ACT.24 『赤葡萄を供えましょう:二人の墓参り』


車窓から、朧雲をながめる彩聖と万理架。2人ともお揃いの白のワンピース、胡桃色の髪には黒のカチューシャを嵌めている。

京急能見台駅で下車する。


駅前の坂道を、ゆっくりと駆け上る二人。

この界隈では、場違いに目立つ2人。

それほど美しい。


ところどころ寄り道。

後、母の眠る墓前に到着。


「お母さん、来ましたよ」


「着いた、着いた」

「まずは、墓掃除しなくちゃね」


イトーヨーカドー近くの高台の墓地で、花を手向ける二人。

それと、お母さんが大好きだった赤葡萄を供えた。

彩聖の頬っぺのように赤い果実だ。


しかし、それも束の間..。

墓前で、感情が爆発する。

献花を乱暴に投げ出す彩聖

しだいに泣き出してしまう

いつもは可愛い顔がぐしゃぐしゃだ。

10歳の少女に、母のいない現実は極めて酷であった。


「何で、死んでしまったの」

「何で、いなくなってしまったの」

「何で」

「何で..」

号泣する彩聖..。

母がいないことが、これほど辛く、悔しいことなのか。


「いい加減にしなよ。彩聖らしくないよ!」

「こんな事したら、お母さんが悲しむよ!」

彩聖のか細い腕を、はたまた万理架のか細い腕が止めた。

彩聖が本気なら、万理架も本気なのだろう。


ポーチから母の写真を取り出す


「いつだって会えるよね」

「寂しいときはいつだって会えるって」

「ねっ!彩聖」


「うん」

落ち着く彩聖


いつもは能天気の万理架が大人っぽく、

いつもは冷静な彩聖が子供っぽく..。


母の墓を後にする二人


「今度はアルテミスで来ようね」


「うん」

「うん」

「そうだ」

「いつだって、お母さんに会えるんだ」


今日の一件で、少し成長したのだろう。

夕焼けが沈み、彼女たち二人の影も長くなった。


ACT.24 『-赤葡萄を添えましょう‐二人の墓参り』終



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