時を刻む者たち

 針時計は嫉妬していた。

 家の主の手の平でひっくり返され、時の刻みを助けられる砂時計のことを。自分はいつだって誰の手も借りずに針を進め、一生懸命働いているというのに、どうして砂時計ばかり優しくされるのだろう、と。

 或る日或る日、針時計は主の気を引こうと、わざと正午のタイミングで針の動きを止めてみせた。心苦しい企てではあったが、すべては砂時計のように気にかけられたいが為だった。すると、奇妙なことに家中の音がすべて止まり、主は台所に立ったまま動かなくなってしまったのだ。

 針時計は焦り、心臓の音をぼぉんぼぉんと打ち鳴らした。すると、主は何事も無かったかのように動き出し、せわしない日常も再開した。ほっと胸を撫で下ろすと、砂時計だけが動かずに止まったままだということに気が付いた。


「砂時計さんどうしちゃったの? 砂が途中で落ちずに止まってるよ」


 主の息子の声が聴こえてくる。


「そうだな、どうしちゃったんだろう。ちょっと待っててね」


  ——まただ。また、砂時計がひいきされ始めた。


「あれ、だめだな。壊れちゃったみたいだ。困ったな。針時計ならただ電池を変えるだけで直るのに砂時計は直しようがないな」


 その言葉に針時計の心は張り裂けんばかりに傷付いてしまった。それでも、時を刻み続ける自らの針。もう一度止まってみせようかと思ったその瞬間、今までにない感情が湧き上がってくるのを感じた。

 ——ああ砂時計よ。今まで散々嫉妬してきたけれど、こうなってしまってはもう張り合いも何もないではないか。もしかしたら僕は君と自分を比べることで苦しんできたのかもしれない。どうか死なないでおくれ、僕のたった一人の友よ……。

 針時計は生まれて始めて祈った。窓から見える澄み切った青空に向かって。


「あ、直った! わあい、砂が落ち始めたよ!」

「よかったあ」


 一連の様子を見届けた針時計は心から安堵し、静かに又時を刻み続けるのであった。

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