第35話 ウィスタリアの金級冒険者②

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 場所は変わり、ウィスタリアを出てすぐの関所前。


 『始まりの森林』を目の前にした広場にて、2人の男が対峙していた。


 冒険者ギルド・ウィスタリア支部のギルドマスターにして元金級冒険者のレオと、『最も金級に近い男』、『風マン』の異名を持つナキト。


 2人の戦闘を見守るギャラリーとして、ホウリ、オットー。そして俺とナナが同席した。


 この件に関係ない俺であるが、行く末が気になり同行を所望したところ、レオから「ん? お前も来るだろ?」と不思議そうに首を傾げられ、快く許可を得られた。


 「ヒサギン。これ、どういうこと?」

 「ナキトが腕試しをするそうだな」

 「なんで? そんなの要らないじゃん」


 一方で訳も分からず連れてこられたのは、ナキトのご令姉であるナナだ。


 余談だが、彼女の代わりにエルナさんが残って仕事をしてくれることになった。こういった事態にも柔軟性の高いギルド職員の先輩方には、またもや驚かされた。


 一方で彼女は怒気の混じった声音で俺を責め立てた。


 「まあ、どうか見ておいてくれ」

 

 ナキトの願いとナナの望み。


 2人は分かり合えぬまま、永遠に交わることのない道を歩く。


 だが、そこにナキトが一歩を踏み出し、何かを見せようとしている。


 ナナに届かないかもしれないという、不安や憂いを必死に消し去って。


 俺は彼女から目を離し、2人を見た。


 少しして、彼らと俺達の間に半透明の壁ができた。


 「防御魔法とは違うようだが、これも罠なのか?」

 「ええ。2人の保有魔力半分を担保にして作ったから、早々壊れないわよ」

 

 驚いてホウリに尋ねると、彼女が胸を張って答える。


 「なるほど。全力でぶつかり合うって感じじゃないんすね」

 「ばか。金級の2人よ? そんなことしたら、近くで見てるあんたもタダでは済まないからね」

 「た、確かに」

 

 更にウィスタリアきっての実力者である2人には、制限を設けている。


 彼らが携えた短剣や大きな剣も、刃を潰した模擬戦闘用とやらの仕様に変えられていた。


 準備が整ったのを確認し、レオがナキトを見据えた。


 「さあ、さっさとやろうや」

 「うっかり死んでも文句言うじゃねえぞ」


 レオの言葉を皮切りに、ナキトが動いた。


 左手を翳し、魔力を集める。


 直後、轟々と激しい音を立てて、レオに向かうように風が吹いた。


 風魔法【突風】。文字通り吹き荒れる風を生み出す魔法である。


 「うわ。ギルドマスターやりづらいっすねー」


 舞い上がる砂埃や小石が、ホウリの展開した壁にコツコツと当たる。


 閉鎖的な場所での【突風】の使用は、相手の行動を大幅に害する役割を果たすのだ。


 そうした環境下で、レオが足を踏み締め、不敵に笑った。

 

