ACT.12 『月の御令嬢』


近況ノート



foris=foliaa Eブロック


先程までの雨が嘘のように上がり、

蒼い雲が、化粧ポーチの鏡のような小さな水たまりに映りこんでいる。

それは、プリズム。その流れは微速そのものであった。


「ここが地球なんだ」

「空気が...」

「息をすることが、こんなに気持ちいいなんて」

「心地いいんだ」

「地球ってすごいんだ」

それが月面育ちの月見の第一声。

まさに、11歳の少女を感じさせるとても瑞々しいものだった。


物陰からすらりとした足が光った。

「ちょっと、あなたが月からやって来たご令嬢?」

「月乃院...」


炎花が月見の名を発しようとした瞬間!



「月見!」

「それが私の名前」

月見が意地になって、メンチを切る。


「スタイルはあなたの方がいいみたいけれど」

「ルックスは私の方が美人ね」

月見がまくし立てた。否、それは、ただの意地っ張り。


「なんて失礼なの」

「本当にやっつけちゃうんだから」

「炎花いきます!」

「お手並み拝見!」


その瞬間、月見と炎花がニコリと笑った

少女というものは、いつだって瑞々しい。

それをその二人は、態度と行動で示してくれた。どこか2人を似ていたのかもしれない。


夕陽が映り込んだ頭上の雲は、より速度を増してきた。

二人とも、本気で戦いたいのだろう。

それが、二人の本懐。

恐らく。


「はぁはぁ」

「はぁはぁ」



月見と炎花が出会ってからどれくらい時間が経ったのだろう...。


夜空に浮かぶ三日月の巨大さが、

月見のプライドの大きさを物語っているようだ。

夏夜の生温かい空気が、2人のフラワー騎士たちの体を包みこむ


お互い凄まじい速さで攻撃を繰り出していは交わし、繰り出しては交わしている。

常人では速すぎて見えないのだ。



必殺技で相打ち、コンバットスーツがボロボロの二人。

しかし、二人の化粧が落ちないのは、お約束。



「月見ちゃん、私たち戦い合うのって馬鹿みたい」

「一時停戦にしてみない?」

「だって、私の必殺技を必殺技で返すなんて!」

炎花の能天気の声がこだました。


「えっ」

「うん」

あっさり返答する月見


赤た顔で、月見がつぶやいた。

「それでさぁ」

「あの、炎花ちゃん、好きな人いるの?」

更に顔を赤らめた炎花。


「月見ちゃん、それってストレートすぎるよ」

案外その気の炎花


ランサーブレイドを交えることで、二人の闘争本能が、恋愛感情に変わる事があるなんて。戦いによって粉砕された大きな岩のうえで、二人の指と指が絡み、唇がとろけ出した。

舌を入れる月見。


それを拒否した炎花。


炎花は動けなかった。それが月見と炎花を最初の出来事だった。

それでも、巨大な月あかりが二人を優しく照らしていた。


ふと月見がつぶやいた..。

「これが夜の風」

「髪が靡く」

これが、月見が感動した地球の姿であった。


ACT.13 『月のご令嬢 月乃院月見』終





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