塔の変化について

 彼は、やや淋しげな表情でそびえ立っていた。誰が見にくるわけでなくとも、おびただしい数の手足を外部にちらつかせながら天を仰いでいた。人間を遠ざけるために禍々しい外観を呈したわけではない。産まれ持った宿命なのだ。

 ある朝、一羽の鷹が吸いつくように彼の身体にとまった。珍しい出来事だったが、数分も経たないうちに鷹は飛び去ってしまった。その直後、豪雨が降ってきた。雨水は、長年にわたって付着した身体の汚れを落としてゆく。やがて自らを醜いと感じていた彼は驚愕することになる。彼の真の姿は予想よりも遥かに美しかった。鷹はきっと神の使いだったに違いない、そう思った。 

 その日から観光客で賑わうようになった。最初は悪くない気分だったが、日増しに増えてくると彼は複雑な気分になった。人間は単純な生き物だ。醜から美へと変化しただけで手の平を返したようにもてはやしてくる。彼のフラストレーションは訪れる観光客の数に比例してゆく。いよいよ観光だけでは飽き足らず、彼の身体に登る者が現れた。命綱の金具で表面を傷つけられた彼は憤慨し、人間たちを下敷きにして大地に倒れた。

 すべては土に還り、また新しい命を育む準備を始めた。闇からそっと光を手繰り寄せるように。

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