時を刻む者たち
針時計は嫉妬していた。
家の主の手の平でひっくり返され、時の刻みを助けられる砂時計のことを。自分はいつだって誰の手も借りずに針を進め、一生懸命働いているというのに、どうして砂時計ばかり優しくされるのだろう、と。
或る日或る日、針時計は主の気を引こうと、わざと正午のタイミングで針の動きを止めてみせた。心苦しい企てではあったが、すべては砂時計のように気にかけられたいが為だった。すると、奇妙なことに家中の音がすべて止まり、主は台所に立ったまま動かなくなってしまったのだ。
針時計は焦り、心臓の音をぼぉんぼぉんと打ち鳴らした。すると、主は何事も無かったかのように動き出し、せわしない日常も再開した。ほっと胸を撫で下ろすと、砂時計だけが動かずに止まったままだということに気が付いた。
「砂時計さんどうしちゃったの? 砂が途中で落ちずに止まってるよ」
主の息子の声が聴こえてくる。
「そうだな、どうしちゃったんだろう。ちょっと待っててね」
——まただ。また、砂時計がひいきされ始めた。
「あれ、だめだな。壊れちゃったみたいだ。困ったな。針時計ならただ電池を変えるだけで直るのに砂時計は直しようがないな」
その言葉に針時計の心は張り裂けんばかりに傷付いてしまった。それでも、時を刻み続ける自らの針。もう一度止まってみせようかと思ったその瞬間、今までにない感情が湧き上がってくるのを感じた。
——ああ砂時計よ。今まで散々嫉妬してきたけれど、こうなってしまってはもう張り合いも何もないではないか。もしかしたら僕は君と自分を比べることで苦しんできたのかもしれない。どうか死なないでおくれ、僕のたった一人の友よ……。
針時計は生まれて始めて祈った。窓から見える澄み切った青空に向かって。
「あ、直った! わあい、砂が落ち始めたよ!」
「よかったあ」
一連の様子を見届けた針時計は心から安堵し、静かに又時を刻み続けるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます