持主の零麗

U朔

出会い


 目に光の線が入り込み、俺、相馬蒼そうまそうは目を覚ます。いつもと変わらない、殺風景な部屋。毎日同じ食パンを食べ、同じ洋服を着て、同じ時間にバイトへ行く。そんなある日のバイト帰り、ポストに一通の手紙が入っていた。俺は、すぐに手紙の内容を確認した。

「もし、あなたに今叶えたい事があるのなら、明日朝五時に地図の場所に来い。あなたがこの場所に来たのなら、あなたが・・・」

そう書かれた紙の下には、地図が載っていた。

「叶えたい事か、何かあるかな?」

しばらく考え込み、荷造りを始めた。


「お兄ちゃん。私たち宛に手紙が届いてるよ」

妹の麗に言われ、手紙を見る。

(差出人は・・分からない、か。それに、日付が一年前になってる・・・)

手紙を持ちながら考え込んでいると

「お兄ちゃん、もう読んじゃうよ」

急に麗が手紙を取り、読み始めた。

「橘零様・橘麗様

あなた方には何か叶えたい事はありますか。あるのなら、明日朝五時に地図の場所に来てください。お待ちしております」

(叶えたい事・・・出来るのならこの声を・・・)

「ねえねえ、お兄ちゃん。一緒に行こうよ」

(まあ、麗が喜んでくれるならいいか)

そう言い、荷造りを始めた。


「紅、居るか」

「竜、どうしたの?」

「まあ、とりあえず中入ってもいいか?」

「どうぞ」

彼、闇島竜成やみしまりゅうせいは私、対馬紅つしまこうの幼馴染みで、一歳年下。金髪にピアスという見た目から、周りから感じ悪く思われているが、根は真面目で良い人だ。

「で、何?」

私が、少しあきれたように聞くと

「実は、今朝ポストにこんな手紙が入っていて・・・」

「どんな内容だったの?」

「それが・・・」

竜成は、重い口調で手紙の内容を読み始めた。

「対馬紅様・闇島竜成様

あなた方の願いを叶えます。明日の朝五時、地図の場所で待っています」

竜成は、手紙を読み終えると手紙をしまい、口を開いた。

「紅、どう思う?」

「行けば良いんじゃない?」

「紅は来ないの?」

「仕方ないなぁ、行ってあげる」

「ありがとう、紅」

そう言い、竜成は帰って行った。


「とっきー。少し良い?」

「どうしたの、涼」

僕、興津斗貴おきつときは親友(と思っている)の甲斐涼祐かいりょうすけに呼ばれ、体育館裏へ向かった。

「とっきー。僕、詐欺に遭ってるかもしれないんだ」

「どうしたの、急に」

「それが・・、昨日こんな内容の手紙が届いたんだ」

そう言い、涼祐は手紙を読み始めた。

「えっと、甲斐涼祐さま・興津斗貴さま。あなたの願いを叶えます。明日朝五時、地図の場所に来てください」

涼祐が読み終えると、俺は

「行くの?涼祐」

と聞いた。

「とっきーと一緒なら、行く」

「仕方ないなぁ。僕も行ってあげる」

「ありがとう、とっきー。明日、また会おうな」

「うん。また明日。涼」


 そして、朝四時。地図の場所には、蒼が一人で座っていた。


 少し夜の空気が残っているのだろうか。薄暗く、肌寒い。頭がうまく回らない。慣れない芝、寒気の湧き出る川の音。辺りには誰もいない。

(三月の朝は、こんなに寒かっただろうか)

俺は、無駄なことを考えて、時間を潰していた。現在時刻は四時五十分。集合時刻まであと十分。

(あと十分。何しようか・・・)


「お兄さん、こんな所で何してるの」

(麗、相手が迷惑しているだろ)

「私たち、これからここに集まるように言われてるの」

(ちょっ、麗。勝手に何しゃべってるの。)

「で、お兄さんは何してるの」

「じっ、実は俺も・・」

「とっきー、速く、速く」

「ちょっと、速いよ。涼」

「とっきーが遅いだけだろ。それより、急いでよ。もう少しで五時になっちゃうよ」

「もとはといえば、涼が寝坊したのが悪いんだからな」

「あー、そうだっけ?そんなことより見て、とっきー。集合場所に着いたよ」

「そんなことよりって。まあ、時間内に着いたから、今回は許してあげる」

「僕、何か謝られることしたっけ」

「はぁ。やっぱり許さない」

「ごめん、ごめん。やっぱり許して。僕たち、親友だろ」

「親・・友・・。仕方ないなぁ、今回は特別だからな」

「サンキュー、とっきー。」

(話すタイミング逃した・・・)

落ち込んでいる間に、五時になっていた。すると、目の前に車が止まった。窓に掛かっているカーテンのせいで、よく中が見えないが、おそらく十人は余裕で乗ることが出来るだろう。しばらくして、車の中から一人の男が降りてきた。黒いパーカーを着て、黒いズボンを履き、黒マスクにサングラスと、いかにも怪しい。男は、手を叩き、口を開いた。

