第28話おじさんの過去
【おじさんの過去】
陽は帰りの電車でもニコニコ顔でずーっと刀を抱きしめ
今度さゆりさんに見せるんだとか、3人でダンジョンに行きたいとか、それはもうずーっと上機嫌。
(あれ?3人って、さゆりさんとゆうと・・・俺が入ってないよ?まあ陽の事だから )
「陽、俺も付き合うぞ」
「えっ?兄さんは高校のパーティーで忙しいんじゃないの?」
「いや、大丈夫だ、高校パーティーは授業の範囲だし、陽が行くんだから付き合うよ、約束したしな」
「はい、兄さん、ありがとう」
家に帰っても大変だったけど、刀はとても危険だから、めったやたらに鞘から抜いたりしない、必要な時以外は部屋から出さない、なるべく目立たないところにしまっておく等注意事項を言うと、さっそくどこにしまっておくか考えると言って自分の部屋に。
俺とゆうは俺の部屋で
「明日、もう1度あの店に行こうと思うんだ」
「うん」
「知らない素材もあったし、うまくいったら 今よりは良い装備が整う気がするんだよね」
「そうだよね、素材集めするにも、それなりの装備があった方が安心だよね」
「ああ、須藤さんからもらった装備品じゃあ足りないし」
「うん、私もついて行っていい?」
「来てくれるの?」
「うん」
「ありがとう」
ゲーム世界とこの世界はやはり違うところがあり、今後の装備の素材も色々調べる必要があることがわかった。
ゲーム世界では強力な武具の素材(鉱物)はアダマンサイトとミスリルがありレア素材にオリハルコンがあったが、この世界ではヒヒイロカネ、さらにアバンタイトという素材があった。
さっそく次の日 ゆうと2人で上野のおじさんのお店に、
「おじさん」
「おお、本当に来たのか」
「はい、今日は武器のオーダーについて教えてもらいたくて来ました」
「オーダー?」
「はい」
「俺の処はそんなのは扱ってないぞ」
「でも、昨日買った刀は、普通は売っていない物ですよね」
「ああ」
「そういう物を作る鍛冶職人さんを知ってるってことじゃないですか」
「まあな」
「その鍛冶職人さんに聞いてもらえませんか?」
「そいつは偏屈者だから、気に入らなきゃ、いくら頼んでも作らないぞ」
「はい、聞くだけ聞いてもらいたいんです」
俺は俺専用の胡蝶双刀について紙に書きながら説明をすると
「サーベルにしては短いしまっすぐ……ベースは八斬刀かな」
「はい」
「ほう、随分変わった形にするんだな」
「はい」
「ぼうず、お前のジョブはなんだ?」
「アサシンです」
「そうか」
「はい、モンスターの攻撃をそのまま受け止めることができないので、受け流すんです」
「そうか、これは指を守るためか?」
「はい、逆手で使うんで」
「なるほどな、細いのは?」
「突き刺して電撃を流すためです」
「なるほどな、それでこの長さも必要という事か」
「はい、受け流すので、逆手で持つので腕と肘を守るんです、それと電撃を流すのでなるべく深くまで、と思いまして。
おじさん、本当に詳しいですね、ただの冒険者だったとは思えないんです」
「ぼうずにくらべりゃ大したことないよ」
「でも、豊洲も知ってますよね」
「まあな」
俺達はおじさんの顔を覗き込むように見ると
おじさんがゆっくりと話し出した。
「こんな俺でも、レべル42だったんだ」
「すごいですね」
「お前に言われたくねえよ」
「でも42なら素材、狩り放題だったんじゃないですか」
「ああ、ずーっと5人一緒だった、42になってからは豊洲の10階層までを狩場として稼ぎ放題だった」
「そうですよね」
「ああ、家も建てたし、車も買えた、全部一括で買えるくらいな、そこらへんのサラリーマンよりずーっと稼いでたんだ」
「はい」
「ある日、21階層で、すごいお宝が出た、って話を聞いて、皆で行こう、って事になってな、今思うと馬鹿な話だ。
10階層までで十分稼いでいたから、老後の資金が貯まるまで、そのままでよかったんだ。
その頃42と言えば一流と言われてたから、なんでもできる気になって、お宝に目がくらんで下の階層に行ったんだよ、
今までよりは手ごわかったけど、それでも5人で戦えば、皆軽い傷程度でボスを倒せた。
勢いついて、どんどん下にもぐって行ったんだ。
本当はギリギリだったんだよ、それでも5人でボスを倒せたからそのまま20階層まで行って、そこで出会ったんだよ、侍の恰好したスケルトンに・・・・・・
すごい妖艶な雰囲気が漂って、背中がゾクときて、そこで引き返せばよかったんだ。
