人狼鬼ごっこ
家の中は、外観とはまるで似合わないほどに広かった。全員が家の中に入ると、扉が閉まり、ドアノブが無くなった。しばらくして、放送が流れた。
「ここまで来るのに、かなり疲れたと思います。そのため、自由に休んでください・・・と言いたいですが、早速皆さんにはゲームをしていただきます。ルールは簡単。皆さんが出会った時から一人、本人では無かった人がいました。その人を探し当ててください。制限時間は五分です。では、また五分後に」
(この声はもしかして・・・。でも、そんなわけ無いよね・・・)
零が顔をゆがめ、考え込んでいた。その後すぐに質問をする時間も無く、放送が切れた。
「えっと・・誰が偽者か分かる人・・?」
「お兄ちゃんは違うよ。ずっと私と一緒にいたもん」
(麗も違うよ)
「紅も違う。昨日の約束を覚えてたから・・」
「竜も違うよ。たぶん・・」
「とっきーも違う。昨日、一緒に寝たから」
「涼も違う」
「俺は・・・」
「五分経ちました。偽者は誰か、甲斐涼祐くん」
「えっと・・相馬蒼さん、です」
涼祐が戸惑ったように言うと
「結果は・・・残念。違います。正解は・・・甲斐涼祐くん。君です」
「えっと・・僕、何も覚えていないんですけど・・・」
「当然です。記憶を消したので。甲斐くんには、あとで記憶を戻すとして、第一ゲームは失敗。ということで、一人脱落してもらいます」
「「「「「「「はあっ?」」」」」」」
見事に全員がハモった。
「今回脱落するのは、周りからの信頼が薄かった・・・・相馬蒼くんです」
「俺か・・・まあ、初めから浮いていたから当然・・・なのか?」
「では、さようならー」
その瞬間、床が無くなり俺は落ちてしまった。
(痛って・・ここは・・どこだ)
何も無い。目の前にある、不気味な扉を除いては。
「ここしかないか。仕方ない」
自分に言い聞かせ、扉を開ける。その先にはー。
「リーダーがいなくなってしまいましたが、気を取り直していきましょう」
「お兄さんリーダーだったの?」
「はい。まあ、こっちが勝手に決めているだけですけど」
「そうなんですか・・」
「では、次のリーダーは、零くん。お願いします」
(分かりました)
「良い返事です。では、これからこの家の説明をします。この家は五階建てで、今皆さんがいるのが、五階です。ちなみに皆さんは、第一ゲームをクリアしているので、これから四階に下がります」
「つまり、あと四個のゲームをクリアしないと、ここから出られない、ということですか?」
紅が自信が無いのか、小さな声で質問した。
「正解です、興津くん。もちろん、全てのゲームを誰か一人でもクリア出来たなら、蒼くんを含め全員の願いを叶えます。生きていれば、ですけどね。質問は・・・無いようなので、早速第二ゲームに移ります。第二ゲームは、人狼鬼ごっこです。ルールは、甲斐くんに持たせた紙に書いてあるので、よく読んでください。開始は十分後。チャイムと同時に始まります。では」
僕がリーダーになったから、みんなをまとめないと。近くにあった紙とペンを取り、何かを書き始めた。書き終えると、麗の肩をたたき、書いたことを読むように指示した。
「とりあえず、ルールを確認しませんか?ってお兄ちゃんが言ってるよ」
「そうだね。涼、読んでみて」
「分かった。えっと・・・
人狼鬼ごっことは、六対六の鬼ごっこです。
ルールその一
皆さんの分身と戦ってもらいます
ルールその二
鬼は五分おきに交互に交代します。鬼になると、手の甲に鬼のマークが浮かびます
ルールその三
逃げる人は、基本何をしても構いません。しかし、決してしゃべってはいけません。もし、しゃべってしまった場合は、即脱落となります
ルールその四
鬼は手の甲のマークを他の人に見せてはいけません。また、逃げる人は鬼のマークを見て、その模様を指定された場所で叫んでください。そうすると、叫ばれた模様を持った鬼が脱落します
ルールその五
先に全滅したチームの負けとなり、チーム全員に脱落してもらいます
最後に 健闘をお祈りしています
※ゲーム中の脱落は、ゲームからの脱落を、全滅時の脱落は、相馬蒼くんのようになることを言います
・・・」