「はい。これから参加者の確認をするので、返事をしてください。まずは、相馬蒼君」

「はい」

「次に、橘零君、橘麗さん」

(はい)

「はい」

「次に、甲斐涼祐君」

「はーい」

「最後に、興津斗貴君」

「はい」

「全員いますね。ちなみにあと二人いますが、先に車に乗っていてもらいました。ということで、これから車に乗ってください。車に乗ったあとは、外に出ることができないので、忘れ物には気をつけてください。では、どんどん乗ってください」

急に話を進められて戸惑っているのか、誰も動こうとしない。仕方無く、

「じゃあ、俺から」

と、わざと大きな声で言い、車に乗った。それに続くように、

「お兄ちゃん、私たちも行こうよ」

(そうだね)

と、二人が、そして

「とっきー、速く行こう」

「あぁ、ちょっと待ってよ、涼」

と、計四人が、俺の後に続いた。

 車に乗ると、確かに二人がいた。一人は、普通の女の子。もう一人は、金髪にピアスと、いかにも不真面目そうな男子。

(どうして、正反対の見た目をした二人が一緒に居るのだろうか)

と思いながら、椅子に座った。後に続いた四人も、同様に椅子に座った。それを確認した黒い男は、運転席に座り、アクセルを弱めに踏み、車を運転し始めた。


 車が走り出して数分が経った頃、車内にアナウンスが流れた。

「目的地まで、およそ二時間掛かります。そのため、これからはレクタイムです。まずは、自己紹介をしてもらいます。名前と仕事を簡潔にお願いします。では、まずは相馬蒼君から」

「えっと、相馬蒼です。十六歳で、学校には通わずバイトをしています。」

「ありがとうございました。次は、橘零君」

(橘零です。十四歳で、中二です。話す事が出来ません。)

「ありがとうございます。では、次は、橘麗さん」

「橘麗です。お兄ちゃんと私は、双子です。私も、十四歳で、中学二年生です」

「ありがとうございます。次に、闇島竜成君」

「闇島竜成です。十五歳で、中三です」

「ありがとうございました。次に、対馬紅さん」

「対馬紅です。十六歳の高一です」

「ありがとうございます。次に、甲斐涼祐君」

「甲斐涼祐です。十二歳の中学一年生です。気軽に、りょうくんって呼んでください」

「ありがとうございます。最後に興津斗貴君」

「興津斗貴です。十二歳の中学一年生です。涼には、とっきーと呼ばれています」

「ありがとうございました。全員の自己紹介が終わったということで、そろそろ目的地に着くので、今しばらくお待ちください」


 山道だからだろうか。やけにカーブの多い道を十分ほど走ると、車内が急に暑くなった。暖房が効きすぎたのだろう。

「あと、五分ほどで到着します。明るさに慣れてもらうために、これからカーテンを開けますが、くれぐれも外へは出ないようにしてください。では、カーテンを開けるので目を閉じてください」

言われた通りに目を閉じると、目を閉じているのにも関わらず、視界が白く染まった。

しばらくして、俺は閉じていた目を開けた。車窓からは、白く染まった白銀の世界が広がっていた。

(今って・・・三月だよな・・)

考えている俺とは対照的に

「見て、とっきー。雪だよ」

「そうだね。雪合戦とか出来るかな?」

「私もやりたい。お兄ちゃんも、やりたいよね?」

(いや・・遠慮しておくよ)

俺を除き楽しそうにしていて、小学生の修学旅行のような空気が、車内に広がっていた。そんな空気を、裂くかのように

「到着しました。忘れ物が無いように、車内を確認してから、降車してください」

アナウンスが流れ、一斉に車を降りていった。

「とっきー、雪合戦しようよ」

「そうだね。涼、いくよ」

と、斗貴が雪玉を手に取った瞬間

「熱っ、これ雪じゃないの?」

「甲斐さん、興津さん。早く来てください。迷子になりますよ」

「あの、これは雪じゃないんですか?」

「誰が雪だと言いましたか?」

「じゃあ、これは一体・・・」

「そんなことより、早くしてください。置いていきますよ」

「「すいません。今行きます」」


 五分ほど歩くと、一軒の家が見えてきた。

「あなた方には、この家で暮らしてもらいます。中に入ると、しばらくの間外へは出られません。それでも良い方は、どうぞお入りください。嫌な人は、車へ戻ってください。それでは、失礼します」

そう言い、黒い男は来た道を戻っていった。


「竜、行くよ」

「ちょっ、待ってよ。紅、速すぎ」

「とっきー、置いてくよ」

「涼、待ってよ」

「お兄ちゃん、行こうよ」

(嫌な予感がする・・・)

「お兄ちゃん、どうしたの?」

(何でも無いよ。じゃあ、行こうか)

あっという間に、一人になってしまった。

「お兄さん、早く、早く」

「あっ、ごめん。今行く」

こうして、俺たち七人は、不気味な家へと足を踏み入れた。

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