 「こんなんじゃ、まだまだだなァ!」


 状況が目に見えて変わる。


 レオが体に【身体強化】を纏わせたことで、【突風】の影響を最小限に留めた。


 獅子のような獰猛さを以って、レオはゆっくりと屈み――跳躍した。


 だが、そんな彼の腕や脚、肌の露出している箇所に、突如として何かに切られたかの如く線が刻まれ、血が出る。


 ナキトが次なる魔法、工程を省略した【風斬】を撃ったのだ。


 ガラスの破片が、荒れ狂う風の中であっても的確にレオを狙った。


 レオは、構わずナキトへ迫る。


 それに対し、ナキトが後方へ飛び退った。


 「うおらああッッ!」


 瞬間、レオが空中より、大上段に構えた剣を豪快に振り下ろす。


 「なっ――」


 ナキトが驚いたのも当然のこと。


 先程まで猛威を振るった風が、レオの一振りで綺麗に吹き飛ばされたのである。


 「バケモンかよっ」


 ナキトは後退したまま、再び片手をレオへ向けた。


 手の前に5つの風の塊が出現する。


 風魔法【風砲】。その内の4つが一直線に、剣を下ろしたレオへと迫る。


 「むん――っ!」


 しかし、レオの行動も常人では真似出来ぬ程、素早い。


 刃を潰してるとはいえ、ナキトの身長よりも一回り長く、そして手のひらがそっくり嵌まる程の太さの剣を、いとも容易く振り上げた。


 忽ち風の塊が掻き消される。


 その様子を見て、ナキトが――笑った。


 理由は、外から見ている俺達には明白であった。


 タイミングを遅らして放った【風砲】が1つ、地面を抉り、レオへ向かっていたのだ。


 「吹っ飛べ――」


 急な角度で上がった風の塊が、レオの腹に直撃した。


 だが。


 レオの身体は、微塵たりとも動かなかった。


 「……痛ってぇな」


 腹を摩って、再びナキトを見るレオ。


 これにはナキトも思わず目を見開く。


 「……ギルドマスターって、こんなおっかないんすか」

 「……ええ。紛うことなき化け物ね」


 【身体強化】である程度の魔法は防御できるが、魔力を一等込めて放った金級冒険者の【風砲】だ。直撃すれば普通、吹き飛ばされるか、耐えたとしても膝をつくだろう。


 しかし、当のレオは腹痛を起こした時のような所作で、まるで効いた様子がなかった。


 「どうする、ナキト。お前も冒険者だ、負けを認めねえ限り容赦しねえぞ」


 ナキトとレオの距離はまだ十分にある。だが、レオが一思いに跳躍すれば一瞬で届く、十分な射程距離内でもあった。


 冒険者が戦うのは、何も魔物だけでない。


 名を馳せ、懐の温かくなった彼らの金品を奪いにやって来る盗賊や、あるいは妬みや嫉みからくる一時の感情で、悪意を以って害そうと企む元冒険者――犯罪者と相対しなければならない機会が、金級冒険者ともなれば殊更多い。


 そんな時、敵が多く、または負傷していて勝ち目がない状況であれば、真っ先に逃げるという選択を持っておかなければならない。


 つまりこの戦闘でいうところの、敗北を認める行為だ。


 逃げるのが恥だと考える内は、まだプライドが高く、未熟な冒険者と称せざるを得ない。


 未熟な冒険者は、確実に死ぬ。


 冒険者稼業を続けるのなら、自身を誇示する矜持を持ち、かと思えば簡単に捨て去れるような矜持でなければならない。


 レオがナキトに問うているのは、そういった残酷ともいえる冒険者業界で、看板になる彼がそれ相応の能力を持ち合わせているのかであった。


 「ねえ、ギルマス! もう止めようよ!」

 「……すまねえな、ナナ。それは無理だ」

 「そんな……ホーリー、これ取ってよ!」

 「ナナさん。もう少し待って頂戴」

 

 ナナが狼狽し、額に汗を浮かべて叫ぶ。


 レオは勿論のこと、ホウリであってもこの戦いを止めることはできない。


 彼女やオットーは、ナキトが背中を預けるに相応しい判断力をもっているのか、まだ計りかねているのだろう。


 「……ヒサギン」

 「まだ終わっていないからな。俺達が介入することはないだろう」

 

