きてくるな~」


 ただ、これしか食べ物は無いので贅沢は言えない。





「は~食った食った」


 三度目の森狼フォレストウルフも十分ほどで食べ終わった。


「このまま闇雲に探しても見つかりそうに無いな……」


 なにかいい方法はないだろうか?

 いや、最終手段。というかほとんど禁術のようなものだが、


「この森を〈火球ファイアボール〉で燃やし尽くせば絶対見つかるよな」


 そして燃やしたあとは〈水球ウォーターボール〉で火を鎮火すれば街などが燃えるということはない…はず。


 最初は本気でこの方法を使うつもりだったが、


(そんなことしたらこの世界の人に怒られることは不可避だな……)


 それに前の世界でも森林を燃やしたら警察のお世話になる。きっとこの世界でも同じだろう。


「せっかく異世界に来たのに逮捕されるのはゴメンだよ…」


 ただそれ以外でいい方法がなかなか思いつかない。


「なんかいい方法は無いかなあ~」


 そう言いながらステータスを眺めていた。

 ここで俺はキュピーンと閃いた。


(〈身体強化〉ってあらゆる部位を強化するんだよな…だったら俺の頭って強化されないのかな?)


 そう思いながら〈身体強化〉を使ってみた。


「あ~知識が増えるわけじゃなくて頭の回転が早くなる感じか~」


 ただそれにより良い方法が頭に浮かんだ。


「〈身体強化〉によって耳も強化されるからそれを使えば良いのか」


 何故〈身体強化〉を使っている間、耳が良くなったことに今まで気づかなかったのかというと、耳を澄ませるという行動をこの世界に来てから一度もしていないからだ。まあ、普通に生活してて耳を澄まさなければならない状況なんて滅多に起きないから仕方のないことだ。

 試しに耳を澄ませてみると、魔物の鳴き声や草が揺れる音が聞こえてきた。


「お~スゲ~めちゃくちゃ良く聞こえる」


 しかもどれくらい離れた場所から聞こえてきたかもわかった。


(もしかして感覚も強化されているのかな?)


 使っている間はあらゆる部位が強化されるのでそういったところまではあまり自覚できない。

 まあ取り敢えず探す方法を見つけることはできた。これをやればきっと見つけることが出来るだろう。


「そうと決まればさっそくやってみるか」


 こうして俺は早速行動に移した。と言ってもやることは、耳を澄ましながら走るただそれだけだ。





 十キロメートルは走っただろうか。


「まだ見つからないのか…」


 俺はずっと耳を澄ませながら走っていた。

 ちなみに早く人を見つけたいので、魔物の居るところは避けて走っている。


「ざわざわ」


「グルルルルル」


「…街に…ろう…」


(ん?今人の声がしたな)


 一瞬のことだったので分かりづらかったが、左の方から明らかに人の声がした。


「よし!急いで向かおう」


 俺は〈身体強化〉を使ったまま、声のする方へと駆け出していった。

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