涼祐が、読み間違いが無いようにゆっくりとルールを説明した。驚きを隠せずに慌てる麗と紅。早くゲームをしたいのか体を動かす竜成と斗貴。そして、もう一度ルールを確認する僕と涼祐。
そんな空気に、水を差すように
「これから、第二ゲーム人狼鬼ごっこを開始します」
という放送とともに、目の前に自分の分身が、手の甲に鬼のマークが現れた。
「あなた方が鬼でスタートします。それでは、目を閉じてください」
言われた通りに目を閉じ待っていると、大きな揺れが起きた。
「皆さん、目を開けてください」
放送が流れ目を開けると、見慣れない場所に一人で立っていた。
(ここは・・・それよりもみんなは・・)
「では、第二ゲーム人狼鬼ごっこ。スタートです」
放送が切れ、不気味なサイレンが鳴り響いた。
今までいた部屋とは明らかに違う空間に、周りにいたはずの仲間がいなくなり、代わりに地図が手に握られていた。地図には、青い点で示された場所と、十二個の動く黒点が示されていた。
(この黒点はみんなの位置を表しているのか・・・。そして、こっちの青点は叫ぶ場所かな・・・。)
地図を読んでいると、奥の方から足音が響いてきた。
(誰か来た)
とっさに物陰に身を隠す。足音の正体を探るために、顔を少し物陰から出して顔を確認した。
(麗だ)
今まで追いかけてきた足音の正体が麗だと分かり、麗に向かって走り出した。瞬間、あの不気味なサイレンが鳴り、こっちに向けて麗が走ってくる。僕は、サイレンに驚き、動くことが出来なかった。ただ、こっちへと向かってくる麗を見ている事しか出来無かった。
あと数歩で麗に触れられる。そう思ったとき、一瞬だけ、麗の手の甲に鬼のマークがあるのが見えた。
(はっ。この人は麗では無い。今、僕たちは逃げる側だ。証拠に、僕の手の甲に鬼のマークが無い)
鬼である麗の手をギリギリでかわし、青点で示された場所へと向かい走り出した。
(はぁはぁ、撒いたか)
麗が追いかけてこなくなったのを確認すると、目の前にあった青いドアの部屋に入っていった。
部屋の中には、一台のカメラとホワイトボードとペン、そして一枚の紙が置かれていた。
僕は、初めに紙を確認した。それには、たった一言
[ルールとは反対の行動をしろ]
と書かれていた。
僕は、叫ばずにホワイトボードに
[花の模様の鬼は、麗]
と書き、カメラに映した。しばらくすると、不気味なサイレンと共に、放送が流れた。
「橘零さんによって、一人の分身が失格となりました。では、引き続き頑張ってください」
放送が切れ、再び手の甲に鬼のマークが浮かんだ。
部屋から出ると、隠れられそうな場所を探し、走り出した。
誰にも会わないまま二周目が終わり、三周目も終わろうとしている。そんな中、不気味なサイレンと放送が流れた。
「闇島竜成さんと対馬紅さんが分身に捕まり失格となりました。また、興津斗貴さんと橘麗さんによって、計二人の分身が失格となりました。では、四周目も頑張ってください」
放送が切れ、手の甲に鬼のマークが浮かんだ。
(はぁはぁ、どうして僕が追われているんだ)
今は、四周目の前半。何度もマークを確認するが、しっかりとマークが付いている。追いかけて来るのが誰かを確認せずに走り出してしまったため、誰に追いかけられているのかも分からない。ただ追いかけられているから、逃げているだけ。ここに来てやっと、しゃべってはいけないというルールの意味が分かった。
(とりあえず、誰に追いかけられているのかを確認しないと・・・)
しばらく走っていると、カーブミラーのような形をした鏡があった。鏡に自分の姿が映り、それに続けて今まで追いかけてきた人の姿が映った。
(涼。そうか・・・僕を追いかけてきたのは涼だったのか。なら・・・)
追いかけてきたのが涼祐と知り、床に倒れるように寝転がった。
(疲れたなぁ。涼に捕まえてもらえるなら、僕は幸せだなぁ・・・)
そう思っていると、涼祐は来た道を戻っていった。同時に、手の甲から鬼のマークが消えた。
五回目のサイレンが鳴り響き、放送が流れた。
「四周目では、計二人の分身が失格となりました。ここで、残りの人数の確認をします。現在、四対一で皆さんが勝っています。皆さん側は、橘零さん、橘麗さん、甲斐涼祐さん、興津斗貴さん。分身側は、橘零さんとなっています。それでは、五周目スタートです」