 縋る先を失って、今にも泣きだしそうな表情になるナナ。


 「なんで? なんで、こんな危険なことするの……」

 「さあな。俺は冒険者でないから、分からない」

 「皆、おかしいよ……」

 「そうだな。皆、おかしい」


 簡単に命を擲つ彼ら。


 複雑に命を捉え、必死に守る俺達。


 前者は人間全体の生存戦略そのものを捨てた、獣のような存在だ。


 「だが、はたしてそう言い切れるのだろうか」


 つい俺が零したその時、


 レオがゆっくりと歩き出した。


 返答のないナキトヘ敗北の引導を渡す為、迷いなく向かう。


 じりじりと後退るナキト。牽制の魔法を撃つ魔力も残っていないのだろう。


 やがて、そんな状況も終わりがきた。


 ナキトが右手に持った短剣を構えて、レオを睨んだ。


 「くそっ――!」


 尚も歩みを止めないレオに、飛び掛かった。


 しかし。


 歴戦の戦士に、それは効かない。


 レオが握った拳をぶん回すだけで、ナキトの手から容易く短剣が滑り落ちた。


 「往生際が悪いぞ」


 レオは大きな剣を捨て、自由になった腕を振った。


 彼の鍛え上げられた拳が、ナキトの左頬に突き刺さる。


 堪らず吹っ飛び、地面に背中をつけるナキト。


 「ギルマス! もう止めてよっ!」

 「こいつが降参しねえからな、できねえんだ」

 「もうナキト、喋れないじゃん! そんなのっ――」

 「ガタガタうるせえな」

 「ひっ……」


 目に涙を浮かべて抗議するナナが、止まった。


 レオの剣呑な眼光に怯んだ様子であった。


 「……仕方ねえな。ナキト、頷くだけで良い。お前は今、動けないんだよな」

 「……」

 「お前の負けだ、それでいいか」

 「……」


 ナキトは、尚も頷かない。


 朦朧としたまま、震えた左手をレオへ向けた。


 「……魔力を練るまで待つと思うか?」


 レオが文字通り一蹴し、ナキトが無様にも転がる。


 「情けねえな。これじゃ何も守れねえぞ」

 「……」

 「オレが優しくて良かったな。上位魔族相手じゃ今頃バラバラになってたぞ」

 「……」


 土に塗れ、返事のしなくなったナキトの姿を見て、ホウリがため息をついた。


 「もう良いわね。解除するわよ」

 「……まだ、待ちましょか」

 「正気?」


 半透明の壁に触れたホウリを、オットーが止める。


 「このままじゃナキトが死ぬわよ?」

 「死んだらそこまでじゃないっすか。金級になるのが早かったんすよ」


 オットーは、依然としてナキトに視線を固定していた。


 そして――、


 レオが仰向けに倒れたナキトへ、踏みつけるように足を上げた。

 

 その時。


 「はぁ……はぁ……」


 ナキトが、もう一度、左手を翳した。


 レオは肩をピクリと揺らし反応を見せたが、直後には構わずナキトの顔目掛けて足を振り下ろした。


 バキッ、と。


 ナキトの伸ばした左手が、歪に捻じ曲がる。


 レオの足が接触したのだ。


 結局、彼の左手には何も起こらなかった。


 彼の左手には。


 「がっ――あああっっ!」


 レオが異変を感じ取り、直様剣を回収して後方へ跳んだ。


 大きな影が、落ちていた。


 レオが空を仰ぐ。


 彼らの頭上に、不自然に雲が集まっていた。


 やがて、大量の雨が降る。


 「水魔法!?」


 ホウリが驚愕し、声を上げる。


 水魔法。


 いや、これは、より上位の魔法だ。


 ――天候操作魔法【叢雨むらさめ】。局所的な驟雨を人工的に降らせる魔法。


 これだけでは、ただ雨を降らせただけだ。


 だが、更に不可解なことが起きた。


 レオの切り傷の数が増えたのだ。


 「……雨一粒一粒に『刃の形成』を施したのか」

 

