第53話 キャンプ飯④
アユタは乾燥ガーリックスライスを割って水を少し入れた用器に入れる。
10分ほど経ってから鉄板にバターを溶かしてパックご飯をあけて炒める。
お好み焼きを焼く時に使うヘラを両手に持ち、切るようにご飯をほぐしながら炒める。そこへ水で戻したガーリックを入れ、更にツナ缶を投入する。
手際よくご飯をすくっては切るように混ぜ、塩胡椒で味付けし、最後に鉄板に醤油を落としてわざと少し焦げるようにしてからご飯と混ぜる。
炒め始めてからすぐに出来上がりだ。
皿に盛り付けてから、パックに入ってるカット済みの青ネギをパラパラとかける。
皿の脇に家から持ってきた、梅しそで和えた胡瓜を乗せる。
皆が席に座って、ここでやっとジュースとお茶で乾杯だ。
カケルくんはもう20歳の誕生日が過ぎたし、優媛さんももちろんお酒を飲めるが、今日はやめとくとのことだ。
ガーリックライスを食べながら、今日のオリエンテーリングの話をする。
俺:「お姉さんは、このオリエンテーリングのどの部分を作ったんですか?」
優媛:「私は制作の途中から参加したから、メインのプログラムには関わってないの。
私は主にクイズね。それとデザインの一部。」
アユタ:「あの問題って姉貴が考えてたのかぁ。」
優媛:「そうよ。だから、今日一緒にやってて、選択肢の④にいちいち反応というか、ちゃんと拾ってくれるのが嬉しくて。」
佑:「うわー、オレ達変なこと言ってませんでした?」
優媛:「うん、変なことしか言ってなかった。」フフッと笑う。
アユタ:「中級の最初の方、めっちゃ試験問題みたかったよ。」
優媛:「クイズさ、何百も作らなきゃいけないのね。1人で考えてるわけじゃないけど、相当数任されるの。
その時ちょうどアユタが受験生だったから、ついつい試験問題みたいになっちゃった。」
佑:「お姉さんの愛なんだね。」
優媛:「そうね、なんだかんだと家族に絡んだ問題作ってたかも。」
アユタ:「例えば?」
優媛:「あんまり言いたくないけど、“コガネムシ”の問題。
あの選択肢④のいじけ虫は小学2年生のアユタ。
生活発表会の時、緑のキラキラのハッピ着て踊るやつだったの。でも両親共仕事で見に来られなかったのね。
私だけは見に行ったんだけど終わってからアユタいじけちゃって、ハッピ着て背中を丸くして顔を隠して座る後ろ姿を見たら、コガネムシとかカナブンみたいって思ったんだ。
一応、問題は害虫だけど、ごめん、そこだけは違うからね。」
アユタ:「あれ、オレかぁ。なんかショック。」
優媛:「だから、ごめんて。」
俺:「他にはどんな?もっと聞きたいです。」
優媛:「うーん、“パン”の問題って出た?食べられないパン。」
佑:「出ましたよ、“アンパンマン”。」
優媛:「それの“お母さんが初めて作った手作りパン”、あれウチのお母さんの実話なの。」
俺:「そうなんだ!」
優媛:「ウチのお母さん、仕事はバリバリみたいなんだけど、料理は全くダメなのね。
ある日突然、全自動のパン焼き器買ってきて“これなら私にも簡単だわ”って言って材料入れて焼いたの。
焼いてる時にいい匂いがして、ワクワクしてて、焼き上がってわーいって覗いてみたら全く膨らんでないの。
何で?って材料確認したら、イースト菌入れ忘れてた。
硬くて、フワフワ感が全く無くて、強力粉だからズッシリしてて、トースターで焼いてもジャム塗っても何しても不味くて食べられなかったの。
アユタ覚えてる?」
アユタ:「あー、確かにあれは食べられなかった。」
優媛:「それ以来、お母さんがパン焼き器を使うことは無かったね。ていうか、パンを焼くことは無かったね。」
アユタ:「姉貴が焼いたパンは美味かったよ。」
膨らまなかったパンでも食べれそうな気もするけど、2人が食べられなかったって言うから相当不味かったんだろう。
でも、世の中のお母さんにケンカ売ってる問題じゃなかったんだと思った。良かった。
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