でも5人なら何とかなるって、思い上がりも良いとこだよな。
あっという間に1人、また1人、それからはもう地獄だよ
冷静さなんかなくなってな、仲間が目の前で殺されたんだ、逃げる選択はなかった」
ゴクッ、つばを飲み込む。
沈黙のあと、おじさんが話を続ける
「あっという間だった、気づけば4人とも血まみれで倒れてた。手足がない奴、首がないやつ、腹から内臓が飛び出してるやつ、立っているのは俺1人だけ。
逃げ出したんだ、もうかたき討ちとかそんなもんじゃない、殺される、逃げなきゃ そう思って出口の方に向かって走ったよ、出口だ、これで助かる。そう思ったら、そこでこけたんだ。
起き上がろうとしても起き上がれなくて、はいつくばって入口からなんとか出ることができた。
そこで初めて気づいたんだ、左足がないって事に、
そりゃあ起き上がれないはずだよ、でもその時は必至で逃げてるときは、もうそれどころじゃなかった。
脚がなくなっていたことなんて気づかなかったんだ、それからはショックと激痛でのたうち回った。
死にそうなくらい痛かったけど、なんとかポーションを飲んで、脚の根本を縛って、傷口にもポーションを振りかけて、必死で1つ上の階層の移転魔法陣まで戻って帰ってきたんだ。
この怪我とショックで半年くらいは何もできなかった。
ようやく動けるようになって、それから4人の家族の家に行ったんだ、自分1人だけ逃げ帰ってきて本当に申し訳なくて頭を下げたんだけど誰も俺を悪く言わなかったんだ、逆に、生きて帰れただけでも良かった、ってな」
俺とゆうは顔を見合わせた、あの時のスケルトンサムライだ。
あの時の事を言おうかどうしようか2人とも言えず、ただおじさんの話を聞くだけ
「ぼうずとじょうちゃんなら、あのスケルトンも簡単に倒せるんだろうな」
俺は何も言えず、黙っているとゆうが
「かたき討ちしたいですか?」
「いや、かたきをとってもあいつらは帰ってこないからな、それにこの足じゃあ無理だろ」
「この前、そのスケルトンに会いました」
「そうか」
「倒しました」
「そうか、倒したか」
「はい」
「俺がこの店を始めたころ、女王や他のパーティーが次々に20階層を攻略したってニュースを聞いて、ああそうか、倒したんだ、ってな、その時はもうかたき討ちとかそんな気持ちもなくなって ただあいつらの事を思い出していたんだよ」
「そうなんですね」
「ああ」
「私達のリーダーが、その刀を使ってます」
「刀?」
「はい」
「そうか、それは良かったな、あの5大パーティーが倒した時は何も出なかったとか、そんな事言ってからな」
「そうなんですか」
「ああ……今度そのリーダーって人に会わせてもらえないか、まあ無理ならいいけど・・・」
「はい、今度一緒に来ます」
「そうか、まあ、もしよかったらその刀も・・・」
「はい、聞いてみます 」
「そうか、悪いな」
「いいえ」
確か、さゆりさんは2日後に合宿から帰ってくる、レインで、良い店を見つけたから帰ったら相談したいと連絡し家に帰った。
2日後、さゆりさんに会って、この話をするとさゆりさんも是非会いたいと言ってくれ次の日、一緒に上野アメウオコのおじさんのお店に
「おじさん」
「おお」
さゆりさんがおじさんに向かって
「はじめまして」と頭を下げる。
「ん?」
布袋にしまわれた2竿をおじさんの前に出すと
「あんたがリーダーか?」
「はい」
「そうか、おじょうちゃんがリーダーか」
「はい」
「これが?」
「そうです」
「見ていいか?」
「どうぞ」
おじさんはゆっくり丁寧に袋から刀を取り出し、鞘から抜くと
「ほー、これはすごいな、そうかこれにやられたんだなー」
泣いてはいなかった、でも、しみじみとそんな言葉をこぼしながら、じーっと刀を見つめ
「じょうちゃん、これはいい刀だな」
「はい」
ゆっくり鞘に戻し、背中の棚からこの前取って見せてくれた刀を出し、鞘から抜いて
「いいか、これはここに茶色の帯が入っているだろ」
俺達が頷くと
「じょうちゃんのは、赤茶の帯、こいつよりヒヒイロカネの含有量が多いんだよ、この前ボウズに売ったのは黄色味かかってたろ、ヒヒイロカネが多ければ多いほど茶色が濃くなって赤に近くなるんだ」
「そうなんですね」
「ああ、こいつで1000万、じょうちゃんのはおそらく3000万円以上はするだろうな」
「「そんなに?!」」
「ああ」
「俺がこんな事言うのはおかしいかもしれないが、大切にな」
悲しそうな、でも懐かしそうな、そんな顔をしていた。