 俺は思わず感嘆を漏らした。


 風魔法【風斬】の本来の要領で、発生させた雨粒に『刃の形成』を内包させる。


 それは途轍もない程の魔力を消耗するはずだ。平時でも、ましてや保有魔力が半減した状態で使える代物ではない。


 目を凝らせば、その全貌が見えた。


 レオの周り。雨が接触する寸前に『刃の形成』を挟んでいたのだ。


 これなら少ない魔力消費で済む。レオに雨が当たる瞬間を、常時計算して『刃の形成』の工程を無理矢理差し込んでいるのだ。


 柔軟性の高い水魔法だからこそできる力技だが。それは普通、考えていても実行する技術ではない。


 「――ッ!」


 レオが初めて焦りを見せ、ナキトヘ向かい跳んだ。


 雨に打たれ、ずぶ濡れになったナキトは、あらぬ方向に曲がった左手を、まだ掲げていたのだ。


 手に集まる魔力。


 ここで放たんと準備するのは、風魔法【突風】であろう。


 すると、どうなる。


 それは、文献に記されてもおかしくないような魔法が爆誕する。


 気づけば俺の肌にプツプツと鳥肌が立っていた。


 これが、ウィスタリアの新たな金級冒険者、ナキトか。


 過酷な戦場でも生き抜いて行ける、稀代の魔導師だ。


 そう感動を覚えたのも束の間。


 フッと。忽ちナキトの左手から、空から、一切合切が消えた。


 レオが足を止める先で。


 ナキトは、力なく左手を下ろした。

 

 「……魔力切れだな。終わりだ」


 レオが剣を投げ捨て、ナキトを持ち上げた。


 「ホウリ、もういいぞ。――勝負はついた」

 「え、ええ」


 唖然と状況を眺めていたホウリが、レオの声に我を取り戻し、半透明の壁を消した。


 「ナキトっ」

 「気ぃ失ってるだけだ」


 目を閉じたナキトが浅く呼吸を繰り返す様子を見て、ナナがほっと胸を撫で下ろした。


 「ふぅ……何とかなったみたいっすね」

 「なに? ナキトがあんな魔法が使えるって、知っていたの?」

 

