第32話萩原君
【萩原君】
佐々木さんには図書室以外ではなるべく合わないように気を付けているけれど、それを除けば、いつもと同じ学校生活のはずが、お昼に急いで部室に行こうしたところ、隣のクラスの萩原進(ススム)君に声をかけられた
いままで1度も話したことはないし、挨拶すらしたことがないのに、突然……
「高木君だよね」
「ハイ?」
「ちょっと話がしたいんだけど、いいかな」
それを見た齋藤さんが
「あれ? しんちゃん、どうしたの?」
齋藤さんの知り合い?
「ああ、ちょっと高木君に話があって」
「……そう……」
「……ああ……」
「じゃあ、裏庭の方についてきてくれないか?」
「はあ~」
見た感じは陽キャではない、陰キャにも見えないけど、何の用事なんだろう。
今まで1度も絡んだことがないから、まあ大丈夫だろうし、どう見ても武道の心得のある感じはしないので、そっちの心配はないから、言われるままついて行くと
「高木君は裕子の事、どう思ってるんだい?」
「? あの、初めてですよね」
「あっ、ごめん、僕は萩原進(ススム)、齋藤裕子の幼馴染なんだ」
「そうなんだ、齋藤さんの幼馴染なんだ」
「うん、最近、裕子が高木君とよく一緒にいる所を見るから、聞いてみようと思って呼び出したんだ」
「そうなんだ、うん、幼馴染か~、齋藤さんは俺の幼馴染の友達で、俺とも仲良くしてくれてるんだ、でもクラスの陽キャに見つからないように気を使ってくれて、助かってる。
俺、クラスではボッチだから」
「友達?幼馴染……ボッチ……?」
「ああ、俺も萩原君と同じく幼馴染がいてね、学校が違うんだけど、夏期講習が一緒で、そこで齋藤さんも同じ講義に来てて、そこで知り合って友達になったんだよ、俺、ボッチだから陽キャ連中にからまれないようにって齋藤さんが気を使ってくれて助かってる」
「そうか……」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「それを聞きたかったの?」
「イヤそういう訳じゃないんだ、ほら、一応幼馴染として、どんな友達か心配だからね、いい奴そうでよかったよ、これからも裕子をよろしく」
「……その気持ちわかるよ」
「ん?」
「俺も幼馴染が……とても大切な人だから、でも、学校が違うし、それでも俺みたいなボッチのそばにいてくれて、本当ならとっくにカッコイイ彼氏がいてもおかしくないのに……
俺がじゃましてるんじゃないかって思うんだ、本当に大切なら彼女の幸せを考えて離れなきゃいけないけど、やっぱり気になってずーっと傍にいたいって思ってしまうんだ」
「そっか、同じなんだな、その気持ち、でも高木君は十分かっこいいよ、だから大丈夫だよ」
「いやそんな事はない……でも萩原君も齋藤さんが大切なんだね」
「ああ、だから裕子には幸せになってもらいたいんだ」
「うん、わかる」
「「ハハハ」」
自分と同じ境遇で、幼馴染のことを心配しているのが分かると、初めてなのに思わずペラペラと自分の事を話してしまったけど、ちょっと気分がスッキリした。
それから、廊下で会ったりすると挨拶するくらいに。
クラスが違うし、俺はボッチだからそんなに一緒に話たりするほどじゃないけど、何かあったら二言三言くらいの会話もする。
それでも俺にとって男友達ができた気分、ちょっとうれしい。
この日はさっそくこの話を栞にすると、
「う~ん」うなりながら深く考え込んで、俺が話しかけても聞こえないくらい、ずーっとうなっていた。
「栞、どうしたの? 俺、何かやばい奴と知り合いになったのかな?」
「ううん、違うの、その萩原君って斎藤さんの事を心配して、かっくんに話しかけてきたんだよね」
「うん」
俺は萩原君に、栞がとても大切な人で、傍にいたい、って事は栞には言わなかった。
そこをうまくごまかして言ったつもりが、萩原君は齋藤さんの事をすごく大切な人と思っていると感じ取ったらしく
「かっくん、あのね、その萩原君なんだけど、きっと齋藤さんの事が好きなんだと思うの。
ひょっとしたら斎藤さんも萩原君の事が好きかも。
何かの行き違いで2人の関係がおかしくなってるかもしれないから、私達であの2人を何とかしてあげようと思うんだけど、かっくんも協力してくれる? 」
栞の言ってることが痛いほどわかる、本当にお互いが好き同志だったら、なんとかしてあげたい。
俺も栞が・・・
せめて、同じ幼馴染が好き同志・仲間、好きあってるなら、何かの行き違いでそういう事になってるんだったら、なんとかしてあげたい、それを解決してあげたい。
「うん、俺もそんな気がした。だから何ができるかわからないけど、やってみるよ」
「じゃあ、手始めに……」
栞がいろいろアドバイスしてくれたので、明日からやってみることにする。
今日、ベッドに横になって天井を見ながら、さっき栞に言われた萩原君たちの事を考えてしまう。
俺が栞の事を大切に思っているのと同じくらい萩原君が齋藤さんの事を思っていると思うと栞の言っていることが痛いほどよくわかる。
自分と重ねてしまう、
すごく好きなんだと思う、大切な人なんだと思う。
だって、俺もそうなんだから、好きなんだけど、だから自分よりもっとふさわしい相手を見つけて幸せになってほしいんだと思う。
それをわざわざ俺に言ってきたんだ、今まで会ったこともないし、ましてや話したこともない俺に向かって、すごい勇気がいたんだと思う、それくらい大切なんだ。
俺もいつか栞に向かって……萩原君はすごいよ、尊敬するよ。
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