第7話それぞれ3人、そして夏休み
【それぞれ3人、そして夏休み】
―SIDE齋藤裕子
すごいびっくりした。
ずーっと幽霊ぼっちだと思っていた高木君があんなにかっこいいなんて。
7月最後の体育は真夏なので、熱中症を考慮して、女子は早めに終わって皆でクールダウン。
それから教室に戻ろうとしたところ、男子が1人だけ、水場で顔を洗って、タオルを取ろうとしているんだけど、なかなか取れないみたいだから思わず取ってあげた。
タオルで顔を拭いて私にお礼を言ってきたんだけど……
えっ?こんなカッコイイ男子ってうちのクラスにいたっけ?
よーく見ると、あの眼鏡、無駄に長い前髪、ぼさぼさの頭……高木君?
それから、ずーっと高木君のことが気になって、授業の合間とか思わずチラっと見てしまうんだけど、時々目があって、そうしたらペコっと挨拶されちゃって、思わずプイってするんだけど、やっぱり気になって、決心して終業式の時に呼び出して、調理室で確かめたんだけどやっぱりカッコイイ♡高木君だ♡
色々聞いちゃった。
空手やってるんだ、すっごーい。
夏休みは塾の夏期講習に行くって聞いて、思わず申し込んじゃった、ぎりぎりの申込で塾からは難色を示されたけど、そこは都立東校、なんとかお願いして入れてもらっちゃった、これで夏休みも高木君に会える♡
仲良くなって夏休み明けに……フフフ♡
でも気になるのが幼馴染、女子?小学校3年の時から一緒?それって高木君のカッコイイところ知ってて一緒にいるんだよねきっと。
あの髪型も眼鏡も知ってて、そのまま何も言わないんだと思う。
だって髪型変えて眼鏡はずせば絶対モテルもの、あれ、わざとそのままにしてるんだと思う。
学年まで聞かなかったけど、一緒に勉強、って言ってたから同じ夏期講習に一緒にいる可能性は高い。
ふ~ん私だって、高校もクラスも一緒なんだから夏休みが明けたら私の方が有利よ、きっと
幼馴染か・・・私も終わった恋にいつまでもしがみつくのは辞めて新しい恋を始めなくっちゃ。
楽しみ、はやく夏期講習始まらないかな♡
―SIDE柴田栞
ヤバイヤバイヤバイどうしよう。
かっくんが・・・ばれちゃった。
かっくんの素顔が……あ~あ~どうしよう。
いつかはばれるかもしれないとは思っていたけど、それまでにかっくんとの仲をがっちり固めて、
『彼女がいる』ってかっくんに言わせれば、って思っていたのに。
ばれるのがちょっと早すぎて、困った……
おまけに、よりによって1年の3大天使?すごい美人よね。
そんな人に根掘り葉掘り……
私の存在をかっくんがばらして、向こうに知れたことがちょっと救われたけど、私は学校が違うから、このままだとちょっと不利かもしれない。
なんとかこの夏休み中にかっくんとの仲をもっと深くふか~く、頑張る!
そうだ、お母さんに言って、夏休み中は毎日かっくんのところに行こっと。
もう強引に泊まっちゃおっかな♡
小学生の時みたい一緒にお風呂に入っちゃう♡
―SIDE高木勝典
栞、いつもいつもありがとう、ほんといつも栞に助けられている。
こんなぼっちの俺なんかに、本当はもっとカッコイイ彼氏がいてもおかしくないのに。
両親があんな事になってじいちゃんと2人暮らしなもんだから、昔の約束とか言って律儀に守ってくれてる……そんな栞に甘えてばかりだけど、ごめんな、もう少しだけ、俺の覚悟と決心がついたら、ちゃんと言うから、解放するから、それまでは……
////////////////////
ようやく夏休み、初日に俺はあまりにも暑いので髪を切りに行こうとしたら、栞が
「じゃあ私が切ってあげる」
「いいよ、そこまで栞に迷惑かけられないから」
「ううん、いいの、1度、男の人の髪の毛切ってみたかったんだ」
「そうか?」
「うん、だから、お願い、切らせて」
「栞がそう言うんだったら、お願いします」
そういうと、栞はいつの間にか、髪の毛用のはさみを2種類?持ってきて、縁側で髪の毛を切ってもらった。
俺の家は、昔からの農家の家でやたら広くて作りが古い。
縁側があって、やたら広い庭、向こうには古―い物置小屋。
(昔は農機具用の倉庫だったらしい)
そのさらに向こうに栞が住んでいるマンション
その縁側に腰を掛け、後ろから栞が髪を切るんだけど、暑いんだけど、なんか、栞と2人、ほのぼのとした雰囲気が居心地が良くってうとうと寝てしまいそうになって、栞に「じーっとしてて」って怒られる。
栞にそうやって怒られるのも心地よい。
別にそういう変態思考があるんじゃなくて、栞の怒り方にやさしさっていうかなんて言ってよいかわからないんだけどすっごく身近な人っていう感じがしてとにかく居心地が良いんだ。
後ろと横は結構切ったみたいで、ボリュームも減ったけど、前髪の長さはあまり変わらない
「栞、前髪ももっと短い方が良いんじゃない?」
「いいの、すいて量を減らしたから涼しいでしょ」
「うん」
「だから、この長さで良いの」
「そっか」
「うん、これからはかっくんの髪の毛は私が切ってあげるね」
「いいの?」
「うん、かっくんの髪の毛切るのって、なんか気持ち良いのよ、だから私がそうしたいの」
「ありがとう、いつもいつも栞に頼って」
「何言ってるの、私、かっくんの許嫁なんだよ」
「あのねー」
「なーに♡」
「まあ、いいや」
結局俺は何も言えず、栞の好意に甘える。
髪の毛を切りながら栞が
「夏の宿泊旅行って皆で行くの?」
「そうなんだよ、1年の時だけらしくて、学年全員参加だって」
「ふ~ん」
「俺ぼっちだから、班決めの時、結局最後まで残っちゃって1人足りないところに入れてもらったんだ」
「そうだったんだ、大変だったね」
「うん」
「で、大丈夫だったの?」
「うん、運動会の時のアニオタの4人組がいてね、そこもあと1人がなかなか決まらなくって、結局余った俺が、そいつらと一緒になったんだ」
「そっか、なんとかなってよかったね」
「うん」
//////////////
「さあ髪の毛も切ったし、これから眼科に行ってから、眼鏡買いに行くわよ」
「眼鏡? 今ので合ってるから、いいよ」
「でも、今の眼鏡古くない?もう1度ちゃんと検査をして度数のチェックもしてもらった方が良いから、ねっ」
「そっか、じゃあ行ってくるよ」
「私も一緒に行ってあげる」
「いいの? じゃあよろしくお願いします」
「はい♡」
そう言って2人で眼科に行って、診断書をもらって眼鏡屋さんに行くことに。
でもなんでコンタクトレンズ用の診断書なんだ?