 安堵したのはナナだけではない。オットーやホウリも息を吐き出し、その場にへたり込んだ。


 「流石にそこまでは分かんないっすけど……でも、あいつの目、死んでなかったっしょ」


 オットーが柔らかな眼差しを以ってナキトを讃えた。


 「こりゃ間違いなく、ジブン達自慢のリーダーっすね」

 「……そうね」


 弛緩した雰囲気へ変わったのを確認し、俺もナキト達の元へ歩いて行く。


 「ナナ」

 「……なに?」


 煩わしげに目を細め、俺を臨んだナナ。


 彼女からして、俺は邪魔な存在に成り下がったのだろう。


 何も出来ず、何も成し得ない、口先だけの存在だ。


 そう感じてくれていい。実際そうなのだから。


 しかし、俺と彼ら冒険者を一色単にだけは、して欲しくなかった。


 「冒険者という存在は、斯くも奇妙で、おかしいな」

 「……」

 「だが、だからこそ真っ当な他の皆が生きていけるのでないだろうか。ナキトは、自身の命を秤に掛け――お前を守れるということを、証明したんだ」

 「偉そーに言うんだね。……そんなことしなくても分かるんだけど」


 ナナの発言は尤もである。態々レオと殺し合いをしなくとも、危険を冒して外へ出なくとも、手の届く範囲だけであれば十分守れる。


 「違うな。こうして見せなければ、ナキトを庇護対象として可愛がり続けていたに違いない」

 「はあ? 訳分かんないんだけど」

 「では何故ナキトを冒険に出さないのだ。他ならぬ、お前が縛っていたからではないのか?」

 「そ、それは違うじゃん」

 「違わないな。お前はナキトが強いことを認めたくなかった。ナキトは十分、お前なしでも生きていける」


 姉弟の平穏を引き裂いた俺には、彼らが違えた道を歩くというのならば、それに助力する義務がある。


 それは決して曖昧な偽善であってはならない。確固たる必要悪でなければ、意味がない。


 だからこそ、臆することなく、残酷な真実を突きつける。


 「え、い、違う……違うよっ!」

 「そうか? 違うと言うのなら、何故――」

 「もういいでしょ、ヒサギ」


 狼狽えるナナに詰め寄った俺の肩を、ホウリが掴んだ。


 「生憎そんな喧嘩をしている暇は、あたし達にないの。ギルドマスター、ナキトを連れて行くわよ」

 「……そうだな」

 「……」

 「ヒサギ、今回ばっかはお前が悪いぞ」


 ホウリが冒険者ギルドへと帰ろうと促した折、レオが俺を見た。


 「……過ぎたことを言ったようだ」


 そうだ。


 手の届く範囲であれば、十分なのだ。


 俺は何を望んでいたのであろうか。


 彼らは、俺と同じ存在ではない。


 同じ失敗は、絶対にしないのだ。


 「冷静になれ、ヒサギ」


 そうして、凍える夜の中。


 傷だらけになったレオは、眠るナキトを抱えて踵を返した。


 

 「随分派手にやったのお。レオの坊や」


 

 その時。


 低く、嗄れた声が、『始まりの森林』から聞こえた。


 声を掛けられたレオは、戦闘態勢には入らず、顔を顰める。


 間もなく姿を現したのは、1人の獣人。


 種族の特徴である頭上の耳は下がっており、目も同様に垂れ、深い皺を刻んだ、老婆である。


 だが、着用している服といえば真っ新な深紅のローブ。何ともチグハグな印象を受けた。


 「げ」

 「……ご挨拶じゃのお」

 

 どうやらレオは知っている人物のようだ。


 「して、何故にこんな、ここだけ雨が降ったような風になっておる?」

 「ちょ、勘弁してくれよ。報告してなかったのは、後で詫び入れるから――」

 「ほぉ。そこな少年が成したのか。天晴れじゃのお」


 獣人の老婆は、意に介さずレオに近付く。


 「今度『共同調査』で派遣するから、そん時にしてくれねえか?」

 「なるほど。それは一等楽しみになった」


 レオが嫌がる素振りを隠さずに言うと、老婆は矍鑠と笑う。


 「ほうかほうか。では、他にあの少年と、そこの少女がパーティか。これは垂涎ものじゃ!」


 老婆の独擅場が続く。


 ナキトから目を離したかと思えば、次にオットーとホウリを認めて楽しそうに笑った。


 「――んんっ?」


 そして目を滑らし、俺で止まった。


 彼女は不思議そうに首を傾げながら俺へ歩み寄ってくる。


 「――お主、名は?」

 「……ヒサギ、と申します」

 「何をしている者だ?」

 「……冒険者ギルドの職員として、ギルドマスターに雇ってもらっています」

 

 じっと俺を凝視し、そう尋ねる老婆。


 いやにしつこい奴である。


 ふむ、と頷いた老婆は、途端に声をあげて笑った。


 「――わははは! レオよ、随分英断をしたものじゃのお!」

 「……どうかしましたか?」


 一見不気味な老婆であるが、彼女の特徴やその他諸々を鑑みれば、正体に心当たりが出てくる。


 スプルースの中心、王座に着くのが人間で、側近がエルフの騎士団長。


 ならば、獣人の、深紅のローブを来た彼女は――


 「なんでもない! ――して、お主も此度の『共同調査』に来るのだろう?」

 「いえ、そういった辞令は出ていませんが」

 「いいや! お主には是非来てもらおうぞ!」

 「貴方にその権限があると?」

 「如何にも。……ああ、まだ名乗っていなかったな。アタシは――」


 老婆が俺を見たまま、口の端を歪めた。


 「国家魔導騎士団副団長、兼、魔導師団長の――アドルファ。真理を求める魔導師じゃ」


 老婆――もとい、アドルファは。


 場に削ぐわぬ、ギラついた目を俺へと向け、決して離さなかった。

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