長い廊下を何も考えずに歩いている。百メートルほどの廊下だが、何倍も長く感じる。
(もうすぐ曲がり角かぁ。お兄ちゃん、どこにいるんだろう。早く会いたいなぁ)
考えながら角を右に曲がろうとしたとき、左からお兄ちゃんが歩いてきた。とっさに振り返り、兄の元へ走り出した途端に、橘零は声を発した。
「麗、お兄ちゃん話せるようになったよ」
初めて兄の声を聞いたからか、頭が真っ白になり、涙が溢れ出た。
「お兄ちゃん・・・本当に・・お兄ちゃんなの?」
「さあ?どうだろうね」
そう言い、橘零の姿が消えたと同時に、サイレンが鳴り響いた。
「サイレンが鳴った。手の甲にマークがある。
ということは、さっきのお兄ちゃんは・・・」
再びサイレンが鳴り、放送が流れた。
「おめでとう。最終結果、三対〇で皆さんの勝利です。ちなみに、橘麗さんと分身の橘零さんは、しゃべってしまったため失格となりました。これで第二ゲーム人狼鬼ごっこを終了します。第三ゲームは、一日休憩を挟み明後日に行います。ちなみに、第三ゲームのリーダーは、闇島竜成くんになります。明日はしっかりと休み、今日の疲れをとってください。では、これから三階に下がります。お気をつけください」
十秒間ほど強い揺れが続き、しばらくして収まった。
「それでは皆さん、また明後日会いましょう」
最後に一言言い、放送が切れた。
フロアには、七個の部屋と食堂のような部屋、図書室などがあった。
「まず、部屋を決めませんか」
俺が仕切りながら、部屋割りが始まった。
部屋は全部で七部屋あり、六部屋は同じ広さだが、残りの一部屋は他の部屋の半分ほどの広さだった。そして、六部屋のうち一部屋はすでに使われていた。
[僕が小さい部屋を使うから、残りの部屋はみんなが使って良いよ]
と、零が置いてあったホワイトボードに書き、みんなに見せた。
「零さんが小さい部屋を選んでくれたので、残りの部屋は勝手に決めてしまいますが良いですか?」
確認のために質問すると、
「「「「「はい」」」」」
と返事が返ってきた。
「じゃあ・・部屋は、手前から―」
無事部屋が決まり、三時間後に食堂に集まるように言い、部屋に戻った。
「あっ。零さん」
声に気付き、急いでホワイトボードを手に取った。
[どうしたの?零くん]
サッと書き、ホワイトボードをこちらに向けた。
「これから図書室に行こうとしていたんだけど、良かったら一緒に行かない?」
[いいよ。ちょうど僕も、行こうとしてたところだから]
再びホワイトボードに書き、こちらへ向けた。
「じゃあ行こうか・・・その前に、図書室ってどっちだったけ?」
「はぁ。[僕に付いて来て]」
「零くん今・・・気のせいか。待ってよー」
急いで零を追いかけた。
図書館に着くと、零はミステリー小説のコーナーへ向かった。
「零くん。何かおすすめの本ある?」
本を選んでいた零に質問すると、零はサッと一冊の本を手に取り
[この本面白い・・・と思うよ]
と書いたホワイトボードを出した。
「ありがとう。早速読んでみるよ」
と、渡された本を手に取り自室へと戻った。
三時間が経ち、食堂に六人全員がそろった。食堂のメニューは一種類だけで、全員が同じカレーを食べている。
「ねぇねぇ、とっきー。このカレー辛くない?」
口の中に入っているカレーを飲み込み、水を一杯飲んでから
「そうかな?僕は全然辛くないけど、みんなはどう?」
[僕は少し甘く感じるかな]
「私は普通のカレーって感じかな」
「俺も辛くは無いかな」
「私は辛いけどなー」
と会話が弾み、楽しく食事を終えると
「みんな、第三ゲームの事で話があるんだけど・・・」
楽しそうだった空気が、急に重くなった。
「俺に任せてくれないか」
竜成がそう言うと
「いいよ。竜に任せる。みんなもそれでいいよね」
紅が初めに賛成し、みんなにも賛成をするように促した。そのおかげで、みんなが賛成してくれた。
その後、一通り確認をして解散した。
それぞれが有意義な時間を過ごし、第三ゲームが幕を開けようとしていた。
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