栞が任せてって言うから、言われたとおりにしていたら、クリニックでも色々な種類のコンタクト試されて、言われるまま買ってしまったけど、
「なにかあったときの事を考えてコンタクトもあった方が良いでしょ」
栞がそう言うんだったら、まっ、いっか。
結局それから眼鏡屋さんにも行って栞が選んで眼鏡を買ってくれた、追加のお誕生日プレゼントって、この前洋服買ってもらったのに、たくさんプレゼントもらってばかりで申しわけなくて、そう思っていたら『この眼鏡は私が持ってるから私が出す』って言い張るもんだから、折れたけど、でも眼科に付き合ってもらったお礼に栞が行きたいって言ってたスィーツカフェでスウィーツを2人食べて家に帰った。
途中スーパーで食料を買うって言うから、一緒に野菜とか肉とか色々買って、そうしたら、晩御飯を作ってあげるって言ってくれ晩御飯を作ってくれた。
なんか、栞の作る料理っておいしんだよ、俺の舌に合うっていうか、なんでこんなにおいしんだ、それだけ料理がうまいんだろうな。
栞とじいちゃんと3人で晩御飯を食べて、しばらく俺の部屋でだらだらしてから、栞をマンションに送ってから明日の準備をして終わったところで栞からRINEが
『明日からだね、くれぐれも無理はしないでね、おやすみ』
『うん、ありがとう、じゃあおやすみ』
次の日、朝じいちゃんに起こされたけど、今日から学校の宿泊行事で志賀高原まで行くと言って朝稽古は勘弁してもらった
今日から3泊4日の夏の宿泊旅行、志賀高原で昼間はほとんど歩き回って汗だく、同じ班の男子4人はアニオタであんまり体力がないみたいで頻繁に休む、話を聞くと、休みは1日中池袋かアキバを歩き回っているらしく街中を歩くのは得意らしいけど、のぼり下りはきついみたいで、一緒の班だから付き合って休みんだけど、そういう意味では思ったより体力はあるんだろうけど、俺はかえって疲れるんだよ。
結局ホテルでは風呂に入ってさっぱりして、ごろごろしながら栞にRINEを送るとすぐに返信がくるから、なんだかんだ言いながら30分くらいやりとりしているうちに眠くなったんで『おやすみ』と打って、そのまま朝まで寝てしまった。
陽キャ連中は夜遅くまで女子の部屋に行ったりして、騒いでいたみたいだったけど、そのおかげで俺の部屋は静か……しっかり眠れた。
なんとか3泊4日を乗り越え、時々陽キャグループの斎藤さんが、俺に話しかけてくるのでちょっと困ったけど、同じ陽キャグループの九条君や後藤君がそのたびに連れ戻してくれるので助かった。
今のところ陽キャにいじられていないから良いけど、でもいちいち睨むのは勘弁してほしい。
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―そのころ家では、
栞がじいちゃんに晩御飯を持っていき一緒に食べていた。
「おじいちゃん、私ね、お母さんが夜勤の時、マンションに1人なの、最近怖くて」
「そうか、栞ちゃんも年頃だから、1人は危ないかもしれないな~」
「うん、だからその時はこっちに泊まってもいい?」
「そうだな、こっちにはわしも勝典もいるし、部屋も余ってるから、お母さんと相談して、よかったらそうしなさい」
「ありがとう、その時は晩御飯と朝ごはん作ってあげる」
「おう、そうか、ありがとう」
「ううん、いいの、それくらい」
「本当に栞ちゃんはいい子だな~」
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俺が夏の宿泊旅行から帰ってくると、栞が隣の部屋から出てきた。
「かっくん、おかえり」
「栞?どうしたの?」
「何が?」
「いや、隣の部屋から出てきて……」
「うん、おじいちゃんとお母さんが話し合って、お母さんが夜勤の時はこの部屋に泊まる事になったの」
「そっかー」
「うん」
「まあ、マンションに1人ってのも何かあったら大変だからね、でも俺の部屋の隣って……いいの?」
「うん、その方がぎりぎりまでかっくんの部屋で遊べるでしょ」
「まあ、そうだけど」
「何?なにか困ったことでもあるの?」
「いや、別に何もないけど」
困った、隣の部屋に栞がいるって思うと……気になって……眠れるかな……
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