第33話萩原進と斎藤裕子

【萩原進と斎藤裕子】

―SIDE萩原進

僕は幼馴染の裕子が、ずーっと好きだった。

中学受験で裕子は都内でもトップクラスの東校を受けると聞いて、僕はなんとしても同じ高校に行きたくて、でも成績が今一歩で、先生にお願いして、頑張って成績が上がればという条件付きでなんとか認めてもらった、それからは一生懸命勉強して、11月の中間試験でギリギリだけど、条件をクリアして先生に認めてもらった。

それから僕は、絶対受かってやると思って正月も休まず勉強したおかげで、裕子と同じ高校に通うことができた。

家が近所という事もあって、朝一緒に電車に乗って高校に通うのが楽しくて、でも裕子は高校に行っても中学の時以上にモテるようになって、いろんな男子から告白を受け、いつの間にか3大天使と呼ばれるようになっていた。

それでも裕子は俺を幼馴染として、今までと変わらず朝は一緒に登校し、帰りも時間が合えば一緒に帰る。

休みの日は、今までと同じく、よくお互いの家に行って遊ぶこともよくあった。

それが、6月ころになってから距離をおかれるようになって、夏休み前には

「しんちゃん、私ね、気になる人がいるんだ」

「そ……そうなんだ」

「うん、夏休みにね、同じ塾に行こうと思う」

「そっか、よかったな」

「うん」にっこり微笑む裕子には、それ以上何も言えなくて、やっぱり僕はただの幼馴染でそれ以上の感情はなかったんだ、告白する前に振られたんだな。

6月ころだったか、祐子が一緒に帰ろうって言って、職員室に用事があるからちょっと待っててと言われ、教室で待っていると友達から

「萩原って齋藤さんと同じ中学だよな」

「ああ」

「お前ら2人よく一緒に登校してるだろ、帰りも一緒に帰ってるみたいだし、ひょっとして付き合ってるか?」

「いや、ただの幼馴染なだけだよ」

「そうか、でもいいよな、あんな美人と幼馴染なんて」

「まあな」

「なんで付き合わないんだ?」

「小学校から一緒だったから、幼馴染なだけで、そういう感覚なんだよ」

「そうか、なんかもったいないな」

「そうか?」

「ああ、俺だったら絶対告白するけどなー」

「いや、別に好きでもないし、ただの幼馴染なだけだから」

・・・あの時、そう言ってごまかしたけど……

よかったよ、好きだからとか告白するとか言ってたら、思いっきり振られて、あいつらから何言われるかわかったもんじゃなかった、よかった……

ハハハ

それからも、家が近い事もあって一緒に登校もするし、 っていうか俺が裕子の出る時間を見計らって偶然を装って一緒に登校しているんだけど。

帰りも時間を合わせて、祐子のクラスを覗いて、祐子と目があうといっしょに帰れるけれど、

祐子の話は、その男子の事が多くて、それでもたまの日曜とか、一緒に買い物に付き合わされたりして……これがデートだったらって……今更だけど……

ただの幼馴染だから、男として見られてないんだろうから、気軽に付き合わされるんだけど……

どうせなら、ちゃんと告白して振られた方がすっきりしたのかなって時々思う、でも、告白しなかったおかげで今までどおり幼馴染として、一緒に登校したり、時々買い物に出かけたりできるだから……

いつか、その気になる男子と付き合うようになったら、一緒に買い物になんか行けないだろうし、一緒に登校も……無理だろうな……

そう思ってはいるんだけど、学校ではどうしても裕子を目で追ってしまうんだ……しょうがないよ、今でも好きなんだから。

それが記念祭の時、祐子を見かけて、その後ろに、確か高木君?がついて行くのが見えたので、こっそり後をついて行くと3階のほとんど人が通らないところで、髪をかきあげたり、眼鏡を変えたり、カーデガンを着せたりしているのが見えた。

そうしたら高木君が別人のようなイケメンに変身して、驚いていたら、2人仲良く校内を歩いて行ったんだ。

そうか、気になる人って高木君なんだ って思って…….

あれだけのイケメンだから裕子にはふさわしいんだろうなって思ってあきらめよう、うまくいったら祝福しようと思っていたけれど……

次の日、高木君が裕子じゃないすごい美人と2人で校内をまわっているのを見かけ、思わず後をついて行くと、そこに裕子が現れ、一緒にお昼を食べていた。

それが気になって、帰りに裕子に聞いてみると

「なあ、裕子の気になる男子って、他にも女子の友達とかがいたりするんじゃないのか?」

「……うん、どうして知ってるの?」

まさかストーカーみたいなことをしていたなんて言えないから

「いや、『気になる人がいる』って言ってから、その先に進んでないようだから気になって」

「うん、そうなんだ、その男子に、幼馴染の子がいてね、違う高校なんだけど、家が近所で、学校以外はいつも一緒みたいなの」

「そっか、なんか俺達みたいだな」

「うん、でも、その幼馴染さんとお友達になったんだけど、その幼馴染の女性は彼が大好きで、いっぱいアプローチしているんだ、だから……」

「そうなんだ、うらやましいな」

「……うん……」

「裕子もがんばって告白とかしないのか?」

「うん、この前しようとしたら、その幼馴染さんと従姉の女性に邪魔されて……」

「従姉?」

「うん、この前の記念祭にも来てたんだけどね、その従姉も彼が大好きみたいで、すぐに2人で取り合いになるの」

そうか、記念祭にいたあの大人の女性の方か……

「そうか大変だな」

「うん、私も頑張ってるんだけど……まだ……引きずっているのかな~」

「ん? 何が?」

「ううん、なんでもない」

自分の好きな人の恋を応援するのはつらいけど・・・

がんばれ 

声に出して言えなかったけど、影から応援するよ


-SIDE斎藤裕子

今日、久しぶりにしんちゃんといっぱいお話した。

そう、高木君の事いろいろ聞かれたから、栞ちゃんや忍さんの事も……心配してくれるの?

そうよね、ただの幼馴染なんだから……

私も栞ちゃんや忍さんみたいに告白すれば……ちゃんと振られた方が吹っ切れてすっきりできたのかなー。 

でも、今更そんなこと言ってももう遅い、って奴よね。

せっかく、新しい恋人を見つけて忘れようと思って、栞ちゃんや忍さんにつられて、っていうか、あの2人みたいに、自分の気持ちに正直に、ちゃんと前向きに、積極的に行動するって気持ち良いって思うようになってきたのに……

やっぱりしんちゃんと話すと……

ああ~ダメだな~

 

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