撮影現場 ~最後まで見ると死ぬ映画~

回道巡

撮影現場 ~最後まで見ると死ぬ映画~

 「きゃぁあああっ!」

 悲鳴が響く。

 「あんな映画を見ただけで死ぬなんて……、そんなの本当だって思う訳……っ!?」

 頭に過ぎった経緯を、後悔と共に口にしたのが、頼子よりこの最期の言葉となった。

 「……」

 画面前の椅子に座る頼子を後ろから抱きすくめるように絞め殺した黒髪の死霊は、そんなことをしたとは信じられないような細腕を背もたれに這わせ、よろけるようにして振り返る。

 目元どころか顔の半分以上が見えない程に前髪の長いその女は、そのまま“こちら”へ視線をむけ――

 「はい! カットぉ!!」

 小気味いい拍子木の音に重ねて、監督の威勢いい声がスタジオに轟く。

 「どうでした?」

 「すごく良かったよぉ、私も思わずぞくぞくしちゃった」

 むくりと起き上がって自分の死に様の感想を聞いた頼子に、前髪をかき分けながら死霊が朗らかに答える。――ここは映画「死ネマ」の撮影現場。ある古い映画を最後まで見ると、忽然と背後に現れる死霊に殺されてしまうというホラー映画。今はその最後のシーンの撮影だった。

 「監督はどうでした?」

 しばらく声が掛からないことを不思議に思った頼子役の女優は、今度は何かを確認している監督に感想を尋ねる。そして近づいたことで監督の見ているのは拍子木であることに気付き、首を傾げた。

 「お祓い用……でしたっけ? それ」

 「ああ、知り合いの神主に借りたものなんだが……ほら」

 監督の手元では、綺麗な白木の拍子木にヒビがはいっている。そのヒビの深さ、あるいは描き出す紋様に聞いた女優も背筋が寒くなるような印象を抱いた。

 「なんか不気味ですねぇ」

 歩み寄ってきた死霊役の女優も、自分の体を抱くようにする。

 「どうした?」

 ふと頼子役女優の顔色が悪くなったことに、監督は気付いた。

 「いえ……この映画の撮影も、最後のシーンまで終わったな……って」

 最後まで見ると死ぬ映画という題材が、今更の不気味さを醸し出す。

 「……スタッフさん達は?」

 「ああ、今君たちに渡す花束を取りにね」

 続いた呟きに監督が答え、揃って広いスタジオの出入り口へと視線を向ける。だが時間が経っても誰も現れず不安から言葉も続かない。

 「あがっ!?」

 沈黙を破ったのは監督の苦鳴。

 「ひぃっ!」

 頼子役女優の戦慄が続き。

 「――ぃゃぁぁああ!」

 死霊を演じた女が何かに気付いて上げた悲鳴を最後に、場は完全に静かになった。

 

 後に残るは三つの体。伏して動かず、もはや生気も見当たらない。

 

 「――」

 完全に沈黙したと思われた場に、微かな擦過音。それはぎこちなく動いた指先が床を擦る音だった。

 そして何かに引き上げられるような不自然な動作で、かつて死霊役女優だったモノが立ち上がる。それは確かに“こちら”を凝視する。前髪に覆われているはずの両目が、はっきりと感じられる。そして――

 ――最後まで読んだわね。……あなたのことも、見えているから。ほら、本当は薄々と、背中に感じているでしょう? もうそこに

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

撮影現場 ~最後まで見ると死ぬ映画~ 回道巡 @kaido-meguru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