「はい」
長竿のほうをさゆりさんに返し、もう1竿のほうを見る
「これは脇差か?」
「はい」
そう言ってこちらもゆっくり布袋から取り出し鞘から抜いてじっくり見る
「これは、赤いな、これほど赤いとは・・・・・・ 」
「これは何ですか?」さゆりさんじーっと見ている
「ああ」そう言いながらも目は離さず、じーっと刀を見続ける
「これだけ純度の高いヒヒイロカネを使った刀を見るのは初めてだ」
「そんなに珍しいんですか?」とゆう
「ああ、関係者じゃないからあまりよくはわからないが国防に1人いると聞いたことがあるくらいだ」
「1人ですか」
「ああ、これほど純度を高めたヒヒイロカネをこれだけ使うなんて事は簡単にできないんだ、かえって弱くなったり折れやすくなったりしてな、でもこれは違うな、見事な作りだ」
「はあ」
「おじょうちゃん、これは一生物だ、よかったな」
「はい」
「お前ら3人とも調査員か?」
「はい」
「なるほどな」
「おまえら、どこまで潜ってんだ?」
「豊洲の30階層くらいです」
「そうか、それで、装備品が欲しいのか」
「はい」
「そうか、おじょうちゃんはこれだけの刀があるんだから足りないのは防具か?」
「はい」
さゆりさんの刀は俺達が思っていたよりかなり良い品だった。
「そっちのじょうちゃんは?」
「はい」
そう言って、ゆうが紙に書きだすと、おじさんはそれを見て
「これは?」
「ロッドです」
「ウィザードか?」
「はい」
「ミスリルか、変わった形だな、グリップがついているのか」
「はい」
「うーむ」
「あの俺の方は」
「おお、あの偏屈がな、面白そうだから作ってやってもいいとさ、どんな素材で作りたいんだ?」
「できればアダマンタイトにミスリルの合金とかそんな感じなんですが」
「まず、アダマンタイトは確かに硬いが重いだろ、あれは斧とか大槌とか怪力が持つ大剣とかには向いているが、アサシンならヒヒイロカネの方だろう、だが、どっちも難しいな、さっき言った通りどっちも素材がない」
「作ることはできますか?」
「ああ、あの偏屈だったら作れるだろうな、ただ、ミスリルは時々手に入るけど、ヒヒイロカネはな、まあいずれもこれだけの量は俺達ではなかなか手に入らないからな」
「それじゃあ、素材を持ってきたら作ってもらえますか?」
「まあな」
「それじゃあ、素材取ってきます」
「それと、この形の胡蝶双刀と鉈をアバンタイトで作れませんか?」
「聞いてみるか?」
「ぜひお願いします」
連絡先を教えて、わかったら連絡をもらう事に。
それとミスリルやヒヒイロカネがどの階層でとれたのかの情報を教えてもらい、ダンジョンに潜って新な素材集めをすることにした。
ついでに聞いてみた
「あの、ゴーレム鋼鉄はどれくらい耐えれますか?」
「そうだな、ダンジョン鋼よりは頑丈だから豊島の最下層くらいまでなら持つかもしれないが、豊洲はどこまで持つかな・・・」
「あの、ゴーレム鋼鉄の塊があるんですけど、これで盾を作れませんか?」
「盾か、結構重くなるぞ」
「はあ・・・」
「まあ、特殊強化カーボネイトで本体を作ってゴーレム鋼鉄とアバンタイトの合金を使って補強で入れるような感じかな、そうすればそれほど重くないし、それなりに強いかな」
「それっていくらくらいになりますか」
「特注だからな、汎用品に比べてかなり高いぞ、大きさにもよるが大盾でだいたい200万、小だと150万くらいかな」
それを聞いた俺はゆうを見るとゆうも頷いたので、
「今度俺の高校のパーティーの友達を連れてくるかもしれませんが、話を聞いてもらえますか」
「いいけど、そいつらも調査員か?」
「あっ、俺達が調査員というのは秘密にしてほしいんです、それと盾の値段も」
「まあ 冒険者だから色々あるんだろうな、わかった、秘密にしてやるよ」
「ありがとうございます、お金は俺が払います」
「ん?」
「同じパーティーなんで、死んでほしくないんです」
「そういう事か、そうだな、わかった」
「ありがとうございます」
俺とゆうは前払いで調査員カードを出して支払いを済ませた。
クラス対抗戦までに間に合うといいんだけど、俺も素材に不安はあるけれど希望の形の胡蝶双刀が手に入るかもしれないのでので、わくわくしながら家に帰った。
数日後おじさんから作れるとの事だったのでさっそく特注胡蝶双刀2本と鉈をお願いした。
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